最凶の同盟
「えっと……つまり?シーナ、貴女は本来悪役であるローズを推していて、そのルートになるように奮闘していたけれど、ローズ……貴女も転生者で違う動きをしてしまったからローズは村から出て、最終的にシーナがルス教のトップになったということ?」
「違いますぅ〜、女神は悪役でもなんでもないんです〜」
「そ、そう……ちょっと何言ってるのかわからないわ……」
うん、私もわかんない。
今までおかしなことだらけだったもん。最終的に神様出てくるし……。
「でもほんと転生者ってめちゃくちゃいるね〜。まともなのが多ければいいんだけど。あんたどっち?……シンの知り合いってまともとは思えない……」
「……まともだと思いたいわ。彼が一番驚きなのよ、あのシスコン度合い……引くほどシスコンなの。だから貴女のこともたくさん聞いているわ。それはもう耳にタコができそうなくらい。ああ、悪く言ってるわけではないわ。ただ吃驚して。だって本来なら……貴女を糾弾する側でしょう?」
それは私もびっくりだ。兄さんのこと大好きだから嫌われてないのは嬉しいけど。
“本来なら”が起らなくて本当によかった。私にそれが耐えられるとは思えない。いくら旅で図太くなったとはいえ、ね?
「どうしてだろうね……。でも兄さん優しいし、私のこと考えてやってくれていることはわかるから。……変な風に見られてたりする?」
「いいえ。多くの女性を虜にしているわ。ホラ……この世界、色々混ざってるからなのか、金で美形と契るからか、王族貴族みんな美形揃いなのよ。その中で飛び抜けているのがゲームの登場人物ね。シンもそう。シスコンでもそれは表に出てこないもの」
金で美形と契る。
なんか聞いたことある。あれだよね、綺麗な人はお金持ちに買われて、種を撒かれるからだんだん貴族とかは美形揃いになっていくっていう。外の血入れるの許すんだね、細かいところはよくわからないけど。
いいなぁ、美形揃い。見てみたい。貴族とか王族とかのしきたりはよくわかんないし、位とかも良くわかってないから怖いけど見るだけなら見たい。
「ちっ、表の顔はいいってやつか……。そういえばあんたはどうしてこんなとこ来てるの?ていうかやけにコソコソしてたけど?」
「……家の者に見つかるとうるさいのよ。たまにこっそり遊びに来てるの。この世界、とても面白いでしょう?」
面白いのは否定しないよ。面白いもん。悲しいこととか、辛いことも同じくらいあるけど面白い、嬉しい、楽しいっていうのがそれよりも“濃い”からね。
遊びにってなんの遊びだろう。庶民の皆さんを見にきてるとか?黙ってそれを見てるとかならルアっぽいな。うん。いいな。好き。
「遊びに?何すんの」
「知っている方を探したり、ジャンクフードを食べたり、よ。社交界のは大体知り尽くしてしまったから。それより貴女たちは?今何をしているの?“おかしな転生者”では無さそうだし、良ければご一緒したいわ。一人より見つかりにくいし」
“おかしな転生者”ってルッカみたいな?他にたくさんいるんだろうな。ヒロインだから何しても許されると思ってそうなのが。
転生者、この世界の人口総数からしたら少ないけどそこそこいるよね。これも何もルスが連れてきてるんだ。普通に生きてるのをやってるわけじゃないって言ってたし、向こうで死にかけた人を救済してるって考えたら結構優しいのかも?
悪い神じゃあ、ないのはわかってるよ。
「え〜……女神はどう思われますか?」
「……女神呼びはデフォルトなのね……」
「公認してる訳じゃないから!……私はいいと思う。兄さんのこととか、ルア……様、のことも知りたい」
やばいやばい。貴族だもんね、本名で呼ばなかったのはそもそも悪いけど、呼び捨てはもっとダメだよね。最終的に付けたから許してほしい。無理なら悪いけどシーナに頼み込んで守ってもらうしかない。
「ええ、嬉しいわ。ルア、でいいのよ。……それよりわたくし、ちゃんと元があったのね。知らなかったわ。どういうストーリーなのか教えてもらってもよろしいかしら?わたくしはどういった立ち位置?破滅するのだけは避けたいの」
◼️◼️
元々シーナと目指していたカフェで3人揃って座り、軽い食事をしながら話していた。主に自分たちのこと、シーナが今までやってた突拍子もないこと。ルア様笑いを堪えるのに必死だった。可愛い。
私が特に話したのはルアの登場するゲームのこと。
シーナもルアもあのゲーム知らなかったんだ。やってたらハマったと思うなぁ。面白かったもん。
でもあれ、普通に過ごしてればバッドエンドにはならないから大丈夫だと思うんだよね。
だって、バッドエンドはシスコン拗らせたヤンデレ弟に魔法封じられた上に監禁されてお終いだよ?どう過ごしたらそんなエンドになるの。うちの兄さんでさえシスコン止まりなのに。もし、何か間違ってそんなことになりかけたとしても周りが止めてくれるしね。シーナとか。ぶち壊してくれそう。(いい意味で)
だから考えてる破滅はないと思うな。
そう言ったけどルアの表情は晴れない。
「……わたくしの弟、すでにその片鱗を見せているの。周りの人間には誰彼構わず威嚇するし、わたくしの部屋に魔道具を勝手に取り付けて魔法を使えなくするし……まぁそれは元々かけてあったわたくし以外の魔法、魔術を受け付けなくする結界ですぐ壊れたのだけど。それって、普通の終わりなら弟はどうなるのかしら。弟のこと、嫌いではないのよ?どちらかというと家族として、弟として。好きなの。だから……」
ルアのゲーム最大の障壁は弟だ。その弟をどう宥めて攻略対象とくっ付くかにハッピーエンドがかかっている。あの弟、とにかく邪魔してくるんだよね。
ハッピーエンドなら弟は、攻略対象を認めてヒロインはめでたく幸せになれる。だからルアの気にしている弟がどうにかなっちゃう終わりはない。
まぁここは現実でして、確かにみんな生きているので実際どうなるかはわからない。兄さんみたいになる人もいるし、ルアの弟が攻略対象を認めることはないかもしれない。
「どうなるかは自分の行動次第じゃない?私だってこうして最終的に女神と過ごせてるし!……ローズちゃんはローズちゃんで、幸せの道を辿ってるわけだし。ストーリーが全てじゃないよ。あれは、ただの舞台。この世界じゃ台本も演出家もいないしねー。まぁ?その通りに過ごしたら多少はゲーム通りになるよ?そう作られた舞台だし?でも自分は自分じゃん?第二の人生楽しまなきゃ損!女神様存在してくれてありがとうございます!!できたらそのカップ持って私に横目で微笑みかけてくれたらもっと嬉しいです!」
ちょっと異議を唱えたいとこもあるけど、大体私の考えもシーナのいう通りだ。
強制力はないから、自分の進みたい道に進める。いや、これじゃ私が世界的な宗教と一戦交えたかったみたいだな。そんなわけないけどね?不可抗力だ、あれは。
「それもそうね。わたくしの人生は、わたくしが掴み取るわ。ゲームだから、元があるからって怖気ついてちゃダメね。それで?ローズはノアと……ってシンから聞いているけれど?貴女は貴女の好きなようにできているの?まあ、ヒロインがこれだから破滅は最初からなさそうね。近くで見ていたかったわ。絶対面白かったもの!」
うっ……。ノアのことはあんまり考えたくない。最推しが恋愛しててそれについて嫉妬してるなんて、恥ずかしくて誰にも言えないよ。
私、なんでこんな気持ちになるんだろう。ノアは、推しで、家族同然で。確かに好きだけどそれは恋愛感情じゃないよ。だって今更そんな気持ちになるなんて有り得ないし、最初ノア見たときだって推しは推しで、恋愛感情は生まれないなって思ったじゃん。
じゃあこの気持ちはなんなんだ。
「好きなようにはできてる。世界を旅して、大きなものを知って。とても楽しい。次もまた旅するつもり。シーナとね」
「あら。ノアはどうなったの」
「青いのはね、女遊びしてるよ。女神は呆れてるの!」
そういう訳じゃないけどさ。
でもあの女といるノア、もう見たくない。だから多分、ノアがここに永住するのならもう戻ってこない。あの女の思う通り。あの女が私に会いたくないように、私だってあの女見たくもない。
もうだからこれでいいんじゃないか?
「……あぁ。ふふ、なるほどね。わかったわ。これはとても、うふふ、自分から巻き込まれても良いと思えるわ。わたくしはこれでも社交界で日々戦っている身。何でも許されると思い込んでるお馬鹿さんなヒロイン達と何度かやりあってるのよ。わかるかしら」
「あんたもしかしてもう……。わかった。同盟組もう。痛い目見せてやろう!」
うん?話が見えてこない。痛い目って何?誰に?ノア?それはダメだよ、なんのためにやるのかまずわからないし、ノア、まだ体の調子悪いんだから。
「ええ。喜んで。わたくし先日見かけているのよ。おかしいとは思ったの。だってシンの話では彼、ねぇ?つい最近話した時だってその話ばかりで。『俺が悪いのはわかってる、でもアイツだって悪い!いつも俺とローズの間に割り込んでくるんだ!』みたいなことを延々聞かされたのよ。彼女、転生者でしょう。わかるのよ、ちょっと聞こえてしまった話からして」
「あはは!あんたもあんたで凄い!そう、転生者。女神をクッソ侮辱した許されざる乳牛!天罰!許せねぇ!」
「わたくし、許せないものはいくつかあるのだけれどその内の1つが、傲慢な転生者なの。この世界にはこの世界のルールがあるでしょう?従ってくれないと」
シーナとルアは、がっしりと手を取り合い、2人してわかり合ったように笑い合っている。取り残されてるのは私だけ。なんなんだ。




