別れと
帰省編終わっています。
何事もなく(?)帰省は終わり、私は兄さんと共に転移の魔法陣を使い王都へと戻った。村にしばらくいてもいいなって思ったけれど、母さんが『すぐに来られるじゃない。やりたい事あるなら今のうちにやらないと』なんて言うし兄さんも一緒に戻るのが当然って態度だし、もう少しいても……っていう父さんの意見は通らなかった。
魔法陣を使えるのなら兄さんの転移による代償はない。だからすぐに家に帰ることができる。(現に私が実家にいる間仕事終わりに毎日村に戻ってきていた)だから私も予定通りの日程を実家に滞在した後、王都に帰ることにした。ノアにも会いたかったし。
シーナ、元気かな。
王都に戻ってきて数日後。
兄さんたちは仕事で居なくて、休みだったノアとナラルさんと、依頼が一通り終わった私だけが昼間の家にいた。この3人だけでいるのはとても久しぶりで、旅してた時を思い出してそんなに昔のことじゃないのに懐かしくなった。
そんなことを思いながら談笑している時に、ナラルさんが王都の外に出る、と言った。
奥さん……つまりノアのお母さんのお墓に行くと。
「いつもなら近くに行った時に寄ってたんだけど、最近はあちらの方に行かなかったからねぇ。俺だけでも行ってくるよ。遠いから時間がかかりそうだ」
と。
「一人で行くんですか……?」
「ああ。途中でノアに倒れられても俺は回復魔法しか使えないからね。それにいつまでも成人した息子と一緒に旅するわけにもいかないし、俺もひとりの勘を取り戻したくてね」
えっとつまり、そのうち2人は別々に旅することになるって事?いつかはそりゃそうなるだろうけどそろそろ親離れ子離れってこと?
ノアもとっくに成人してるしおかしくはない……んだけど。
なんか寂しいね。
「一緒に行く。僕だって母さんに挨拶したいし……治癒魔法は自分でできる。シンが近くにいなくて本当に辛い時は使えって言われてるから使って問題ないはず。だから行く」
「駄目だ。お前の調子を気にしながら行くと途方もない時間がかかる。でも俺1人なら何も気にしないでいける。負担の差が違うんだよ」
「親父に負担なんてかけない。いつも通り行ける。だから」
「ローズを置いていくのか?ん?」
揶揄うような調子でナラルさんはノアの言葉へ声を被せる。
その言葉に詰まったノアは目を揺らし少し動揺した様子で、ナラルさんの方に乗り出してしまっていた体をソファーへと戻し、口を開こうとする。
けれどそれより先にナラルさんがノアの頭にぽん、と手を乗せて、揶揄うのとは違う、優しい声音でノアに話しかけた。
「……万が一。そんな事があったらなんて考えたくない。あいつにも先に逝かれて、たった1人の息子にもだなんて。俺は嫌だぞ、またお前が死んでしまうかも、なんて辛い思いをする日々を過ごすのは」
ゆっくりとノアの頭を撫で、言い聞かせる。
「ここから、半年以上かかる。だって海の向こうだ。天候によっては俺1人でも1年かかるかもしれない。片道だぞ?そんな長い時間、ノアが耐えられる耐えられない以前にシンくんが許してくれるのか?無理だと思うなぁ。……大丈夫、お母さんにはちゃんと伝えておくよ。ノアは無事だ、ちゃんとやってるって。彼女までできたってな」
1年。そんな遠いんだ。この世界、転移魔法以外の交通手段は船と機関車しかない。飛行の魔法はあるけれど、制御が難しいから空の旅は発展していない。飛行魔法を使いこなしてるシーナがいるから勘違いするけど、あれはとても難しいらしい。シーナが規格外なだけで。
それはともかく。海路は船、陸路は機関車な訳だけど機関車の方は発展途上で、道の整備だとかでまだまだ行ける範囲が狭いらしい。加えて国家間の問題もあるっぽくて難しいんだって。私にはよくわからなかった。まぁ現に王都周辺地域にはまだ機関車は導入されていないし、旅してる範囲でも見かけなかった。機関車で楽な移動、っていうのはまだ先の事なんだろうな。
この世界にあるのを知ったのも王都に来てからだし。
「でも……」
「そろそろ進む道も別れるだろう。ローズやシンくんだってこうして離れた所で暮らしてるわけだし。だから、この機会にそうしてもいいんじゃないかって思ってるんだ」
「それとこれとは違う。ローズ達はどこにいるかわかった上で、連絡が取れる状態で暮らしてる。でも僕たちは。……親父と一度別れたら、次どこでいつ会えるのかもわからない。僕だって早く独り立ちしたいって思ってた時期もあった。早く一人で世界を旅するんだって。でも、それはつまりもう二度と会えない可能性もあることを、覚悟しないといけないってことだ。…………親父が心配する気持ちもわかるけど、実力を疑う訳でもないけど。でも僕は、賛成できない」
そっか。
旅するって、旅行みたいに簡単に思ってたけどこの世界では死の危険も伴う行為だ。仲間がいれば窮地も脱することができるかもしれないけれど、一人旅だと全て一人で解決しないといけない。
ノアとナラルさんは、お互い離れたらそうなる可能性もある。たった2人っきりの家族でそんな危険を相手に犯させられない。
「それはお互いが好きに移動している場合だろう?でも今はノアはこの地にいる。その調子じゃあシンくんが色々自由に許可してくれるのにはまだまだ時間がかかる。俺が行ってる間はここに縛り付けられるだろうね。たくさん手紙を出すよ。ああもう、そんな顔をするんじゃない。死にに行くわけでもないんだから」
ナラルさんが話している間に私はこっそりと立ち上がり、居間から退散する準備を済ませた。ここからは親子の時間だ。2人にした方がいい。
2人を背に、私はゆっくりと居間から出て自分の部屋へと移動した。
きっと、ナラルさんは行くだろう。ノアはここに残る。そして早く全快させようと無茶をする。
私のすべき事は、それを止める事だ。
続きます。
ブクマ1000件達成しました!!
一つの目標としていたのでとても嬉しいです。
ありがとうございます!
引き続きよろしくお願いします。




