第34話 耐えるなんて無理なのでは?
主人公視点に戻ります。
「いやぁ、ナラルさんに預けるのは最初不安だったんですよ。でもそれは間違いだった!安心しかないですなぁ!」
「ありがたいお言葉!大事な娘さんですからねぇ、1番に守りますよ。いやはや、こんな素敵な娘さんを預からせてもらえるのは本当に嬉しいことです」
「素敵だなんてそんなねぇ。その通りだけど。ナラルさんは人を見る目がある!だから安心して預けられますよ!」
「無事にお返ししますからね、待っててくださいよ。また飲みたいですしねぇ!」
「ああ、それは同意見です!ぜひまた飲みましょう!」
男2人は完全に意気投合している。
それを私と母さん、そしてノアは苦笑いしながら眺めていた。
ノアとノアのお父さんが挨拶に来たいと言っている、って母さんに言えば思った通り明日にでも大丈夫と返ってきた。
私が大丈夫じゃない。
あんな恥ずかしい思いをしてしまった後ですぐに会うなんてできない。
でもそれは私1人の事情。
朝起きて『いつでもいけるって言いに行きなさい』と母さんに言われても、会う決心がつかなくて私が家でグズグズしている内に母さんがノアのお父さんにそれを伝えに行ってしまい、その日の夜に来ることになってしまった。
ご飯を一緒に、と言ったらしい。
ノアは普段と変わらない笑みを浮かべていて、ノアのお父さんは少し緊張した顔。
最初は父さんも難しい顔してたのに母さんがお酒を出してきた辺りから硬い空気は消えてしまった。
そして今に至る。
「ノアくんはお酒は飲まないの?」
「僕はあまり飲みませんね。おや……父と違って弱いので。すぐに酔ってしまうんです」
ノアは母さんと話してる。私はまだ昨日の恥ずかしさがあってノアを見ることができない。
────『わからなくて大丈夫です。僕は、ローズのそのような所も好きですし、ローズが素っ気なくてもそれは相手を嫌っているからではないということもわかっているので』
なぜだか一語一句全部覚えている言葉。
その後に向けられた微笑み。
駄目だ、思い出したらまた恥ずかしくなってきた。
「少しならいけるんでしょ、ローズ、お酌してあげなよ。……ローズ?あんた顔赤いよ、もしかして飲んだの?」
「えっ?飲んでないから。……ちょっと外出てる」
「どうしたの。具合悪い?」
「大丈夫だから」
ノアと同じ空間にいることができない。思い出しちゃうんだよ!旅どころじゃないな、これは。
玄関から外に出て、家の前で頭を抱えて座り込む。顔が暑い。
この村の辺りじゃ四季なんてほとんどなくて、いつも秋と春を繰り返してるぐらいの気温で過ごしやすい。冬が苦手な私にとってはありがたい場所だ。
四季がなくて植物とか違うんじゃ?って思ったけどそれは元が乙女ゲーの世界だからなんだろうね、なんの影響も受けてないみたい。
今は秋くらいで、夜になると少し肌寒い。
辺境の村でも明かりの魔道具はあって、夜に外へ出れば真っ暗、ということはない。そんなに多くないけど所々街灯のように魔道具が付けられてる。
「はあぁぁぁぁぁあああああああ」
大きな溜息を吐く。
これからずっとノアといるんだよね。あの顔を見てないといけないんだよ。耐えられるかな、私。
普通にいる分にはいいんだ。問題は、不意打ちのあの言葉、あの表情。なんだよあれ。あんなの向けられたら男性経験ないお嬢さんはみんなイチコロだぜ?
……誰にでも向けてんのか。
そうか、だからあんな言葉がすらっと出てきたわけだ。
なんかそう考えたら恥ずかしさが薄まってきた。よし、大丈夫。
と、立ち上がって戻ろうとした時だった。
家の扉が開き、長い髪をうなじで1つにまとめた男が出てくる。
「ノア」
大丈夫じゃない。ノアの顔を見た途端に昨日のあの笑顔を思い出してしまう。あ〜イケメン!
「大丈夫ですか?落ち着いた?」
「大丈夫。もう戻る」
だから行ってください。
そんな私の思いは届かず、扉を閉めたノアは私へと近寄り手を顔に近づけてきた。
何、何されるの。何か付いてますか。
手を避けるように後ろに下がる。やだ、何か付いてる?ご飯粒とか?それこそ昨日のより恥ずかしくない?
慌てて自分で顔を触るけど……何も付いてないよ。
ノアを見れば、いえ暗くて表情はよくわかりませんでした。
「何。どこに付いてる?できたら忘れてほしい」
両手でこんなベタベタ触っててわからないってことは付いてないんじゃ、と思うけどもしも、がある。
「付いてる……?何のことです?」
あれ。違う?
頭の中がハテナでいっぱいの私に構わず、ノアがまた手を伸ばしてくる。また来るとは思わなかったし何が何なのかわからなかったから私はそのまま突っ立っていた。
「やはり暑いですね、熱があるかもしれません。横になるべきでは?」
少しひんやりと感じるノアの手が頰を包む。おっきいな、男の子の手だ。
……じゃなくてですね。
「問題ない。すぐに行くから先に戻っていてくれないかな」
あまり早すぎない速さでノアの手を退け、離れる。
もっと暑くなるからやめてもらいたい。外に出てて良かった。このくらいの暗さじゃ私の顔色なんてわからないから助かった。
「そう、ですか。わかりました。体調が悪いのなら無理しないでくださいね?悪い時に無理をするのは旅をする上で1番良くないことです」
私が退けたままその場に止まっていた手をノアは私の頭に移動させ、軽く撫でると家の中に戻って行った。
残った私はまた頭を抱えて悶絶するしかなかった。
感想頂きました!
ありがとうございます!!!
旅立つのはまだ少し先になりそうですね…




