魔女と呼ばれる令嬢の日常
弟、ハルについてずいぶん前に出てきた記述を訂正しました。このまま読んで何も問題はありません
ピンクを落ち着かせ、紫からお話を聞かせて頂きましたの。その間ずっとハルが腕を引っ張っていたけれど無視したわ。
曰く────。
男と紫は婚約していた。
ピンクは貴族の養子にさせられた平民だった。母親が昔その貴族と恋に落ちた時にできた子だった。
男はピンクに惚れた。紫はとても喜んだ。もとより男に惚れていなかったから。幼い頃に家の事情で決められた約束だったが、それは今となっては必要のなくなったものになっていた。
紫の家も男との婚約を辞めたかったのだが、体裁のために反故にするわけにはいかなかった。けれど男の方が不祥事を起こしたのならこれ幸いと婚約を破棄した。
ピンクは望まず貴族になった。裕福ではないけれど、近所に住む仲の良い男の子へ片思いしながら楽しい日々を送っていたのに、突然それを奪われた。しかも勝手に男に惚れられ、追いかけ回される恐怖の日々で疲れ切っていた。
男が紫の婚約者だと言うことは知っていた。だから、男と関わると紫が気分を害して何かしてくるのではと言うことでも、ピンクは怯えていた。バカな娘では無かったため、家の格の違いくらいよくわかっていた。
男は諦めなかった。ピンクに物を送っては送り返され、手紙を送っては送り返され、出会うたびに声をかけて逃げられ、しまいにはピンクに会いたいがためにピンクの予定まで調べ始めた。
紫はピンクが男を嫌がっていることも、男がそれに気がつかずピンクを追いかけ回していることも知っていた。けれどピンクと話そうとしても、位の違いを気にしてかビクビクとするばかりで話にはならなかった。
それに何故だかピンクと話そうとするといつも男が現れる。そして紫へ難癖をつける。
そうして今日、こんな状況になっていた。
ええ、カオスね。よくわからないわ。
ピンクは男を嫌っていて、紫も男を好いていない。男は好かれていると思い込んでいる。いえ、思い込んでいた、が正しいわね。今の話を聞いて呆然としているもの。
「婚約もしていないのに貴方は女性へ言い寄り追いかけ回していたのですか。阿保……いえ失礼。ただの悪質なストーカーね」
「すと……なんですか、それ」
ストーカーはこの世界では通じないわね。通じるものと通じないのがあるのが困るところだわ。ティータイムとかはあるのに。
でもみんなに通じなかったわけじゃ無さそうね。紫はピクっとしたわ。わたくし、そういうのすぐ気がつくのよ。
「その男みたいな者のことよ。貴方、見苦しいことはもうやめなさい。貴方は望まれていない」
「そんな……!リジー、どうして……!」
「わ、私はちゃんと言いました!リリアン様という婚約者がいらっしゃるのだからと!」
「それは家の事情で!居なければいいんだろう?だから婚約破棄したじゃないか……!それがリリアンは気に食わなくて、君へ嫌がらせをしていたんだろう!さっきもわざと転ばせて!」
「わざとじゃないです!それに私、貴方とのお付き合いは考えられないと、きちんとリリアン様もいる時に説明しました!リリアン様はそれで納得していらっしゃいます!」
「リリアンに脅されていたんだろう!大丈夫だから!もう婚約破棄したんだ!コイツとはなんの関係もないから!」
「私と貴方も関係ない!それにリリアン様はそんなことしないです!優しい方です!もう、もう嫌ぁ!おうち帰りたいぃぃ……!」
「リジー!」
いつもこんな感じなのかしら。自分から関わったことだけど、面倒になってきたわ。ピンクに泣きつかれ、その頭を撫でながら遠い目をする紫。男は紫へ敵意を向けている。
ピンクが言った“おうち”というのは、恐らく養子になる前に暮らしていた場所ね。まだあるのかしら?
「オフクリスタルア様……こんな調子で毎回毎回このクソ男……ゴホンゴホンッ!シャイセ様はリズベットへ言い寄っていて……リズもあまり邪険にすると問題になりますし、困っていたんですの」
「困るってレベルじゃないわね……。…………ハル、いい加減鬱陶しいわ。屋敷に帰ったら声を戻してあげるから、先に帰っていなさい」
「声を取る!?……さすが氷鉄の……そうだコイツ……シャイセ様も何か痛い目に合うべきですわね。そうすればリズに言い寄ることもないでしょう。決心が付きましたわ。オフクリスタルア様、ありがとうございました。後はこちらで処分致しますわ」
本人達がそういうのならいいのよ。わたくし、処分を頼まれると思っていたから。
どういう訳だか、以前より恐れられている感じは減ったの。けれどこういう問題を押しつけられることが増えて、良いことだとは言えないのよね。
「わかりました。ではわたくしはこれにて」
◼️◼️
「姉上、あの騎士と会うのはもうやめてください!僕はもう我慢できないです!」
声が出せるようになった途端、怒鳴るようにそんなことを言うハル。
「それは貴方の決めることではないでしょう。大体ね、貴方もわたくしに構ってないで同年代のお友達くらい作ったらどうなの?」
あのシンとあんな言い争いをするから忘れてしまいがちだけどハルの年齢、まだ11歳なのよね。10くらい歳の離れた子と言い争って、城も吹き飛ぶほどの魔法を使いそうになってしまうシンってなんなのかしら。
ただのシスコンだったわね。
「あ、姉上がそんなことを言うからいけないんですからね!僕は、僕は言いましたから!ちゃんと言いました!」
訳のわからないことを言ってハルは走って部屋へ行ってしまった。
うん、何かしら。何か嫌な予感がするわ。ハルがまた何かやらかすような嫌な予感が。
……何かあったとしてもどうせわたくしか、シン関係の事だしどうにかなるわね。放っておきましょう。
シャイセ 意味 検索
年下の子供と言い争うシン……シーナも同じ反応しそうです……




