本当のきもち
王都周辺に兄さんが魔法をかけたらしく、影の中からでも外に出られなくなりました。
そこまで徹底するぅ〜?
いや今まで私がしてきたこと考えたらするか。黙って外出て討伐依頼受けてたんだもん。出ないって言っても信用できるもんじゃないな。
「……はーぁ。まぁ、旅の準備するから王都の外に出る用はほとんど無いんだけど……」
私が使わせてもらっている部屋の中、影の中に入れたものを全部出しているものと要らないもので分けている。その作業だけで昨日と今日使っちゃってる。私、色んなもの入れすぎ。
櫛が8本も出てきたし、よくわからない中途半端な長さの革紐まで入ってた。紙と鉛筆だってゴロゴロ入ってるし。
影の収納の良いところは、なんとなく分類されてて食べ物は食べ物、服は布、櫛とか髪留めは小物、みたいに分けられてる。もちろん魔物は魔物。それが自分でもわかるし、分類ごとに部屋の中へ出せばごちゃ混ぜにはならない。ただ、櫛出したいって思って櫛は出てくるけど、思い浮かべたもの(近々で1番記憶に残ってるもの)しか出てこないから何本買ってもその時出てくるのは1本。だから忘れて何本でも買っちゃうんですね。似たようなデザインのを。
とりあえず布と小物は昨日終わらせた。半分以上要らなかった。ミーシャから預かった布が大量に出てきた。綺麗に整理して、ミーシャに渡さなきゃ。ナラルさんに買ってもらった服は全部持っていく。少し魔力戻った感じした。なんでも入れっぱにしたら駄目ですね。入るとはいえ。
今日は食べ物と、魔道具と、水系のやつができたらいいなって。時間かかりそう。肉とか入れてたしな。ノアとナラルさんがいたから回復薬系はあんまり買い込んでなかったんだけど、魔力を貯める石(魔力が足りなくなった時に使う。兄さんがよく魔道具に使ってる石。高い)がそこそこある。兄さんからの魔道具が全部アルカーナで使えなくなったけど、それも全部持ってきてるから整理しなきゃ。
「わぁ、これ!影の中入れてたのか!食べちゃったんだとばかり思ってた」
紙に包まれた揚げ物。どこに置いたかわからなくなって、食べちゃったんだろうなって思ってたやつ。
影の中じゃ時間は進まないらしく、まだ出来立ての温かいまま。……不思議すぎるし、その中に入って移動している私。大丈夫なんだろうか。この収納とは違うのかな?ま、時間進まないのなら入れっぱでもいいか。
生肉に、野菜。調味料、お菓子。すごい色々入ってる。食べ物はいくら入ってても問題ないからね。何が入ってるか把握して、戻そう。大丈夫。私だって料理くらいできる。
うーん、調味料と野菜は買っておいたほうがいいかなぁ。だいぶ少なめ。外にはあんまり出たくないけど、致し方ない。肉は最悪魔物を狩ればいい。
後で買い出しだね。
「……後この魔道具の残骸……」
食料より大変そうなのがこれなんですねぇ。
魔力を外から貯める石を使ってるから、一度無くなってもゆっくりまた魔力が貯まっていく。ものすごくゆっくりだけどね。兄さんが込めた魔法は消えてるけど、魔石としては使えるかな。
魔力が無くなるほどの戦闘に遭遇するつもりはないけどね。
細工が細かくて綺麗だからアクセサリーとしてつかってもいいかな。
シーナと連絡着くまで外に出しておこう。少しでも魔力貯めたい。影の中だと多分貯まらないと思う。
兄さん連絡してくれてるんだろうか……。
◼️◼️
とりあえず今日やろうと思ってた整理は終わらせ、買い出しにきました。
来なきゃよかったな。あの女がいる。ノアといる。あの女、クソムカつくくらい上機嫌な笑顔だ。ほんとムカつくな、あの山脈。ノアに押し付けてるし……ノアもノアで嫌な顔してないし。普段と変わらない顔だし。
……あんな大きな山を押し付けられてるのになんの反応もしないのは男としてどうなのかな、ノア……。ちょびっとだけあの女がかわいそうになった。
気がつかれないようにさっさと退散しよ。ノアはともかく、あの女と話したくない。あの女の視界に入りたくない。
「あ、おじさんこの塩5キロ分くれるかな。あと砂糖は……3……かな」
「お、おう……随分多いな。保存食でも作るのか?」
「ちょっと1人で長旅するから」
「長旅!?嬢ちゃんが!?あの兄ちゃん許したんか!?まさか!」
このおじさんの店、王都の中では1番安く調味料を売ってるからよく通う内に顔見知りになった。兄さんは、【光の騎士】っていうのが王都で浸透してるらしく大抵みんな知ってる。
それで兄さんとも一緒に行くようになったから、兄さんの性格もわかるようになったと。
「それがまだなんだ。遠くにいる知り合いと連絡着いたら許可してもらえるのだけど」
「そりゃそうだよな。びっくりした。騎士辞めて着いて行く!って言い出さないだけ良かったな」
それは本当にそう思います。
私は、兄さんは兄さんで大好きだけど、騎士として仕事している兄さんもかっこよくて好き。なので仕事は辞めないで欲しい。
冒険者な兄さんもかっこいいだろうけどさ。
おじさんから塩と砂糖を受け取り、お金を払って次の目的地へ。次は野菜ですね。野菜は、可愛い男の子がお母さんと一緒に店番してる時がある店にいつも行ってる。男の子が居るといいな。顔と名前は覚えてもらったからね。
次の店までは遠くなく、すぐに店先が見えた。あ、男の子いる!
「ねぇ」
良かったぁ、癒されよ。ルフトも天使だけど会えないし、そろそろ年齢的に天使ではなくイケメンになる頃じゃないかな。
「ねぇってば」
でもあのルフトの大人になった姿って考えられない。大きな天使か?いや無いな。でもあの純粋さはそのままでいて欲しい。
「聞こえてるでしょう!?わかってるのよ!?」
私は聞きたく無いから無視してたんだよ!このクソ女!気のせいだと思ってたのに!
「何か用?」
しぶしぶ振り返れば、そびえ立つ山が揺れている。そこだけ主張が激しいな。普通そんな揺れる?ていうか取れそう。引っ張ったら伸びそう。いいや手が埋もれそう。
「そうよ、用があるの。じゃなきゃあんたなんかに話しかけないわ。ねぇ、旅に行くんですって?1人で」
は?何、聞いてたの?おじさんとの話を?気持ちわるっ!なんでそんなの聞いてたの?
あぁ、彼氏の家にいる不安要素が消えるからか。うん、それっぽい。だって心なしか勝ち誇ったみたいな笑顔してるもん。
「だったら何かな。盗み聞きだなんて趣味が悪いね。そんなに私のことが気になる?」
「もちろん。ノアに近づく女の1人だもの。ねぇどうして村から出てきちゃったの、ローズ?」
……うん?
…………ふん?
………………あれっ?
いやまさかね?この女も私やシーナ、セネルと同じ転生者だなんて言わないよね?ノアが言っただけだよね?誘って、一緒に出てきたって。
それでずっと村に居てくれれば心配せずにノアとくっ付けたのに、って話だよね?
「……なぁに?私が出てきちゃ行けない理由でもあるのかな。私は世界を見たかった。そうしたら、ちょうどよくノアが誘ってくれたの。嬉しかったな」
「ノアが?……頼み込んだと思ってたのに。違ったのね。でもどうしてノアがローズなんかを旅に誘ったのかしら」
この女ほんと失礼だよね。
ローズなんかを?本人の目の前でそれいいますか?どんな神経してたらそれ言えるの?私なんて眼中にないみたいな?
「私なんかを?私をどう言おうと貴女の勝手。でもそれは、私を旅に誘ってくれたノアのことも悪く言っているのと同義なのだけど、わかっているのかな」
「まさか。そんなつもりないわ。ノアはノアよ。ローズといようと、ノアだもの。ねぇあんた、ノアのこと洗脳でもしてるの?お兄さんもだけど」
…………残念ですがまさかは的中、と。
ノアが私の魔法の属性を他人へ漏らすことはない。私が良いと言えば別だけど、個人の判断で漏らすことはないから。ないと思いたい。いくら想いあってる相手だとはいえ、ノアがそれだけで私のことペラペラ話すような人だとは思いたくない。
それで洗脳というワードが出てくるということは、私を、“ローズ”を知っているということに他ならない。
コイツも転生者かよ。
「……どういうことかな。話が見えないのだけど」
「だぁかぁらぁ。どうしてローズなんかがノアと一緒にいれるわけ?ヒロインは消したの?ちゃんと仕事してほしいわ。まぁ、ノアをここへ連れてきてくれたのは褒めてあげる。でも洗脳は解いてね。じゃなきゃあんたの属性、バラしちゃうから」
ヒロインは元気に私のこと女神って呼んでたよ。
ところで私は洗脳の魔法を使ったことは一度もない。兄さんの方が使ってるんだけど、この女に言っても信じてもらえなさそうだな。
「洗脳って何?なんのこと?」
「とぼけないでよ。あのねぇ、闇属性だなんてぴったりのもの持ってるんだから、悪役は悪役らしく破滅してほしいの。あぁ、手っ取り早く教会にチクるわ。それが嫌ならみんなの洗脳解いて、さっさと旅でもなんでもしてこの王都から出て一生戻ってこないで」
……こんなこと言われると、旅には出たいけど出たくなくなるなぁ。従いたくない。
今話のトピックス
山が当たっても無反応なノア
めげずにいつも当てる女
転生者
女「悪役は悪役らしく破滅してほしいの」
女の名前が未だ出てこない




