とある料理人から見た騎士
全く他人の視点です
俺はこの王国の城で働く料理人である。
実家が王都のそこそこ有名な料理店であり、将来的にはその店を継ぐことになる俺だが、その将来に向けて王城で経験を積んでいる所だ。
親父はまだ俺の料理を認めてくれてないからな。『まぁだ譲る訳にゃいかねぇなぁ』だと。そりゃジジイには敵わないけども結構成長したと思うんだが。
料理の腕を磨くだけでなく、できたらいい女も見つけられたらなぁなんて考えてるけどもこっちは難しそうだ。
敵が多すぎる。
なんで王城にいるやつはどいつもこいつもいい顔した男ばっかなんだ?
貴族の坊ちゃんたちはまあ身分的にも敵わないから仕方ないとしても、同じ料理人や庭師、兵士、騎士。平民出身のやつらでなんであんな整った顔なんだよ。女はみんなそいつらの話しかしない。平民出身の彼らなら使用人という身分でもまだ“もしかすると”というのがあるかもしれないからな。
ああほら、あいつ……あの、騎士。いっちばん俺が気にくわないやつ。
光の騎士とか呼ばれてて、誰にでも笑顔で接してて、優しくて、実力も申し分なくて。くそいいとこしかない。でも俺は裏が無さそうなあの優しさが気にくわないんだよ。だってそのせいでさ……。
「わぁ!美味しそう!いつも貰ってるけど本当にいいの?こんな綺麗なお菓子!」
「ああ、フロルにあげようと思って作ったから」
「そうなんだ。ありがとう、嬉しい!」
柔らかな笑みを顔いっぱいに浮かべる目の前の彼女はフロル、王城で働く使用人の1人。
城で働く内に知り合い、仲良くなった子だ。
そう、お分かりだろうか。俺はこのフロルに片思いしている。
茶色の髪、同じ茶色のくりくりした瞳。ずば抜けて美人という訳じゃない。でも、俺には彼女がとても可愛らしく美しく見える。ああ、恋ってこういうことなんだな。
特にこの、笑顔が好きだ。満開の花みたいに広がる笑顔が。
「そう言えばさ────」
「わ、光の騎士様だ!あぁ、今日も綺麗だなぁ、どうしたらあんなキラキラした髪維持できるんだろう?魔法なのかな?」
でもフロルは俺の気持ちには気がついていない。彼女の友人たちのように、この城にいるいい顔の男たちを見ては目を輝かせ頰を染める。
……はっきり言って辛いです。
特にフロルは光の騎士、シンが好きなようで彼を見かけるたびに俺がいてもいなくても関係なく食い入るように見つめるもんだから、恋をしている身としてもう負けている気分だ。
「肌も白くて……外で訓練してるはずなのにシミひとつ無いんだよね、不思議」
言ってることは恋しているような言葉じゃないんだけど、騎士を見つめる目がなんか熱を持った目でさ。見たことあるんだよな、この目。姉ちゃんが恋人を家に連れてきた時にしてた目。
あ〜辛い。
「わっわっ、こっち来たよ!何か言うことないかな……えっと、えーっと」
俺たちのいる方向に用事があったのか、騎士はこちらへ歩いてくる。
……仕方ない。
「こんにちは、騎士様。訓練でお疲れではないですか?甘い物、どうです?」
何やってるんだろう、俺。黙ってりゃよかったのに。
もしも最初に渡した菓子が、フロルが嫌いなやつだったらこっちをあげようと思って持っていた菓子。それを袋から取り出して騎士に差し出す。
俺の言葉に立ち止まった騎士は、まず俺の顔を見てから差し出した菓子に視線を移した。
「君は料理人の。これは君が作ったのか?すごい出来栄えだ。……いいのか?」
そりゃそうだ。俺が作れるのは料理だけじゃない。王城では菓子だって作るし実家でも甘い物売ってるし。しかもこれはフロルのため、と思って作ったもの。いい出来じゃなきゃフロルには渡さないからな。
「ぜひ。彼女にもあげた所でして」
これでフロルもこの騎士と話せる。……ほんと俺、何やってんだ。こんなことして。
無視して騎士が通り過ぎるの待てば良かったのに。
「は、はいっ!とっても美味しいんですよ!お菓子も、お料理も!」
「へえ。じゃあ、遠慮なく」
騎士に話しかけただけで赤くなっているフロル。可愛いけど、これはこの騎士がいるからで。ほんっっと辛い。
俺の手から菓子を受け取った騎士は、一口齧り顔を綻ばせる。
あ”〜クッソ!
俺は男の、コイツのこんな顔が見たい訳じゃないのになんでコイツの顔見て、あっいい顔、なんて思っちまったんだ!男のくせに、男のくせに!
中性的とかそう言うんじゃない、男らしいんだけどなんか綺麗なんだよ。ムカつく顔だ。
「どうですか!美味しいでしょう?甘すぎなくてどんどん食べちゃうから太りそうなんだけど、美味しくてやっぱりやめられないんです」
フロルが褒めてくれてる。
でもこの悲しさは消えないな。だって、フロルがこの騎士と話すのに俺の菓子が使われてるわけで。なんかチャンスを棒に振ってる感じっていうか。
「ああ、美味しい。さすが、だな。確か君の実家は王都に店を構えてたよな?菓子もあるのか?」
「え?あ、はい。売ってますよ」
フロルの方向いてたのにいきなり俺に話しかけてくるから反応できなかった。
「そうか。ありがとう。美味しかった」
騎士は俺からの返事を聞いた後、それだけ言うと行ってしまった。仕事か。
まだ菓子は手に持ってて、食べながら歩いてた。王城で食べ歩きをしてしまう彼の図太さはすごい。そして行儀が悪いはずのその行動も様になってるのはなぜなのか。
「すごいよ、光の騎士様とお話しできちゃった!みんなに自慢しなきゃ」
大した話はできなかったのに、騎士が去っていった方向を見つめてそんなことを言うフロル。
「そう、だな。じゃあ俺、行くわ。また今度」
「うん!またね!」
フロルの、騎士を思い出してから赤く染まる顔をこれ以上見ていられなくて俺は背を向けてその場を後にした。
あーあ、この恋叶うんだろうか。
シン「ああ、美味しい。さすが、だな。確か君の実家は王都に店を構えてたよな?菓子もあるのか?」
(これは絶対ローズに買ってやらないと。今度会えるのいつだ……?絶対買おう、とりあえず次の休みに店に行ってどれが1番美味しいか食べ比べないとだな。菓子だけじゃない、店の料理全部食べて……1日じゃ無理か。でも時間はあるからゆっくり吟味しよう。持ち帰りができるかもわからないしな。できなければローズが王都に来た時に……ってそんなのいつになるかわからない……ローズから来てくれるとは言ってたけど今となっては……ああくっそ、アイツめ……)




