切望して、手を伸ばして、思い描いていたもの
サブタイ違いますが前話の続きです。
引き続きチャラ男なので嫌な人はやめておくべきです。
だってチャラ男だもの……。
残念なことにチャラ男の上がりの時間と私たちが店を出た時間が一緒で、チャラ男と私は家が隣なわけで。
「私、リュコス送ってくから」
「付き合うよ。リュコスくん送った後は1人でしょ〜?夜に女の子1人じゃ危ないよ。リュコスくんもそう思わない?」
思わないよ!
私の奮闘虚しく、あれよという間に3人揃って歩く羽目になった。リュコスが普通俺が送るんじゃ……とか呟いてたけど君年下なんだし、そんなこと気にしなくていいのに。
きちんと気にして欲しいのはチャラ男ですね。遠回しに嫌って言ってるのに。
「エルピスさんは大人なのに変な感じする。なんでだろう」
「貴族のきちんとした大人と接してたらそりゃ誰でもそう思うでしょ、こんな奴」
大人って言えるのがすごいよ。大人?ってなる。いや、年上なのは確かだし大人なんだろうけど世の中の“大人”か?っていうと違うもん。
「ひっどー。俺傷ついたな〜。これは責任取って癒してもらわないと。さぁてどっちに責任取ってもらおかなぁ?」
ひぅ、と横から息を飲む音が聞こえた。
「リュコス?」
「せきっ…………あっ、う、ううん。ごめん。なんでもない」
顔を青ざめさせたリュコス。一瞬怯えたような顔をしていたのは気のせい?
「……ああ。なんかゴメンね。強く心に残ることは中々乗り越えられないよねぇ」
「そっ、そんなんじゃない!もう終わったことだし、乗り越えてる。ガナン様ももう家には手を出してこないし!」
「ガナン、ね……幼い綺麗な男の子を囲ってる変態貴族。なるほどねぇ。確かに好かれそうな顔立ちではある。それが嫌な記憶かぁ」
「あっ……ちがっ……!」
うん?
ニヤニヤというより深い含みのある笑みのチャラ男と、恐怖と焦り、意地が混ざったような表情のリュコスが言い争ってる。私は話について行けない。
あれ。チャラ男ってこんな顔するんだ。リュコスは出会った日に一度だけ見たことがある表情。
「違う?そっか……そういえばそのガナンサマ、近々愛息子の誕生日とかで盛大にパーティーするそうで。リュコスくんは行くの?下級でも貴族は貴族でしょ?招待状くらい来てるよね。……乗り越えてたら行くか。ごめん聞くまでもなかったね」
「招待状は、来てた……けど。父上とセイン兄さまだけ行くことになっている。別に乗り越えてないとかじゃない。一家で行く必要がないから行かないだけ」
なんでそんなこと知ってんだこの男。
なんでリュコスの傷抉るようなこと言ってんだこの男。何がしたい?
「ふぅん。ま、どっちでもいいんだけど。そろそろお屋敷じゃない?ここから先貴族街だし俺たち入れないから、バイバイだね〜。またお店きてよ。仲良くしたいなぁ」
「エルピスさんが居ない時に行く。仲良くなんてなりたくない」
そのままリュコスは貴族街の中へとズンズン歩いて行ってしまった。
貴族の暮らす街は、私たち平民とは別れていてきっちり門まである。平民は貴族の人が一緒か、許可証が無ければ入れない。今はリュコスがいたからこのまま進んでも止められなかったんだけど。
振り返りもせずに行ってしまったリュコスだけど、途中で振り向いて私に手を振ってきた。
「また明日ね!」
◼️◼️
「なんでさっきあんなこと言ったの?なんでリュコス煽ったの」
家までの道、リュコスと分かれた私は必然的にチャラ男と一緒になるわけで。
「べっつに〜。つまんないことに囚われてるのはかわいそうだと思わない?」
「そりゃあそうだけど。でも言い方あるでしょ。ていうか、貴族のこととかなんで知ってるの?」
傷を抉るような言い方しなくてもいいと思う。
こいつはこういう男だけどさ。
「秘密〜。俺の情報網、ナメないでよねぇ。この国の事だけじゃなくて、色んな事知って、るん……だから……?」
まただ。チャラ男の様子がおかしくなった。こっちの調子おかしくなるからやめてほしい。
「……朝からどうしたの。おかしいよ、アンタ」
「いや……ちょっと……なんだろう、……ううん、何でもないよ。なになに〜?心配してくれてるの?嬉しいなぁ」
「そんなじゃないけど……いつも変なのにそんな感じになったら調子狂う」
一回病院行ったらどうだろう。
このまま続くようなら薦めるべきかな。本当に体調おかしいとかならやばいし、気がついてて放っておいたってなったらさ、いくらチャラ男を嫌いだからとはいえ私の良心が痛む。
「あはは……。リュコスくん、いい子だね」
「は?何いきなり。キモい……あ!言っとくけど、リュコスに手出したらタダじゃおかないから!まだ年上の男苦手っぽいしあんまり近寄らないでよね」
城の偉い人と話す時も硬い顔してるし(これは仕事だからかもしれないけど)、本売りに行って男の人と対面はできるだけ避けてる感じがする。
本の販売とかさ、国がやってくれてるんだけど人が足りない時とか、作者直売り!の時とかは私とリュコスも本屋に販売員として行ってるんだよね。結構楽しい。
一緒にいる時はできるだけ私が相手するようにしてるんだけど、国の法だとか貴族の何やかんやとかはわからないからリュコスに頼るしかない。申し訳ない。
それにしてもコイツとリュコスは考えたくもない。なんか嫌だ。考えられないな。
「そっかぁ、まだ引き摺ってる感じ?ていうか事後なの?」
「マジあんたって最低……!リュコスは乙女!未遂だから!それ知ってどうすんの!」
「いやぁ、事後ならもう乗り越えるも何も体に刻まれてる感じでしょ〜?時すでに遅しじゃん?乙女かぁ、そっか、なら忘れられるよ。彼の気持ち次第だけど」
チャラ男に何がわかるんだ。……もしかして、コイツソッチ経験済みとか?そういう風に言うってことは無理矢理?
え、えぇ〜……ちょっとそれは…………。
詳しく知りたい。
いつ?どこで?ちょくちょく消えてたのはそういうことなの?ルス教の何とか〜ってシーナに教えられたけど、宗教関係?信仰する神の前で〜みたいな?えっ?
やだぁ、チャラ男で18禁な妄想とかしたくないけど、チャラいのが汚されるのは見たい……はじめは突っぱねてるけど、抗えなくてとことんやられちゃう系の……。
「わ、わかったけどもうリュコスには関わらないで。あんたといるとリュコスが穢される」
自分が汚れた妄想をしてることはさておき、ね。私はBL好きだけど、流石にリュコスの前でエロを描く気はないよ。妄想だけね。エロは頑張って隠してる。売られてるのからバレてる気もするけど、リュコスは何も言わずに笑顔を向けてくれてるからリュコスを信じる。
ごめんね、リュコス……。よくよく考えたら初めての出会いで私が言った言葉、『行為?行為ですか?』だったね……。
「そうだね。ふふ、リュコスくんにももう嫌われてそうだし。もちろんこれからは距離を考えて接するよ。どうせリウちゃん、またあの店来るでしょ。大体俺いるから会わないなんてことないよ。それにリウちゃんの実家と俺の実家隣じゃん?関わらないなんて無理でしょ〜」
楽しそうに笑うチャラ男。この笑顔の裏に私の妄想が隠されていたら……ううん、ダメダメ。コイツでそんな妄想したらダメ。
コイツが気に食わないのは、小さい頃からの仲でこんなだからなんだよね。こんなチャラくなったのはいつからだろう……。
「アンタが話しかけて来なきゃいい話でしょ!」
「はは、それもそうだ」
カラカラと笑うチャラ男。
前はもっと、陽気なお兄さんって感じだった。なのにどうして。どうしてこんなになったんだ。
人って不思議……。
少しの無言の時間が続いて、2人でただ家までの道を歩いてた。もう家は目前で、目に見える距離。
「1つのことを思い続けることほど辛いことはないよ」
いきなりチャラ男がそんなことを言った。いきなり何?気持ち悪い。
「はい?」
過去のことかな?チャラ男にあった、過去の辛いこと。ソッチの経験。私の妄想は現実でしたか?
「ずっとね、思って、憧れて、焦がれてたんだ。……そんな、気持ちがあったんだ。あったはずなんだ。手を伸ばして、ずぅっと思い描いていた……。そんなものが俺にはあったんだ」
うん?
私にはこの先の話が見えて来ない。チャラ男は似合わないほどに真剣な顔してるし、なんなんだ。
「えっと……」
「何を犠牲にしても、一生をかけても、って。それほどに思っていたはずで、その為に何でもやってきたはずなんだ。……でも、もう何もわからない。何に対してそこまでの気持ちを向けていたのか、どうしてそこまでやって来れていたのか。何も、覚えてない。その記憶がぽっかり消えてしまったみたいに、何も」
ええっと……。
これは、シーナに説明された消された記憶とかの話じゃない?それが無くて、チャラ男がおかしくなっている。
そんな感じ?消された記憶ってチャラ男の恋の記憶なのかな。思って焦がれてたって言ってたよ。でも恋?チャラ男は危険人物で、罰として記憶が消されたと。恋で危険人物になったの?
やっぱり私にはわからない。
「俺さ、なんかおかしいんだ。今までみたいにみんなで笑ってても、何か虚しくなるっていうか。ここで何やってるんだろう、もっとやるべきことがあったはずなのに、って。でも何もわからない。……なんていうか。生きる事の最大の意味を見失った、みたいな」
「……いや、いきなりそんな話されても。私はアンタに生きて!なんて言わないし、死にたいなら勝手にして。あ、でも変なとこで死ぬのはやめてよね。私に迷惑かからないようにして。後おばさんにも。……でもこれで死なれたら私のせいになる?それは嫌だなぁ」
なんて事ない、みたいに反応したけど内心どう反応すればいいのかわからなくてテンパってます。
チャラ男は死にたいの?そんな素振り全く無いし、悩みなんてないと思ってた。いつもニヤニヤしてて、何考えてるのかわからない。それがチャラ男。
「アハハハハ。ごめんごめん。ジョーダンだよ。ジョーダン。まだまだ俺は生きていたいしね〜。じゃ、おやすみ。リュコスくん大事にしなね。貴族との繋がりは、どんな関係であれ持っていて損はない。じゃね」
ついさっきまで思い詰めていたみたいな顔してたのに、コロッと表情を反転させいつもの顔に戻るとチャラ男は手をヒラヒラと振り家の中に入ってしまった。
なんだったんだ。
何がしたかったんだ。本当に冗談?冗談にしては真剣すぎる表情してたよ。これで終わりなの?最後の最後でよくわからないこと言って終わり?へ?
あ〜!もう!!
「これじゃあ私は今夜アンタのこと考えながら寝ることになるんですけど〜!!どうしてくれんの!」
恋で危険人物になっただけならまだよかったんだ……なっただけ、ならね……
それ以上におかしく危険思想を持ってしまったのがエルピスなんだよ、リウ……。それで行動できてしまうのがエルピスなんだよ……。
リウは薄っすら『あ、コイツ(チャラ男)って結構切れ者だな』って感じてる部分あります。
次は何を書きましょうか……。
感想ありがとうございます!




