ごほうび
お久しぶりですあけおめですはっぴーばれんたいんです
齟齬ありましたら優しくスルーをば。
なんとか服を見繕い、教皇としての仕事を終え、私は早々に会場からおさらばしていた。
女神に並べるような服用意できなかったしぃ、そんな状態であそこに残って教皇代理として色んな人の相手してたくないもん。
最高の状態で、私は並び立ちたいのだ。今はまだその時ではないということ!
女神はきちんと眺められたので良しとします。神々しかった……。
「デザートたっぷりパクってこれたのは天才だと思う。ふふふ、さいっこう……!」
これはやけ喰いなんかじゃないよ。甘いものは大好きだから、食べてるだけ。決して服を用意できなくて悲しいとか、私といるはずだった時間を青いのと過ごしてるんだろうなとか、どうせなら女神と合わせた服を着たかったとか、そんなことは思ってないんだからねっ!
くそぅ、甘くて美味しくて沁みる……。
ふわふわのスポンジに、あまぁいクリーム。酸味のあるベリーのジャムがクリームの甘さを抑えてくれて、食べても食べても気持ち悪くならない。
バターをたっぷり混ぜたサクサクのクッキーは、クリームをつけても美味しいし、そのまま食べてももちろん美味しい。
ゼリーやムース、たくさんのデザートを頬張って、過剰な幸せを摂取する。
摂取している、はずなのに。
「……なんか足りない幸せだなぁ……。女神が足りない」
もうね、認めるよ。やけ食いだって。だってさ、せっかくね、女神と会えて女神のために頑張ったのに、それを一緒に楽しめないなんて、なんて悲劇……っ!悲しい、悲しいよぅ!まぁね?服なんて我慢すればって言われればそれまでなんだけど、ああ言う場で適当な服を着て女神の隣に立つ自分を、自分が許せない。
女神を引き立たせる役目を全うできない信者は信者とは言えないじゃん?自分の欲を満たすためだけに役目を放り出すなんてこと、あり得ないし……。
「教皇が途中で抜け出すの、しーちゃんからしたらそれは仕事放棄じゃないの?役目を放り出してやけ食い?」
「放棄……それは……。え、うそ、声出てた?…………るーくん。いつからいたの?なんでここに?」
「気がついたらいないんだもん。逃げたなってすぐわかったよ」
挨拶回りは全部したはず。最初から最後まで私がいないといけないわけじゃないし……これは逃げたわけではないし。
だから仕事放棄ではない。
「逃げてないよ。やること終わったらいる意味ないでしょ?いなくてもよくない?」
「よくない。ローズお姉ちゃんに着いてなくていいの?重要なお客様でしょ?教皇なんだからもてなさないといけないんじゃない?」
「それはそうだけどそれは別。アレクが上手くやってくれるでしょ?大体、こんな格好で……」
「格好ごときで悩んでいるんですか?」
突然響き渡る憎き声。
キッと視線を声の主に向ければ、白い衣装に包まれた青……ノアが、立っていた。
なんだよ、なんでみんなして私のとこにくるんだ。
るーくんはわかる。だってるーくんだもん。来てしまう。私がサボってると必ず連れ戻しにくる。……いや、別に今日のは違うよ?断じて。だって役目は終わってたし。
でもなぜこいつ。どこで私の居場所を知ったのか。
「格好は大事でしょ。何にも気にしないアンタはいいよねぇ、いつもなんかズレてる格好してるし……」
「残ったものしか着ていないので最近はマシなはずです!……いえ、今はそのことではなく。ローズは、外で休んでいますよ?」
なんだ残ったものって。選別させられたのかな?誰に?……女神は青いのを変だなんて言わないだろうし、服の選別なんてそんなしなさそう。してほしくない。
じゃあナラルさん?……いや、少し前に青いの置いて行っちゃったはず。その前にしたのかな。でも今まで放っておいたのに今更それはないか。
え、じゃあシン?…………いやいや、それはまっさかぁ、でしょ。ナイナイありえナイ。
残るは……しそうな人が誰もいない。
まぁいいや……私関係ないし。
「だから何?私も今休憩中なので消えてもらえますかぁ?」
「サボってるの間違いだよ。ね、格好なんてローズお姉ちゃん気にしないよ。だからいこ?挨拶だけが仕事じゃないよ。ちゃんとしーちゃんが1番上なんだって、神に目をかけられてるローズお姉ちゃんと友好的な関係、しかも結構仲良さそうだな?ってもっと思わせるいい機会でしょ。放っておいたなんて周りに見られたら、どっちにも良くないよ」
せ、正論……。
仲がいいのは当然だから別として、女神こそ全てと、みんなに見せつけるのにはいい機会であることに間違いない。逆のことをしたらるーくんの言う通りに不味いわけで。
例えそれで私が最高の状態で並べないとしても、私の都合でしかないから……。
「……るーくんがそういうのなら仕方ないなぁ。るーくんがいうんだもんなぁ。…………行くよ」
るーくんが言うからね。
「いってらっしゃい」
「え?一緒に来てくれないの?」
「いかない。僕、ノアさんに魔法のことで聞きたいことがあるから」
「ふーん。じゃ、ここ使っていいよ。……食べかけだけど」
青いのと入れ替わりで部屋の外に出る。
女神は外にいるらしい。どこの外だ。
とりあえず会場近くの外を目指そうかな。
◼️◼️
「あれ?シーナ」
一発でいる場所を引き当てた合運の持ち主こと私。やはり私は女神という光に導かれている……!
白のドレスに包まれた女神は、月明かりに柔らかく照らされ、銀の髪と服の白が光ってるみたいで本当に女神…………いや本当に女神なんですがね?比喩的なアレです。
とにかくめっっちゃ綺麗……。見惚れてしまう。
「うへへ、神々しい……。これは崇めて当然だよ、すごくうひひ……」
「し、シーナ?少し怖いのだけど……」
「ハッ!?い、いい今のは違うの!思わず心の声が漏れて……!忘れて?」
危ない。自分を制御できなかった。
女神が女神すぎて目が眩む。これは危険。もしるーくんの言葉に頷かなければ、青いのにこれ譲るところだったのか。危ない危ない。
この聖域は私が守らねば……。
「わかった……。どうしたの?……私、まだ何かすることがあったかな。呼びにきた感じ?」
「違うよ。めローズちゃんを探してたのはそうだけど、別に何かあったわけじゃなくてただ……ただ、そう。お話したいなって」
トップの私がサボれるんだから特に何もないはず。青いのはもっとこう、挨拶とか“おはなし”とかして自身の存在アピールしといてもらいたかった。
「お話?いいよ」
とはいえいきなりお話って言ってなにから話すべきなのか……女神の良さを語る?女神の前で?
ここははっきり、女神と一緒にいたいですって言うべきなのでは?
「えっ、アッ、どう?」
「え?あ、今日の。うん、楽しい。まさかここでこんな風に過ごす機会があるなんて、考えもしなかった。楽しいし、嬉しい。ありがとう」
綺麗な笑顔が私に。私に向けられている。
来てよかった。言葉に乗せられて、でも来てよかった。口元が勝手に緩んでいくのがわかる。この笑顔を見られただけでもう。満足。
「えへへ、そんな。ローズちゃんのためならなんてことないし、なんでもします。……ごめんなさい。まだ闇属性への考え方をひっくり返すのは、時間がかかりそうでして」
「ううん、充分。充分以上に、手を尽くしてもらっていること、すごく感謝してる。うん……改めて、今までありがとう。私にも何かできることがあれば、すぐに教えて欲しい。いつも助けてもらってばかりだから」
「感謝を……!まって。まって……これ以上私に恵んだらやばいって……。落ち着けぇ、これは女神にとって当然の行動、優しすぎる……。……できること?えっ、あの……もっかいだけありがとうって言ってもらえますか?」
困惑した表情を見せながらも、その通りに言ってくれた女神。
優しい。
困った顔も美しい。
ありがとうって、女神からただ一言言われるだけで今まで頑張ったこと全てに意味があったんだと思える。意味があるからやったんだけど、それ以上に報われる。
私が男なら青いのに取られることなく女神といられたのに。うう、これだけは何度も悔やまれるが仕方がない……。女なお陰で、下心のない綺麗な関係を持てることができるんだから。
下心のない、ね。
「えっと……?もっと何か、ノアみたいな。……流石に魔法を使うようなのは難しそうだけれど……私にできるようなことが何も無ければいいんだ。できることがあれば、するよっていうだけで」
そうか。それはそうだ。女神が言ったできること、はさっきみたいなことではない。
うーん、青いのと離れさせられる言い訳になるような、何かがあれば1番いいよね。無いけど。
できたら女神は賓客として部屋でゆっくりお世話されていてほしい。私の願いでもあり、癪だが神が見とめたって立場的にも。
強いて出すとすれば、私がお仕事させられてる間側に居てくれるとか。ひひ。ユヤに怒られそう。
「ローズちゃんにできる事がないわけじゃないんだけど、今は大丈夫そう。……もしかしたら、これから先、何か頼む事がある、かも……。いや、できるだけ迷惑にならないよう、そんなことにならないよう、気をつけますので……」
「わかった。何でも言ってね、このお礼だけじゃ気が済まないから」
優しいなぁ、優しくない?こんなさ、一信者にお礼だけじゃ気が済まないから何でもするって。
その気持ちだけで私は、私は。
頑張ろう。まずは闇属性に対する認識の変化、女神教の布教。そこから進めていこう。
より一層、ルス教乗っ取る気持ちを強くして頑張ろう!




