第31話 青の男の思い
僕は幼い頃からずっとこの世界を旅していた。どこかに留まって過ごしていた時は無かった。
母の記憶はほぼ無い。僕を産んで数年後に病気で亡くなったと親父から聞いた。ぼんやりと覚えているのは、陽だまりの暖かさと僕に向けられた穏やかな笑顔。
記憶に無いからか、悲しいと感じたことはない。親父と同性だからということもあるんだろう。
自分の状況がおかしいと思ったことはない。
母はいないが、親父との旅は楽しいものだから。
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その村はよくある辺境の村と良くも悪くも同じような村だった。
辺境の村にしては豊かで、住む人たちの雰囲気が明るい。
よそ者を嫌い、受け入れない。
僕と親父は旅人で、すぐに出て行くとわかっているからか暖かく迎えられた。頼めば笑顔で答えてくれ、親父の足が無いこと、僕と親父がギクシャクとしていることにも何も言わないでくれた。
この村に来た時僕は親父に攻撃したこととそれを覚えていないことを後悔していた。
ここまで親父と2人で旅し、親父のおかげで生きてくることが出来た。親父のことは尊敬しているし、とても大切だ。
でも僕は親父の足を奪い、それを覚えていない。親父は大丈夫だと言っていたが、僕を止めるのは大変だったはずだ。
そもそもそんなことになったのは僕のせいなのに。
あの女から離れないと、と。親父はそればかりを言っていた。休もう、と僕は言ったけれど進めと親父に返された。親父の判断で間違ったことは一度もない。僕の判断より、親父の判断に従うべきだ。
血が足りず、青い顔をした親父を抱えて着いたのがこの村だった。
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その村には、最近来たらしい少女がいた。人攫いたちから逃げこの村に来たという少女が。
少女は少年を連れていた。彼女たちは村の人たちから歓迎されていなかった。普通の辺境の村によくあることではあるけれど、僕と親父は暖かく迎え入れてくれたから、少女たちが歓迎されていないことに驚いた。旅人はよくて永住はよくない。なんの違いがあるのか、と。
最初は、興味本位で彼女を見に行った。
少女は村長の息子に村を案内してもらっている最中だった。
腰まである長くふわふわの金の髪に、くりくりとした大きな桃色の瞳。第一印象は可愛らしい女の子、だ。
しばらく2人を影から眺めていたら、面白いことに気がついた。
村長の息子には許嫁がいるらしく、少女が彼に近づくことを良く思っていなかった。許嫁の彼女は、彼と少女が2人でいる所に現れては少女を牽制する。
だけど少女が村長の息子の彼にベタベタとくっついているのは彼女の前だけであって、彼女がいなくなった途端にそれとなく離れていく。
彼はだんだんと少女に惚れて行っているみたいだったけど、僕が離れて見ている限り少女は彼には全く気がない。
──────面白い。
なぜ少女がそんなことをしているのか僕には見当もつかない。だけど面白いことに変わりはない。僕は彼女たちの観察を続けることにした。
許嫁の彼女のお兄さん、シンに親父の足を治してもらってから、ずっとそんなことを続けていた。いつの間にか、親父との仲も元どおりのふざけ合う仲に戻っていた。
シンに聞いて彼女たちの名前を知った。村にやってきた少女はシーナ、村長の息子の彼はアレク、シンの妹のローズ。
ある時、彼女たちの関係が変化した。
アレクに近づくシーナを牽制していたローズが、ピタリとそれを辞めたのだ。
ローズはそれを辞めた後、教会の書庫にこもるようになった。
僕は彼女が書庫で何を読んでいるのか気になって、書庫に入れるよう、シスターに頼み込んだ。普通旅人にいいとは言わないと思うけど、シスターは許可してくれた。
ローズは魔法についての本、主に闇属性の魔法について調べているようだった。




