第35話 一周回って気持ち悪い。
『それで自発的行動を抑制すると良くないとかなんとか。自分から言い出したことを俺の気持ちだけで反対するのは駄目って。まあさ、確かにその通りだな、って俺も思ってさ。だからいいよ、行ってきな』
ノアとノアのお父さんが帰った後、兄さんから連絡があった。
まだ反対したいような感じの声だったけど、いいと言っている。
「本当にいいの?」
『いいって言って欲しかったんじゃないの?駄目って言って欲しかった?』
「ううん、いいって言って欲しかった。ありがとう」
ちょっとは渋ると思ったんだけどな。あっさりしてる。
『どういたしまして……はおかしいか。俺もさ、ローズは大事だけど、ずっと安全な村にいてほしいけど、それでローズが何の経験も出来ないままっていうのは良くないよな、って思って。ていうか知り合いに言われて気がついたようなもんなんだけどね。他の人とは違うご令嬢がいてさ。僕より年下なはずなのにしっかりしてるんだ。たったの2歳だけどね?でも他のご令嬢とは違うね』
令嬢。
他のご令嬢とは違う。もしかして兄さんはその方に気があるのでは。
「綺麗な人?」
『ん?ああ、綺麗だよ。色々言われてるけど彼女を狙ってる人も多いみたいだ。教養も立場も申し分ないしね』
兄さんは平民から騎士になったからその人とは一緒になれないってことかな?そもそも両思いなのか片思いなのかが気になりますね。
「へぇ……」
本気なら応援したいなぁ。どんな人なんだろ。いい人ならいいんだけど。
『周りは色々言うんだけどね。魔女だとか、氷の女だとか言ってて。話せばちっともそんな女じゃないってわかるのにね?彼女自身が見られてなくてかわいそうだよ』
むむむ。これは本当に兄さん、その人に気がありそう。だってそう思うってことはそれだけその人と話してるってことでしょ。
私、応援します。兄さんを全力で!身分の差なんて関係ない!2人の逃避行……になったら会えなくなるから嫌だけど、それが幸せへの道なら仕方ないよね。人の恋路は邪魔しないって決めたから。そんなの醜いしね。
「兄さん、頑張って」
『え?あ、うん。ローズが居なくても頑張るよ。この魔道具は絶対に肌身離さず持ってるんだぞ。いつでも連絡しろよ。俺からすればいいのか。毎日してやるからな。ちゃんと反応してくれよ?』
いや、そう言うことじゃないんですけど。
まあ妹にそんなこと言いたくないか。知らないフリしときますね!影ながら応援するから。
「毎日?兄さん仕事で疲れてるでしょ。無理しないで」
無理せず私を気にかけず、その方と幸せになってくださいな。
『ローズは俺と話すのは嫌なのか……?』
「嫌じゃないけど……でも兄さん疲れてるのに私のために時間割いてもらうなんてできない」
私じゃなくてその人に割いてほしいよね。もう私のバッドエンドは回避できてるし、他の人に気を回す余裕あるんだ。身内なら幸せになってほしいもんね!
『……ごめんな、ほとんど俺のためなんだ。ローズが旅に出たらどこにいるのか、怪我してないか、辛い思いしてないか、心配で心配で何も手につかなくなること間違いないから。毎日ローズが無事なのか確かめないと気が休まらないし、そもそもそんな状態じゃローズが足りなくなる。ローズが、嫌、なら……我慢する。だから……遠慮なく……嫌って言っ……わないでくれ……ローズに嫌われたら俺、俺……』
う、うーん。これはまずい。こんなんじゃその人に引かれちゃう。
兄さん、成人してる大人がそんな悲しそうで今にも泣き出しそうな声出したら駄目だよ……。しかも相手は妹。
シスコンが度を超してる。
「本当に嫌じゃないから!毎日話すのも、兄さんのためになるならいくらでも話す!兄さんのこと、好きだよ」
『本当か!?良かった、これで心置きなくローズと話せる。夜しか話せないけど、眠くなったら寝るんだぞ?俺はローズの寝息だけでも聞ければそれでいいんだ』
いや……なんかそれは嫌だな。度を越しすぎてなんか……うん、気持ち悪い。
「う、うん。じゃあ、おやすみなさい。明日も頑張って」
『おやすみ。出発はまだだろ?出発の日が決まったら教えてくれ。見送りに行くから』
「え。でも昼間だろうし兄さんしご────」
『抜けてもバレない。バレるような真似はしないしローズの見送り以上に大事な仕事なんてない』
さいですか。




