第32話 青の男の思い
まだノアです。
書庫に居れば必ず彼女、ローズはやってきた。
来なくても、本を読むのは嫌いじゃない。読んだことのない本もたくさんあったから楽しかった。
ローズと書庫で過ごし、少なくても言葉を交わす内にローズのことを僅かずつ知ることができた。
面白い子だと、感じた。
ずっと村長の息子アレク一筋でいたのに、もうちっともその気配はないし、今まで書庫に行っている気配なんてちっともなかったけど、本をずっと読んでいるし。本を読むような子には見えなかったから。
絶対に僕を真正面から見ないことは不思議でしかなかったけど。なんでだろう?
自意識過剰……というわけではないけれど、僕の外見はそこそこいい部類に入るんだと思う。出会ってきた女の子たちの態度を見れば、それとなくわかってしまう。
でもローズはそういった思いで僕を見ていない、というわけではなさそうだった。
あれかな、僕の服装がいけなかったんだろうか。僕は親父によく服装をきちんとしろ、って言われるから。髪については肩を越した時点で何も言われなくなった。なぜだか切ってもすぐ伸びるから面倒になって切らずにいたら、こんな長さになってしまった。
書庫で大抵ローズが読む本は闇の魔法についての本だ。彼女が使う魔法が闇属性の魔法だから。
闇の魔法。
僕にとっては良い思い出のあるものではない。僕が親父を攻撃し、大怪我をさせてしまった原因のものだから。彼女は悪くない。悪いのはあの女を怪しまなかった僕たちであって、彼女を悪く思う理由にはならない。
でも少し意地悪をしたくなってしまった。
『何故彼らは闇に魅せられたのか』なんて題名の本を読んでいるローズに向かって僕が経験したことを一方的に告げた。
ローズは、眉を寄せたり目を丸くしたりしながら僕の話を聞いていた。少ししか表情は動いていなかったけれど、話しながらずっと見ていればとても良く変化するとわかる。
──────『私は魔法をそうやって使うつもりはない』
その言葉は、はっきりと告げられた。何か決心したような、そんな感じの声音だった。彼女は今まで出会ってきたおかしな闇属性の魔法を使う者たちとは違う。
そう感じた瞬間だった。
少し前からローズと教会を出ると、シーナが僕たちを隠れて見ているのに気がついていた。人の気配は本能丸出しの魔物より分かりにくいけれど、戦闘経験のある者ならわからないことはない。
ある日、シーナと一緒に来た男の子が教会を出た僕たちへとやってきた。シーナは離れた所に隠れてこちらを伺っている。
僕はローズと別れ、シーナへ話しかけることにした。
見えない位置から移動して後ろから近寄り肩を叩く。シーナは面白いように飛び跳ねて振り向いた。
僕はシーナがローズへ何か企んでいる、とそう考えていた。シーナの言葉もそれを匂わせるものだった。
だから僕はシーナへ、ローズは貴女へ屈することはないと伝えたのだ。
でも返ってきた言葉は僕には理解できないものだった。
『やった!転生しても隠しルートはちゃんとあるんだ!待ってろ私の嫁!!』
転生?隠しルート?嫁?
シーナは、女性のはずで。“私の嫁”という言葉は出てくるはずがない。
どこだかの国では同性の婚姻が認められていたけれど、普通は男女であって、僕には同性なんてちょっと考えられない。
だからその言葉ではシーナがローズへ何か企んでいないという結論は出なかった。逆に何かするのでは、という思いが強くなってしまった。悪い人ではないと判断したローズが害されるのは、あまり良い思いはしない。
夜に僕は彼女が大丈夫なのか見に行った結果、女性の部屋へ侵入し捕らえられるという最悪のことを起こしてしまった。
異世界では同性愛についてまだ理解がないかと思いましたので、ちょっと考えられない、にしました。問題ありましたら言ってください…。
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