一難去って……そうでもないな?
前半ローズ
後半シーナ
短いです
「兄さん!……仕事は?」
「シーナに呼ばれたから抜けてきた」
駄目でしょ。
「シーナなら行っちゃったよ。向こうの方」
「それは見ればわかる。許さないぞ!ノア!うちの子はあげません!ローズか自分の体かどっちか選ぶんだな!どっちにしろ死ぬけどな!!」
私は兄さんの子になったつもりはない。兄さんは兄さんだ。
それよりどっちにしろ死ぬって兄さんが手を下すってことでしょ?どっち選んでも殺す?……どうして?
「……」
なんかノアは悩んでるし。いや、
「悩むなよ!ローズって言えよ!いつものお前ならそう煽るだろ!?ていうか普通にローズだろ!」
……いや、自分犠牲にしてまで好きでいて欲しいかというと微妙かな。死んじゃったらそれまでだもん。好きな人には生きてて欲しい。一緒にいたいから。
それに命をかけてって、なんか重くない?
「いえ……ローズと言えば怒られそうですし、選ばずともシンは怒る。けれど僕は生きていたい。……ローズを選ばなければシンは治療を続けてくれるんでしょう?そうしたらローズともいられるじゃないですか。であれば、ローズを選ばずとも結果的に選んだことになります。……でも、この場でそう言うのは、違う気がして……」
ああ。
うん。なんか凄く良い。言葉には表せないけど、改めてノアがこうして私を考えて、好意を持って言ってくれてる。気持ちを確かめ合ったから、それがわかる。
「……うわっ、……えっ……うっわ…………なんかゾワってしたゾワって。冗談が過ぎるぞそれは!なんだよその新手の嫌がらせ……。本気にするぞ?ああもう……とりあえず、冗談でも許さないからな。俺はシーナを追う。害獣駆除って言ってたし。抹殺の間違いだと思うけど。ローズは来んなよ?あぶないからな」
両方違うけど。自業自得だけどあの女が可哀想になってきた。
あと兄さんは本当にこれを冗談だと思ってるんだろうか。いつも通りだから?これがデフォルトになっちゃってるみたいな。
話はそれで終わりらしく、兄さんはシーナが去っていった方向へと歩き出した。
「……良かったのか悪かったのかわかりません……」
うん。わかんない。
ああ、もしかするとシーナはこれを見越して言ったのかな。王都出るなら2日以内。一度きりの共犯者。兄さんから逃げるための共犯者。
でもそれはなくて済みそう。
……シーナとの旅も無くなっちゃったのかな。王都から出る必要が無くなったとはいえ、シーナとの旅は楽しみにしてた。
ミーシャ達にも会いたいし……。
小旅行で行かせてもらえないかな。
「帰るか」
「そうですね」
やる事ないし。一緒に出てきたシーナは行っちゃったし。仕方ないので帰ります。
ノアも何も無いらしく、横をそのままついてきた。
今まで通りでそれは変わらないことなのに、この状況が何故だか気恥ずかしくてなんの言葉も出てこない。ノアの方見るのも無理。
無言で歩いていたら、手に何か触れて……ノアの手だ。あ、これって手繋ぐパターン?わ、私手汗とか大丈夫かな?変に濡れてたりベタついたり汚れてたりしない?
きゅ、と優しく包まれる私の手。大きいな、ノアの手。私もその手を握り返す。
ゆっくりとノアの方を見れば、真っ直ぐ正面を向いて歩いているノアが伺えた。でも緊張してるのか、表情が硬い。普通にこんなことできるから緊張も何も無いのかと思ったけど。ノアでも緊張するんだ。そういうの初めてとか言ってたしな。うん。
今まで通り。それは変わらないけれど、私たちの気持ちは完璧に変わった。まだ難関突破はしてないけど。
ニマニマが止まらない。
◼️◼️
「あ〜ちょぉっと遅かったかなぁ!もう少し早ければ楽しめたのにぃ〜」
「何がだよ。で?何を処分だって?」
「もう終わっちゃった」
お久しぶりです!私、シーナ!
ただ今害虫駆除を終えたばかりのルス教アドバイザー、女神教教祖です!
乳牛の話なんて聞きたく無いだろうからダイジェストでお送りするね!
まず、先日コードネーム《魔女》に魔法をかけてもらった。乳牛にね。私にじゃない。
《魔女》によると、その魔法で転生者の中身を分離できるらしい。転生者の人格と、体の持ち主、つまり元々この世界で生まれるはずだった人格を分離できると。いやこっわ〜!?って思ったんだけどこの魔法、全員に効く訳じゃないんだって。良かった。
詳しくは教えてもらえなかったけど、自分の手札詳しく教える馬鹿なんていないもんね。
でもさ、あの神、そんなことができるように私たち転生させたとは考え難いんだよねぇ……。アドバイザーとしてルス教の色々を見てる私だけど、過去の信者に転生者がいたらしく、その時のその人へのお告げとかが書いてある手記を見たんだ。それには全く違うことが書いてあったし。日本語だった!しかも現代語!
──自分は何者なのか?
『世界のひとつ。ボクが創り出したパズルのピース』
──この体は持ち主がいたのではないか?
『いない。生まれる前に、魂の付く前に送り込むからその体は最初からキミの者。設定と情報でそんな考えが生まれちゃうんだろうね……改善点だ』
──ならば、この世界の家族は本物の家族とは言えないのでは?
『血の繋がりはあるし、それ以上のものもあるはずだけど……前の記憶があると家族じゃないの?』
てな感じに。
元の人格なんて無いってルスが言ってるのに、《魔女》の魔法は完璧に発動してた。どういうことだ。
で、まぁそこらの解明はまた今度いつかルスが遊びにきた時にでも聞くとして。
《魔女》から教えてもらった名前を呼んで、主導権を取り戻して!って語りかけたら転生者としての乳牛は消え、《魔女》の言う“元の人格”が乳牛になった。
正反対の子だった!しかも、男嫌い!女神に会わせないようにしなきゃ。私の立場が危うい。
そんなこんなで女神の敵は消えた。
シンが来る前に終わってよかった。転生者だとか、多分女神は知られたく無いだろうからね。
「はぁ?俺お前に呼ばれたからわざわざ仕事抜け出してきたんだけど?意味ないじゃん」
「え?女神に会えたんじゃないの?それでよしでしょ。違う?」
「……まぁ、そうか。うん」
納得するのか。でも確かに仕事抜け出させたのは悪かったかな。事は終わっちゃったし。
いくら渡せばいいかな。うーん、シンが金を受け取るかなぁ。……そうだ!
「まぁ、悪かったっちゃあ悪かったからこれお詫び」
趣味で作ってる小物類をシンに渡す。私は魔道具なんて作れないけど、その土台だったり全く関係ない髪飾りとかは上手く作れるからね。楽しい。
土台くらいは受け取ってくれるでしょ。
「お詫びって……もらうけどさ」
ほらね。シンより私の方が細かいこういうのは得意!ふふーん。
さてと、乳牛は帰ったし、やることやったので宿に戻りましょうか。
今の宿であり、かつての、家へ。
また別のものを魔女は魔女らしく呼び出してしまっているのでは……知らない内に。(もしかするとなのでこれが真実であるかもしれないし、そうではないかもしれません)
シーナが王都を知らないのは、教会が端にあったのと、小さかったのと、随分前のことというのと、ローズに気を使わせたくないという思いからです。
あとそんなに気にしてないから。
人気投票第二弾でもやりたいと思います。
主要キャラオンリーにするかな…




