第20話 お世話です。
母さんに全部説明したら慌てて村長の所に行ってしまった。ノアのことではなく、木のことを言いに。
側に居てお世話をなんて言われてたから本当は離れたくなかったんだけど、シーナが「私がいるから!ねっ!結局言いに行かないと心配されちゃうでしょ。大丈夫だから、行ってきなよ」って言えばノアも「癪ですがその通りですね。仕方ないです。ローズ、ほんの少しの時ですし、行って来てください」なんて言うから。
木が姿を変えたことは村の人みんなが気がついていた。すぐ見えるし当たり前か。
そして、それを私がしたんだろうということも。ああ、これからどうなるんだろう。シーナ関係じゃなくてもバッドエンドってありえる?
ヒソヒソと話しながら私を見てくる村の人たち。視線を落としながら歩いていたら、数人で話し込んでいたおばさんの1人が抜け出してきて話しかけてきた。
「ローズちゃん、あの木黒くしたのローズちゃんでしょう?」
「っ、そう、です……」
「あんな黒く染められるなら────」
おばさんは私にもう一歩近づき、耳に口を寄せてきた。何、何を言われるの?怖い、悪い言葉ならどうしよう……。
「おばさんの髪も染められないかしら」
「へっ?」
おばさんの髪は黒に近い茶色。この村に真っ黒の髪の人はいない。オレンジだったり黄色だったり。白髪の人もいる。だって私が銀だし……薄い色の人が多い。
うーんと、染める?髪を?
「ここだけの話、おばさん白髪が増えてきて困ってるのよ。ナナさんとこの染料だと明るすぎて合わないのよねぇ。自分じゃ調合なんてできないし」
村の女の人たちは、植物から作った染料を使って白髪を染めている。そんな面倒なことしなくてもいい、という人もいるけれどどこでも女の人は女の人で、気にしてしまう人は一定数いる。
おばさんもその1人ということ。
「え……そんな、こと……?」
「そんなことって!これだから若い子は大人の苦労がわからないのよぉ。いいわねぇ、白髪の心配しなくていいなんて……ってローズちゃんは元が薄い色だから白髪が混じってもわからないわねえ!あっはは!おっかしい!」
ここだけの話なんて言っていたのに大声で話し始めてしまった。
「ごめんなさい……。私には、それは無理だと思う……」
染料じゃないし……魔法で染めるなら土属性の魔法の方ができそう。
「そうなの……残念ねぇ。あっ、ごめんねぇ、どこか行く途中だったわね!いってらっしゃい」
笑顔でそういうとおばさんは戻って行った。やっぱ白髪染めは無理だったわぁ、なんて言いながら。
悪いように思われているんじゃ、ないの?
よくよく私をチラチラと見てくる村の人たちを見れば、それは悪意ではなく好奇心が大きいように見える。
「黒い木材なんて高く売れそうだなぁ」
「村の周りの木ぃあれにすりゃぁ魔物も近づかねぇんじゃ?」
「魔法付与されてる植物だぜ、売れる売れる」
聞こえる、危険度を考えていない声の数々が。
おばさんみたいな人に呼び止められないように急ぎ足で私はノアの待つ家に戻っていった。
●●
「遅いなぁ、大丈夫かなぁ。村の人たちに何か言われてなきゃいいんだけど……」
「貴女が心配しなくてもローズは大丈夫でしょう。この村の方々はそのような人ではありませんので」
「こんな王都から遠い小さな村なんてね、変化を嫌う人が多いんだから。まっ、あんたは違ったみたいだけど」
「ああ、そうなんです。優しい方が多くて。良かったです、ローズにも出会えましたし」
「くっ……ローズちゃんはあんたのことなんて何にも思ってないんだから!」
「悲しいことです。彼女は何にもなびくことがない。僕としてはそこが良いと思うのですがね」
不穏な空気のまま会話はローズが戻ってくるまで続けられていた。
●●
「なら私がやる」
「そうはいかない。……責任取らないといけないから」
「嫌々やることないよ!私が変わるから!」
「僕はローズからの方がいいですけどね」
「あんたは黙ってて!」
夜。夕飯の時間。母さんが作ってきてくれたものを並べ、食べている。ノアは下半身が固まってしまって上体を上手く起こすことができないから、寝たままだ。クッションを背中に置いて頭を少し起こしている状態。
寝たきりで食べられないからと私が食べさせることになったのはいいんだけど、これに反対したのはシーナ。
ノアに気があるからなのかな、って思ったらなんだか違うみたいだし。
別に嫌々じゃないんだけど、推しに食べさせるってなんだか……悪いことをしたからこうなっているのにご褒美みたいで。
「……ノア。あ、あーん」
「…………いや、駄目です。これは流石の僕でも恥ずかしい。やはりどうにか自分で食べます」
私がスプーンを口へ近づければ戸惑ったように目を逸らすノア。僅かに顔が……赤い!?ダメなのに興奮してきた。だからノアとはあまり関わりたくなかったのに……。
「できる?でも無理だと思う。ごめん、すぐだから。あーんして」
「あーん、って言うのがなんだかいけないんだと思うなぁ。貸して、ローズちゃん」
シーナにスプーンを取られた。
「オラさっさと口開け。ぶち込んでやるから」
それは別の意味でいけないよね。
「……まあ確かに貴女の方が潔いというか。お互い恥ずかしがっていては、いつまで経っても恥ずかしいのは当たり前ですね」
ノアはシーナが握るスプーンの食事を口に入れた。シーナは続けてノアの口に運んでいく。結構なハイペースだ。
だんだんシーナが運ぶスピードに間に合わなくなってきて、ノアの口にまだ入っているのにシーナがスプーンを押し付けるようになった。
「早くしろ、それとも無理矢理突っ込まれたいのか?お?」
「むぐ……んっ……もぐもぐ……」
「遅いぞ、ほらさっさと口開けよ」
なんだかシーナのキャラが変わってる気がする。……楽しそうだけど。
「ぐっふ!」
ノアがついに咽せた。口の中で食べ物が踊ってそう。
じゃなくて。
慌ててノアに水を渡せば、動く限りに上半身を上げ勢いよく飲み始めた。
キツい体勢だったからか、少し水が溢れてしまっている。
「ゲホッゲホッ……貴女、だいぶ鬼畜ですね」
「敵にかける情けは無い」
……敵ってなんだよ。
そういえば思い出したけど、
「……ルート?悪役?……ノアが?」
シーナが言ってたことだ。転生者なのは確かだけど、これは何を指しているの?
ノアへスプーンを押し付けるシーナは私の小さな声には気がついていない。
隠しルートに、おかしな行動をするシーナ。やけに私に絡んでくるノア。これはちょっとちゃんと考えた方がいいかもしれない。
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