とある昔話5
泣いて叫んで当たり散らして、でも原因はここには居ないから気分は晴れない。
泣きながら地球の神に向かって行っては簡単にあしらわれ、嘲笑われる。
『その程度で挑む?面白い冗談をありがとう。しかし君に死なれると私も危ういんだ、だからまだ出すわけには行かない』
何週間……いや、何ヶ月?ううん、数年かもしれない。どれだけの時が経ったかわからないぐらいの時を過ごし、何千回、何万回と地球の神へと挑んで行った。この頃にはもう私の中では一つの感情しかなく、自分という個がそれだけのために動いている状態だった。
『煮えたぎった復讐や怒りは良くない。周りを見えなくさせる。怒りを抱くのなら、静かに、沸騰させないようにすることだ。いいね?』
一度冷静になればそれは簡単なことだった。
昂りは鎮まり、ようやく静かに泣くことができた。
セリスは、私を庇って死んだ。あの時あそこへ現れたのは、地球の神の力を察知したフルムだった。結界を張れ、と言われたのはフルムが来ないようにするためだったのに、私がきちんと出来なかったから。
地球の神によるとあの獣は、かつて世界の人々を守った守護獣の末裔、そして今はフルムにより改造を重ねられた哀れな堕ちた神獣。フルムが何をしようとしているのかはわからないけれど、神に作用する毒を僅かながら持っていると。
でも地球の神の具合は“僅か”というレベルじゃなかった。それを言えば、今の地球の神は私に力を分け与えている状態であって完全な状態じゃないらしい。だからあんなになってしまったと。
私がそもそも結界を張れなかったとかじゃなく、最初に地球の神を残骸へ押し付けたりしなければよかった話だ。そう、全部私のせい。
セリスは死んだんだ。
私のせいで、地球の神を察知したフルムによって殺されたんだ。
セリスは私にとってとても大事な人だった。居なくなってからよく実感した。私を受け入れてくれて、こんな事になっても着いて来てくれて。セリス以外にそんなことしてくれる人、絶対いないから。
当たり前のようにセリスが隣にいて、地球の神に怒って。ずっと続くと思ってた。いつかフルムを倒すとしても、その時もセリスは一緒。それからも、ずっと。ずっと、一緒にいると思ってたから。
私は、あの神を殺す。自分自身のためだけじゃない、セリスとまた生まれ変わって出会うために。この世界で、いつかまた出会うために。世界が存続すれば、私たちはまた出会える。そしてまた一緒に笑って、ふざけて。
大好きだよ、セリス。
伝えられなかったのがとても悔しくて、悲しくて、後悔しかない。でも今は嘆いている場合じゃないから。
「いい顔だ。ようやく、正気に戻ったな」
「私はいつでも正気だから。そうでしょ?」
「ははっ、狂気的の間違いじゃないか?さて、正気の君にプレゼントだ。ようやく見つけてね」
そう言って手渡されたのは、飾り気のない剥き身の刀だった。柄に近い位置の刀身に、青い石が埋め込まれていて、それがキラリと光を反射する。
石の近くに何か刻まれてる。
「日本語……!?え、神滅……刀?」
「いいや、正確には神滅刀、かな。刃とも言う。怖い名だねぇ」
怖いと言う割に怖がっているようには思えない。胡散臭い視線を送ったあと、刀へと視線を戻す。
うっすらと青みのかかった刀身は、どこか神聖さを漂わせていて地球の神が持って来たものだけど安心できた。悪いものでは無さそうだ。
「名前に厨二感ある……名付け親誰?」
「わからない。というより忘れた。でも他の世界で君のように立ち上がった者が付けたのは確かだ。私が付き添って、ね」
「嫌さしかない」
「酷いなぁ」
名がどうであろうと、地球の神はこれを持ってフルムを殺せと言っているんだろう。これならば、フルムを殺せると。
なら私は従うのみ。私の望みのために。
「てかさ、この刃のとこに石?これ魔石?挟まってて脆くないの?使ってる時に折れるとか嫌なんだけど。そんなことになったら死ぬしかないし。あ、そうなったらなったでこの石がどうにかしてくれる系?」
「脆くない。折れないよ。……いや信じてよ。何その顔。さては信じてないな君!?」
「あんた私に何してきたか忘れたの!?」
「最近は比較的ちゃんとしてるだろう!?……はぁ……まあ君の調子が戻ったのはよかった。その状態の君なら大丈夫だからな。……色々と」
色々。そこにフルムを倒すというのも入ってればいいんだけど。




