とある騎士がシスコンでおかしい
いつだかの令嬢視点です
私はとある王国の貴族。まあ私のことはどうだっていいの。その他大勢の1人でしかないのだから。
この世界は、多数の乙女ゲームが合わさって存在するおかしな世界。カオスだわ。この前貴族の令嬢が1人処刑されたのよね。なんでも、身分を考えない恋をしていたのだとか。周りに迷惑をかけまくって、第一王子の婚約者である令嬢の暗殺を企てていたらしいわ。しかもこれ、片思いなのよ。一方的に押し付ける愛ほど見苦しいものはないわね。
頭のいってるヒロインだったわ。王子に向かってタメよ?あり得ないわね。忠告はしたのよ。でも聞かれなかったわ。
『あんた誰よ。モブですらないのに何で関わってくんの?舞台にも上がれてないんだから邪魔しないでよね』って。
ええ、後日きちんと報復させて頂きました。
おかげで第一王子の婚約者のご令嬢に、仲間だって判断されたけれど仕方ないわね。彼女も転生者なのよ。後で誤解を解かなくちゃ。
私はどこにも属さない。中立万歳、よ。
この世界は楽しくて面白いことばかりだけど、それを楽しめなくなるもの。政権争いとかまっぴらごめんだわ。ゆっくりのんびり暮らしたいの。
可愛い弟を愛でて生きていければそれでいいわ。……私、あの騎士に影響されているのかもしれないわね。あのシスコンはやばいもの。まだ周りに気がついている人はいないみたいだけれど、時が経つにつれて程度が増しているのがわかるわ。
でも年下の家族がいたら可愛いのは確かね……。年が離れていれば離れている程、可愛いと感じるもの。
少しはわかるわ、彼の気持ちが。
そう、この前彼と会った時に相談されたのよ。なんでも妹さん……ローズが村を出て旅するんですって。
●●
「行かせてあげたいって思う自分と絶対駄目許さないなんなら魔法使ってでも考え変えさせるって思う自分がいて困ってるんだ」
「……そうですの」
王城の中にある庭園で私とその騎士は話していた。
なんでもその庭園は、三代前の王妃の霊が出るとか歴代の王たちの隠し子が秘密裏に殺されてきた場所で呪われているだとかで絶対に人が寄り付かない場所なの。見回りの兵士でさえチラ、と見ただけで行ってしまうのよ。
私とこの騎士が話すのにちょうどいい場所でもあるわね。私はそういうのは気にしないタイプだし、この騎士もそんなことは気にしないらしい。
まあ怨霊だとか呪いだとか、いるにはいるしあるにはあるんでしょうけど私たち光属性の魔法を使う者にとって大したことじゃないわね。全て浄化するわ。かかってらっしゃい。
で、なぜそんな場所で私たちが話していたかと言うと、私が王子と婚約者様に呼び出された帰りにこの騎士に会ったことが原因。人の目がある場所で、あの笑顔で、相談があるんですなんて言われたら断れるわけが無いわ。
……考えたらこの騎士も身分を考えない非常識な者ね。希少な光属性の魔法を使う者ということで優遇されているし、望めば貴族になれるでしょうし、王家から縁談の話もあったそうだけど、彼はそういった“特別待遇”を全て拒否した身。ただの王国騎士でしかない。
だから身分は私の方が上。それなのに突然向こうから話しかけるなんて。
まあそれを注意する者は誰もいないわね。私は【氷鉄の魔女】であって怒らせたら何をするかわからない者だなんて思われていて、彼は国の貴重な人物だもの。
そうして付いてきていた護衛を見張りに立たせ、この庭園で人目を気にすることなく私たちは話すことに成功しているの。全く、後が面倒だわ。
「後者の方が勝ってるからもう本能に従ってローズを拉致するべきかな。……いや、あいつを消せばいいのか。ローズの嫌がることはしたくないし、俺がやったってバレなきゃいい。あいつ消そう」
はぁ……さっきこの騎士を見てキャーキャー騒いでいた女たちに今の言葉を聞かせたいわ。
「……それも妹さんは悲しむのでは?」
「……ああ、その可能性が高いのがあいつを憎たらしく思う理由の1つなんだ。前に言ったよね?あいつ、ローズの部屋に忍び込んだことあるんだ。絶対危険だろ?」
今まで話を聞く限り、ローズは転生者であり常識を持った人。あいつ、というのは攻略対象の1人であるノアのこと、この騎士からすれば妹を奪う者。なんなのこれ。
ローズはたぶんノアとくっ付きたいということはわかったわ。でもそうすると最初に幼馴染みの村長の息子、アレクをヒロインと取り合ってたらしいというのがわからなくなるのよね。
ノアとくっ付きたいのならアレクをヒロインと取り合う理由はないもの。
それにヒロイン。彼女が1番謎なのよ。彼の話によれば彼女はどの攻略対象にも気があるようには感じない。というか、ローズと仲良くなりたいだけ……に聞こえるわ。最初はアレクを取り合ってたわけだけど。
わからないわね、ぐちゃぐちゃすぎて。
「ええ、聞きました。彼は故意にではなかったとも聞きましたわ。……1人で旅させるより、旅慣れた方がいらっしゃった方が安心ではないですか?妹さん、前からそのつもりだったのでしょう?」
「そうなんだけどさ〜。あいつは、あいつだけはいやなんだよ……」
そう言って騎士は地面に座り込んでしまう。
剥き出しの土が覗くそんな場所に座り込めば青と白のその騎士服はすぐに汚れるわよ……。なんて言える雰囲気なら良かったのだけど。
この騎士の出すオーラはそんな軽口を許すようなものではなかった。
……なんでそんなことで悩んでいるの、この残念なシスコン騎士は。ああ、その村に行きたいわ。とても気になる。特にヒロインが。
シ(スコ)ン
…………はっ。




