シスコンになった後はなりふり構わなくなりました。
「お帰り。遅かったね」
「まだ起きてたのか。明日も早いだろ」
「ん、眠れなくて。どうだったの?実家の様子は」
「いや……ずっと居たい、って思った」
銀髪の騎士が実家のある村から王都の、友人たちと4人で住んでいる家へ帰ったのは日付が変わった頃だった。
2人の友人は既に寝ているらしく、居間には黒髪の男、ユーラ1人しかいない。
「ふーん。羨ましいよ、そんな風に思えるのは」
「ああ……そうだ、魔法設置しないと。屋根裏使ってないよな、そこにしよ」
いつもなら、ユーラが家族のことを口に出せば必ず何かしら言ってくるのがシンだ。だが今はユーラの言葉が聞こえていなかったかのように、ぼぅっとした表情で階段を上り始めてしまう。
「魔法?何の?」
「え?あ、転移だよ。転移魔法。別に設置しなくても出来るけどさ、あった方が何にも考えなくていいし魔力消費も抑えられるから楽なんだよな」
何とでもないこと、という様子でシンはそんなことを言った。止まる気配はない。
「待って待って、転移ってあの転移?え?転移?転移魔法?」
慌ててユーラはシンを追いかけ、階段を上る。
「そうだけど」
「駄目だよ何考えてるんだ!?」
この国で転移魔法は、勝手に設置することを禁止されている。光属性の魔法の使い手しか使えないとはいえ、どこでどう悪用されるかわからないからだ。だからいくら光属性の魔法の使い手が希少だとしても、犯せば捕まり処刑されてしまう。処刑内容はその時の王が決める。殺されることはないが、良くても一生幽閉、悪ければ隷属魔法をかけられ自我も制限され、自分で動くようにこともできなくなる。
「見つからなきゃいいだろ。見つからない、何も起こってない。そういうことだ」
おかしなことは言っていない、というシンの言葉にユーラは頷きかけ、慌てて頭を振る。
駄目なものは駄目なのだ。見つからなきゃいいとは言うが、見つかればどうなる?一緒に住む自分たちもそれを見過ごしていたと言うことで絶対捕まるに決まっている。別に希少な属性の魔法を使うわけでもないから、シン以外は死刑になるだろう。
「良くないよ!君がこんな考えなしだとは思わなかった。仲間を危険に晒してるんだよ!?それわかってやってる?……それとも別に僕たちは仲間でもなんでもない?」
シンとユーラたちは短くはない付き合いなのだ。
同じ時期に騎士となった4人は同じ平民出身ということで一緒に行動することが多かった。貴族と接するのが得意なオーマ、人に取り入り情報集めをするのが得意なサウラ、魔法の属性だけでなく実力が飛び抜けているシン、そして3人を上手くまとめあげるユーラ。周りは貴族ばかりであり、たったの4人で仲間割れするわけにもいかないということもあったが、気が合った4人はこれまで大きな衝突もなく過ごしてきていた。
「…………仲間だ。……でも無理。それ以上にこれはしなければいけないことなんだ。許してくれ、ユーラ。屋根裏には結界を張る。人避けと、認識阻害。これで気がつかなかった、って言えるだろ」
「考え直せ。自分たちだけ助かろうなんて僕はできないし、だからと言って君のそれを許して犯罪者にもなりたくない。だいたい転移先のものも設置しないと意味ないよね?」
「お前らを危険に晒すようなことは絶対にしないし、そんな見つかるようなヘマ俺がするかよ。転移先は問題ない。もうしてあるからな」
はぁ!?と。小さくない声を上げてしまったユーラにシンはうるさいぞ、と注意する。今は夜であってそれは最もな言葉なのだが、その前にシンが言った事の方が問題だった。
「どこに!?もう!?今すぐ解除してきなよ!こんなの反逆罪って言われても仕方ないからね!?」
落とした声でユーラはシンに詰め寄った。
だがシンは気にした様子もなく、横に首を振り拒絶を表した。
そんな言い争いをしているうちに2人は屋根裏へ入る小さな扉の前に着いてしまった。シンを入らせまいとユーラはその前に立ちふさがる。
「なんと言われようと、俺はやるからな。ユーラ、退け。自分で退かないなら実力行使だ」
「嫌だよ。君がなんと言おうと反対する。危険すぎる。考え直して」
絶対に退かない、と。手を広げ意思表示するユーラにシンは手を突き出す。
「わかった。お前がそうなら俺は容赦しない。大怪我しても俺のせいじゃないからな」




