私の、本当の、気持ちは 前半
この前後編でローズのこの話は終わらせますね。
「ご機嫌よう、シーナ。昨日、種を蒔いてきたの。とっても上手く芽吹いてくれたわ。あとは待つだけで、花は必ず咲いてくれる。花の名前は、アンジェラとアカリ」
「オッケー、トドメは任せといて」
「ええ。頼むわね。……それにしても良かったわ、きちんと嫌いだと思えるほどに清々しい“悪”で。本当にノアが彼女を選んでいたのなら、趣味が悪いとしか言いようがないもの。自己中心的なのは嫌いなの」
「わかる、前に会った女も自分のことしか考えてなくてさぁ。ハゲさせてから森の中の木に吊るした。下に魔物が集って怯えてんの楽しかったなぁ。アイツら今どうしてんだろ」
「……複数形?……聞かなかったことにしておくわ。それだけ聞くと、貴女もただの悪だもの……。これで元の人格ときっちり噛み合ってるなんて信じられないわね。“シーナ”って、穏やかな子だったはずよ……」
「え〜、女神に騒々しいって思われてたらどうしよう!?大丈夫かなぁ……」
「と、とにかく残りは頼んだわ。わたくしこれから用事があるの。これで失礼させていただきます。それでは」
「ん。ありがとね〜。じゃ、また」
◼️◼️
旅する許可は未だもらえない。昨日のことがあったから、シーナと会うのが少しためらいあったんだけど、シーナは普通に来たし笑って話してくれた。優しい。
もうさ、強行突破しようかな。兄さんのかけた結界魔法、私の魔法で壊して。できるかわかんないけどやってみるだけいいと思う。まあ、結界にちょっかい出した時点で兄さんには感知されるから、さっさとやらないと見つかって連れ戻されちゃうけどね。最悪影の中で籠城しますか。
そんなヤケクソな考えをしてしまうほど、私の気分は最悪だった。
「ねぇ聞いてるの?もう私行くわよ?止めたいのならさっさと洗脳解いてくれない?ていうか早く出てってよ」
シーナが離れた一瞬のこと、あの女が私の目の前に現れた。それだけでもう最悪。おうちかえりたい。
最近会わなかったのは、きっとシーナが会わないように徹底してくれてたからだな……。すごい。ありがたい。それなのに私は……。お礼言わないと。
「何のことだかわからないのだけど。なぜ、君に従わないといけないのかな。確かに君がこれからしようとしていること、止めないと私には損しかない。でも、従ったとして得することは何もないのだけど」
「はぁ?何?対価でも求める気?悪役の分際で損得語んないでよ!笑っちゃうじゃない!あんたはね、私の得のためにここから消えればいーの!ていうか話してる時間無駄ね。じゃ、もう行くから。行先は教会。わかるわよね?」
わかってるよ、ルス教の怖さはとてもよくわかってる。戦ってきたんだもん。今のシーナ仮トップの状態でこの女が私のことを言ったとして、どこまで害があるのかは知らないけどさ。
そう、他人任せだけどシーナがどうにかしてくれるんじゃないかって気持ちもしてるから、あんまり怖くない。
「うん。バイバイ」
「は?いいの?そ、そう……じゃあ行かせてもらうわ。せいぜい後で後悔することね!」
あんまりパッとしない捨て台詞を吐き、女はその場から立ち去った。この女もわざわざ来るんだもん、もの好きだよね。
女が立ち去るのを待っていたかのように、シーナが戻ってくる。
「ごめんね……ローズちゃん。嫌なことさせちゃった。今日には終わるから、許してね」
「……うん?」
何が?何を?終わる?
「ほらアンタも来てよ、さっきまですぐに飛び出す雰囲気だったのに今になって何怖気付いてんの」
そうシーナが後ろへと声をかける。
その呼びかけで姿を現したのは、ノアだった。
◼️◼️
すぐにでも止めるつもりだったんです、とノアは申し訳なさそうに言った。でもシーナに引き止められた、と。
シーナは何をしたいのかと聞けばこれからあの女を追いかけてトドメを刺すと返してきた。わけがわからない。トドメって?ノアに聞かれてたってあの女に言うってこと?でもああ言う人はその場乗り切るの上手いよ?どうするんだろう。
とりあえずシーナに着いて、3人で歩いている。
「……ローズ、大丈夫ですか?」
「何が?」
「アンジェに言われたこととか……」
大丈夫か大丈夫でないかで言うとしたら、大丈夫。よく見るヒロインなら泣いていたんだろうけど、幸い私は悪役ですので。元、だけど。これまで旅して悪意に晒されてきた私、舐めんなよ。
でも、悲しいことは悲しいし、辛いことは辛い。悪役だからって何?それってあの女には何の関係もないことでしょ?どこかのゲームの登場人物なのかもしれないけど、“ローズ”の登場するのとは別の話。関係ないじゃん。それなのに悪役悪役って……しつこいなぁ。
「気にしてはいるけれど。でもどんなことを考えようと彼女が私に対して思っていることは変わらない。喚いて癇癪を起こせばそれこそ彼女の望むことだから」
まぁ無視したとしても私の魔法の属性バラされちゃうんですけど。
でもノアよりかマシかなぁ。ノアは優しいから、今こうして私に歩み寄ってくれてるけど、あの女は私よりも大切な存在、彼女なんだよ?今までの縁があるから私も捨てられないし、でもあの女も捨てられない。結構な付き合いだから、女がしたことがどの程度私を傷つけてるかもわかってるけど、責めたとして関係に亀裂が入ったら?
大変だねぇ、あんな女を選んだばかりに。
「そう、ですが……。今まで、ああ言ったことを言われていたんですか?……僕は、人を、彼女を……見間違っていた?それでローズを傷つけてしまった……?」
ノアのせいじゃないよ。私があの女と出会わなきゃそのままだったし。
いやそれ無理か。あの女と私が出会うのは必然だった。ノアが彼女を作った時点で。
「……ノアは、あの女が大切だろうから向こうの味方したいでしょ。傷つけはさせないように頑張るけど、私だってあの女に散々言われてきたからちょっと手が滑ったりするかもだけど、……ノアのことは、出来るだけ守る、よ。ノアにもう好きな人がいようと、私の気持ちはまだ変わらないし……シーナと旅する間に消すから。今だけは、好きでいさせて。だからあの女の味方していいから」
ほらさ、あの女、トドメ刺すとかシーナに言われてる時点で嫌な予感しかしないし。シーナ過剰だし、兄さん関わってそうだし。しかもルアと同盟組んでるでしょ、シーナ。やばい人しかいないもん。
いくらあの女が嫌いでも、ノアのことは大切だ。ノアは何も悪くないから。それにね、ノアの体がこんなことになったのって私のせいでもあるでしょ?私と関わらなきゃこんなことにならなかったわけだし。それも含めて、ノアのことは護りたい。ノアが幸せになるのなら、その手伝いをするべきでしょ?
「……え?ど、どう言う話ですか?確かに大切ではあると思いますがあれを聞いて味方……?というより、好きってどういう────」
「みーっけ!追いついたぞ、待てぃアンジェラ!」
ノアの言葉は途中で遮られ、シーナが駆け出す。慌てて私もそれに着いていく。
アンジェラ……名前では呼ばないようにしよう。憶えたくない。あの女は、教会に入る直前でシーナに捕まっていた。
「なんなのよ!離して!……あんた何!?シーナ!?なんでヒロインが!……ってローズとノアがなんで一緒に!?」
「うるさい!私がどこにいようと勝手でしょ!それに女神と青いのが一緒にいるのもおかしくないから!……いやそれはそれで無理だけど。おかしいけど」
「わかったあんたローズ追いかけてきたんでしょ!攻略対象取り戻すために!私今からあいつの魔法の属性バラしにいくんだから止めない方がいいわよ」
「は?追いかけてきたのは事実だけど私の攻略対象は女神ただ1人なんだけど。それにね、この教会にバラしたところでなんも起こらないよ。全世界の支部に闇属性の方についてのお知らせしたもん。宗教改革って楽しいね!」
2人のそんなやりとりを、私とノアはポカンとしながら眺めていた。
ノアにとっても恐怖の「みーっけ」(チャラ男に捕まった時参照)




