シスコンになる前は一応まともだったんです。
何話か閑話が入ります。
薄暗い森の中、光を放ち魔物と戦う者がいた。
魔物の数は三体。人程もある大きな体躯と牙を持つ、どう見ても危険な魔物。
三体を1人で相手しているのは、整った顔に銀髪の男。自分よりも大きな魔物三体を相手しているのに余裕の表情だ。
男の手に持つ剣が閃き一体の魔物が胴体と首を離され、事切れる。
残りの二体は一体が倒されたことに怒っているのか、大きな唸り声をあげながら男へと同時に飛びかかった。
「ふっ……」
剣から白い光が溢れでる。
光を浴びた魔物の動きが僅かに鈍る。眩い光を放つままの剣を男が振る。瞬間、二体の魔物は絶命していた。
「ありゃー。流石光の騎士様だ」
男が剣を鞘に収めた後、もう1人の男がやってきた。茶髪の、不真面目そうな男だ。
息を切らすことも汗をかくこともなく魔物との戦闘を終わらせた男は、やってきた男を睨みつけ右手を向ける。
「死ね」
「うおっちょっ!やだやだ死にたくない!!」
男の手から光の弾が放たれる。真っ直ぐにやってきた男の頭を狙ったものだった。
「シン、やり過ぎだ。狙うなら下の方にしろよ。不能にしてやれ」
「オーマが悪いだろ。何度言っても懲りずに同じことを繰り返す。学ぶ頭が無いのか……あれか?俺から攻撃されるのが好きなのか?」
「ひ、酷いっ!?2人共酷すぎる!」
光は男の直前で搔き消え、3人目の男が現れた。今度は金髪の男。
彼らは、一応この王国の騎士である。
●●
「オーマはよく騎士になれたよね。同じことを繰り返して、自分より強い敵には勝てないよ?でもシンはやり過ぎ。君ならこう……そう、記憶を弄るとかできない?」
真っ黒な髪の優しげな目をした男に怒られる2人の男。
銀髪の男がシン。そして茶髪の男がオーマ。
シンは不機嫌さを隠すことなくそっぽを向いていて、オーマはいつもの事なのか、へらっとした笑顔だ。
「できない。それは闇の区分だ。出来たとしてもオーマの記憶なんて弄りたくない」
「皆さん俺に対して辛辣過ぎじゃありません?」
「わかるけどさ。理解できないなら頭の中から変えるしかないわけだし」
「あのー俺の知能がやばいみたいな話俺の前でしないで?影でも嫌だけど目の前でされたらもっと悲しいよ?」
「作りが駄目だから変えられないだろ」
オーマを完全に無視し、2人の男は話し続ける。
彼らは王国の騎士の中でも数少ない平民出身の騎士だ。
騎士はほとんど貴族で結成され、平民枠はほとんどない。貴族なら大した実力が無くとも騎士となることができるが、平民となればそうはいかない。
騎士の仕事場は主に王都付近であり、王城への出入りもほぼ自由。そうなると必然的に身分の高い者たち相手に仕事することが多くなるからだ。実力のない平民が王城へ自由に出入りできるなど貴族は許さないし、警護の仕事など安心して任せられないだろう。
彼らは一応は実力があり騎士となった身であり、弱いということはない。
「ユーラ、団長が呼んでる」
「団長が?何だろう、わかったよ。ありがとう、サウラ」
また1人増えた。先程来た金髪の男だ。
ユーラ、と呼ばれた黒髪の男はすぐにその場から去っていった。
「1人で突っ走るな、だってよ、シン。今日の目的は……」
「新しく入ったお貴族様たちに手柄を立てさせるため、だろ。そんなの何度も聞いた。でもこの森に魔物が増えているのは本当であって、お貴族様の遊びには付き合ってられない。ちんたらやってないでさっさと魔物を倒さなきゃ増え続けるばっかりだろ。それにあんな飾りみたいな剣で戦えるかよ」
シンはユーラに怒られていた時よりも不機嫌そうになり、忌々しそうに離れた場所に固まる貴族出身の騎士たちを睨み付けた。
それを見た金髪の男、サウラは慌ててシンの視線に割り込む。
「おいおい、これ以上あいつらに何か因縁付けられたらどうすんだっつーの。俺らにとっちゃ遊びに見えても貴族には貴族のなんか大切なもんがあんだろ?多分。見栄とか。察してやれって」
貴族たちに囲まれる中平民出身の騎士、というだけでも充分やっかまれる対象になる。平民出身は貴族出身より実力は上のことが多いからだ。平民に負けるなど……!ということなのだろう。だから大抵の平民出身の騎士は貴族の気を逆撫でないように機嫌を伺い、目が合わないようにし、戦闘では前に出過ぎずサポートする、というようなことをしていた。
だがシンは機嫌を伺い目立たないように過ごすことなどなく、訓練では貴族など関係なく相手を打ちのめし、実戦では存分に実力を発揮した。
「『平民出身なので貴族の世界の常識には疎いのです。申し訳ございません』……これでこの言葉言ったの20回目達成」
「おーおめでとう。じゃなくてだな。おめでとうでもなんでもねーよ。もうな、オーマを見習え。頭はねぇけど貴族たちのご機嫌取り上手いぜ」
「それ褒めてない俺悲しい!」
今まで空気だったオーマが悲しそうな声を上げたところで、集まれと声がかかった。
森の中で数十人が一所に集まるのはだいぶ無理があったが、どうにか固まって集まっている。
「ただいま。なんか、シンの光魔法使って見せて欲しいみたい。次魔物に遭遇したら、だけど」
帰ってきたユーラが抑えた声で告げる。
聞いた途端、シンは嫌そうな顔をした。
「どうせギリギリに抑えて、とか言われんだろ。くっそ怠い……」
シンの魔法属性は光。
この王国で光魔法を使う者は今のところ彼と後2人のみ。騎士は彼だけだ。
希少な光魔法を使う者は出来る限り囲っておきたい、というのが国の本音。であるからシンが騎士として貴族出身の者たちをいくら喚かせようと何の処分が下ることもない。
「ちょうどいい機会だからな、光魔法が魔物に対してどれだけの効果があるのか見せてもらおう。シン、次に魔物に遭遇したら光魔法を使ってくれ」
前の方に立つ騎士団長の男が4人に向けて声を張り上げる。団長の言葉を聞いた貴族たちは揃って不満そうな表情をし、シンは大きな溜息を吐いた。
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