魔女と呼ばれる令嬢の日常
短いです
わたくしはオフクリスタルア、【氷鉄の魔女】だなんて呼ばれている、とある王国の貴族令嬢よ。そして前世に地球で生きていたという記憶もあるの。……誰に説明しているのかしら、これ。
まぁわたくしの自己紹介なんてどうでもいいのよね。わたくしの話より、面白いものがこの王国には溢れているのだから。
この世界、たくさんの乙女ゲームの登場人物たちが実際に存在する世界だから、王子も前世で見た、あの貴族も、商人も見たことがある、なんて事が普通にあるのよ。
どちらかと言うと貴族の方が多いかしら。
こうなると、わたくしも何かしらのゲームの登場人物なのでは?と何度か思ったけれど、わたくしの知っている限りわたくしが出てくる物語はなかったわね。
◼️◼️
「いい加減にしてください!姉上!もう我慢ができない!なぜ平民などと馴れ合うのですか!?」
「貴方こそいい年してわたくしに付き纏うのはやめなさい!いい加減うんざりなの!」
「なっ……!?僕は姉上を想ってのことをしただけなのに……!」
目を潤ませ、悲しそうな表情をするわたくしの弟、ハルシア。もうその表情に折れるなんてことしないわ。ここで折れたらハルのためにもならないもの。
「わたくしのためと言うのなら尚更よ!」
「そんな!」
「もう俺行ってもいいかな」
呆れた声をわたくしたちにかけてきたのはこの国の騎士の1人、シン。光属性の魔法を使い、平民から騎士という地位まで上ってきた実力の持ち主。魔法だけでなく剣の腕も確かよ。
ちょっとした共通点から話すようになったの。彼も乙女ゲームの登場人物よ。キャラ崩壊が素晴らしいくらいになっているけれど。
「ええ!行ってくれください!姉上の前から消え失せてくださいませこのゴミ屑が!」
「何を言っているの!謝りなさい!シン様は国を守る騎士なのよ!?」
「……【お前こそ消えれば?】」
「シン様っ!?【聖光の盾】!」
やめてほしいわ、この2人を会わせるといつもこうなのよ。
ハルは男性が嫌いらしいの。正確には、わたくしに近づく男性全てが。シンは敵意を向けてくる人には大体ああ言う風に接するから通常運転ね。
でもハルの魔法の腕はそんなに高くない。全部わたくしが取ってしまったかのように。魔力量は少なくないのだけど。
その代わりになのか、魔道具を作らせたら王都の職人に並ぶほどの腕を持っているの。
シンは言わずもがな、魔法を使わせたらこの国で並ぶ人はいない。そんな彼がハルへ魔法を悪いように使って、ハルが自分の身を守れるわけがないわ。ハルのことだから何かしらの魔道具を使って反撃くらいはしそうだけれど、黙っていたらずっと続けるもの。シンは。
「……ちっ。ルアがいなけりゃお前なんか消し炭だからな。覚えとけ」
「えぇ、よぉくわかりますよ。姉上が居なくても僕を消し炭になんてできないことが。姉上が悲しみますからね。できもしないことで吠えても怖くもなんともねぇんだこの犬畜生が」
「【神威の────」
「辞めなさいって!!ほらもう行くわよ、ハル!では失礼いたしますわ、騎士様」
慌てて間に入り込み、シンの魔法の発動を止める。
今の魔法、大規模殲滅魔法ね。王城でそんなもの発動しようもするなんて正気じゃないわ。発動させてしまうわたくしの弟もおかしいのだけど。
「チィッ……!ルア、ソイツを殺されたくなきゃ金輪際俺の前には連れてこないことだ!知らない間に弟の存在が消えてるなんてことになるからな!」
「フンッ、これだから平民は学がなくて嫌なのですよ、姉上。よくおわかりでしょう?こんな────」
「【沈黙の呪い】!黙りなさい!ああっ!?シン、やめてわかるわよ!」
ハルの口を閉じさせ、腕を引っ張りシンから引き離す。偶然会っただけでこうなるのだからたまったものじゃないわ。
この調子だといつか城が消えそうね。
背後の大きな舌打ちにまたハルが反応しそうになるのを止め、歩き続ける。今日の用事は済んだのだからさっさと城から出なければ。面倒事に巻き込まれる前に。
「きゃあっ!」
「リジー!」
遅かったようね。
ピンクのドレスを見に纏った可愛らしい女性が転んでいる。正確に場面を言うと、王城の外に続く廊下で、紫のドレスを着た女性の横で転んでいた。その後ろから男が追いかけてきているわ。
今まで通りならこれはピンクが紫を悪者に仕立て上げる場面なのだけれど……様子がおかしいわね。
「やめて来ないで!」
「大丈夫か、リジー!」
紫なんて眼中にないみたいだわ。
彼女はただ困惑した顔でわたくしに助けて!って無言の視線を送ってきてる。
助けて、というのならどうしてピンクが男から逃げている、というようなことになったのかも知っていそうね。
話が聞ければいいけれど。
ああもう、わたくしも自分で厄介ごとに突っ込んでいくからいけないんだわ。……でもこれは気になるものね。これだけ見たら帰りましょう。
続きます




