第36話 信者は陰ながら守ることにしました。
シーナ視点
私は女神教信者のシーナ。
最近の悩みは信仰対象が居なくなってしまいそうなことです。
私に女神を引き止める力は無かった……。ていうか最初から出て行くつもりだったって何それ。なんでよ!
ゲームじゃそんな素振り無かったよ?正規のルートでも、隠しルートでも。
無かっただけで思ってたとか?いやそんなの難しすぎる。あり得ない。
なんでこんなことになったんだろう?やっぱり私、失敗してたのかな?現実だと数値でわからないからね。じゃあ悪役勝ちの私バッドエンド!?え、そんなの嫌!
バッドエンドなんて!女神と会えなくなるなんて!無理!耐えられない!!
「よし、こうなったら道は1つだ」
女神が考えを変える可能性はとてつもなく低い。だったら私が考えを変えるべきだ。
「るーくん。荷物まとめて、食べ物集めて。私は水の準備をする。この村出る準備して」
「……うん、しーちゃんがおかしいのはいつもの事だし、僕の意志が無視されるのもいつもの事だけど、しーちゃん1人じゃすごく心配だから仕方ないよね」
確かにるーくんに何も言わず勝手に決めちゃうのは良くないか……。
「ご、ごめんね。嫌ならいいよ、無理しないで。……いつもおかしい?」
「嫌じゃない。僕、前から冒険者になりたいって思ってたの。ちゃんと準備していけばここに来た時みたいにはならないでしょ?」
「え、あ、うん。あのさ、私いつもおかしい?心配される程?」
「保存食なんて分けてもらえないけどどうするの?わけて貰ってるのはナマモノだよ?あの畑の植物はまだまだ収穫できないし」
「魔法で保存食に変えられる。じゃなくてさ、るーくん。私おかしいの?年下のるーくんに心配される程おかしいの?どこがおかしいの?」
私がいくら問いかけてもるーくんは答えてくれませんでした。
●●
女神を拝む時間を削って準備したら、1日で終わった。るーくんがなんかすごいたくさん食べ物貰ってきたんだよね。何したんだろう。あれか、最近おばさんたちがるーくんをよく可愛がってるからそのおばさんたちにもらったのか。
魔法って、思ったことを世界に現象として表す手助けをしてくれるようなものだと思ってる。出来ないこともあるけど、こうかな、って思いながらやったら大抵のことはできちゃう。便利。
そうして私はるーくんが持ってきた食べ物(野菜、果物、少しの肉、米、調味料の中でも主に野菜と果物と肉を指す)を加工することに成功した。
そう、フリーズドライ風保存食。魔法便利。フリーズドライって凍らせるやつなのに風魔法でなんでできたのかはわからない。勢いよく吹いて冷たくするとか?ないな。でもできたからいいよね。一口大に切って、すぐ使えるようにして。
肉は乾燥させて干し肉だ。ジャーキーみたいなのって考えたら出来た。
え?私がそれ使って料理できるのかって?できるに決まってる。前世じゃ女神に食べてもらうなら?って考えながらネットのレシピ見て料理作りまくってたんだからな!味は保証しない。るーくんには好評だった。
これを1つの大きな袋にまとめて、持って長距離移動できるようにして……。リュックが必要だね。私の裁縫の腕の見せ所。私、物作りは得意らしい。女神にあげた髪飾りもうまく出来たし、女神のためって考えたらなんでもできる。
……女神のため?あれ、これって私の独りよがり?ま、まあいいよね、私が女神を幸せにできればそれでいいの。最終的に幸せになってもらえればいいの!できたら私が幸せにしたい、ってだけ。だからついていかないとね。見守るんだ。
魔法だって結構使えるようになったんだ。隠れてついていって、影で女神に迫る危険を全て排除する!
うわ、考えただけでにやけてくる。影で守るとか信者の鑑!私最高!
結構荷物多くなったな。持って長距離歩けるかな?ま、最悪飛ばせば……そうか!どれだけ多くしても魔法でちょっと支えればどうとでもなるよね!魔法便利!ずっと魔法かけてなくても大丈夫な魔道具とかないかな。るーくんのためにも作るか。
「しーちゃん、これだけだと何かあった時反撃できないよ?魔法で頑張る?」
「そっか……刃物か。料理にも使うし……あ、この包丁でいいか」
「…………しーちゃんがいいって言うなら僕は何も言わない。ただ、食べ物切るのと身を守るために切るものが同じでいいの?」
あんまり良くないですね。
この世界の魔物、動物型が多いけど虫が巨大化したみたいなのもいる。虫切ったのと食べ物が一緒はちょっと私耐えられない。
別に私、虫は触れるけど巨大化したのは……ね。切ったら変なの出てきそう。
そもそもそんな虫と包丁で戦おうなんてアホか。魔法だけ使えばいい、って思ったけど魔力が無くなったら?
刃物は準備するの難しいかも。
なら鈍器だ。
「岩……だと重いよね。ん?あ、それこそ魔法使おう。持ってる分には重くないけど、ぶつけたらちゃんと重力仕事するように。さて、切り出して来よう」
風の刃を使えば岩くらい簡単に切れる。驚くくらいに簡単に。
「ん、それなら大丈夫じゃないかな。ねぇしーちゃん、武器僕も持ちたい。2つ作って?」
るーくんに岩の鈍器か……本人が持ちたいって言ってるなら持たせてあげたいけど、るーくん敵意を持って来る相手に攻撃なんてできるのかな。ていうかやらせたくないな。るーくんは天使のままでいてもらいたい。
「るーくん、戦える?遊ぶんじゃなくて、間違えたら死んじゃうの。終わりなの。私が戦うから、るーくんは心配しないで」
るーくんの魔法属性は雷。どれくらい使えるのかはわからない。あんまり教えてくれないし。雷起こせるって言ってたけど、どのくらいの規模なんだろ?手元くらいかな?
「うん……でも僕、一応男、だし……守られるじゃなくて守る、がいいな。……でもしーちゃんなら守らなくてもしぶとく生きてるか……なら……いや……うーん」
いやそこで悩まないで?
私だって死ぬ時は死んじゃうんですが。そんないくら攻撃してもしぶとく生きてて死なない敵みたいなさ。なんで殺せないんだ!って言われる系の人じゃないよ?か弱い女だよ?
「うん、しーちゃん。僕が守る、じゃなくて僕自身を守るために武器が欲しい。だからお願い」
うん、じゃないよ。るーくんの中で私はどんな立ち位置なんだ。どんな風に思ってるんだ。
「な、なんか嫌。るーくんの中の私像を変えてもらうまでは嫌。はっはっはっ!大人気ないとでもなんとでも言うがいい!!」
「…………しーちゃん……そういうとこだよ……」
私、泣きそう。
そういえば、村を出るってことををアレクに言ったらついてくるとか言い出して大変なことになったんだけどどうしよ。
「しーちゃん1人とか心配すぎるし……」
「シーナ1人とか絶対無理だし……」
「でも野生化して結構生きてそう」
「わかる。自然に適応してそうだよな」




