本当は仲良いよね
遅くなりました……
最近兄さんとノアがバチバチしてる。
「お前今度倒れても放置するからな!」
「へぇ、シンがそんな非道な人間だとは知りませんでした。ローズが悲しみますね」
「くっ……」
まただ。またやってる。
兄さんのおかげでノアは目を覚まし、ゆっくりと回復していっている。こんな軽口を叩けるようになったのは最近のことで、目覚めたばかりの時はルスがいた影響なのか、自分が今どこにいるのかわからないというような言動をすることが多かった。
認識っていうのかな?落ち着いてから聞いたんだけど、自分にないはずの記憶があるとかなんとか。記憶の混濁みたいな感じ?今でも時々フリーズする時がある。
まだ完全回復とはいかないみたいで、時々倒れて兄さんが慌てて治癒している。何が駄目なんだろうね?何かが治ってないから倒れちゃうんだもんね。兄さんなんて、『俺が、この俺があんなに付きっきりで治癒してなんで……もしこれがローズなら?駄目だ、もっとしっかりしないと』なんて言って事あるごとに診察だ、ってノアを捕まえ治癒魔法を試してる。
それでも治らないんだよね〜。旅も再開できないし、ナラルさんは王都で見つけた仕事が気に入っちゃったらしくてまだ治んないでくれよ、いいとこなんだからなんて言ってるし。造ってる武器が出来途中なんだって。作り終えたいって言ってた。
ノアもそれに文句言うでもなく、この前一緒になってナラルさんが働かせてもらってる仕事場に着いて行ってた。2人で目キラキラさせて楽しそうに話しながら帰ってきたからたぶん、当分この王都に、国に。留まるんだろな。
で、だな。そんなノアと兄さんなんだよ。
兄さん、ノアのことちゃんと診て治してあげてるのに言葉がキツいんだよね。ツンデレですか?違いますね。
「大体、シンのそれはローズにとって壁にしかなりませんよね?過度な干渉は時に毒です」
「だからってお前を許すつもりはないからな!」
「僕が許されなくても何の不便もありませんよ」
ノアもノアで言うようになったんだよね。前なら笑顔で流すだけだったし。それに兄さんを煽ろうものならすぐ物理攻撃が飛んできてたし。
今は好戦的に兄さんを煽りまくってる。でも兄さんは物理攻撃で応戦しない。なぜならノアはそれを防げるようになってしまったから。
神が身体を一時的に使っていたからか、その前の人体実験が理由なのか、ノアは元々の土属性と、光属性の魔法が使えるようになった。私は後者だと思ってる。ルスは、神が入り込み、去った後のヒトはそれまで以上の力を持つって言ってた。だから前者でも有り得なくはないんだけどさ。でもルスの力と光属性の魔法は別物っぽかったし。
途中で使ってた闇属性はもう使えないみたい。それっぽいのはやりかけたことあったんだけど、兄さんに止められた。『状態を自分で悪化させんなアホ!』って。正規じゃないから無理やりは使えるけどどこかしら傷つくってことか。
「そういうところが嫌なんだ!なんだその、上から見下ろしたみたいな態度!お前が寝てる間に精神弄り倒してやろうか?」
「もう忘れたんですか?この前それをやりかけて失敗したの」
兄さんのスラスラ出てくる怖い言葉より、もうすでにそれを未遂でも試してるところが兄さんらしくて怖いよね。それを防げてしまったノアも。
ていうか精神弄り倒すって何?何してんの兄さん。
「失敗は成功の元。いくらでも試してやる」
「二度あることは三度ある。何度やろうと失敗しますよ」
「まだ一回しか失敗してねぇよ!」
そこじゃない。一回でもやってんのが怖いよ。
なんか周りがシーナみたいになってきてる気がする。みんなぶっ飛びすぎでは?侵食しないでもらいたい。まともな日常を返して!
「ねぇローズ。シンと不毛な会話を続けていても無意味なので出掛けませんか?久しぶりに動きたいな」
「おい!シレッと俺を罵倒しながらローズを誘うな!」
「私を巻き込まないで……」
切実な願い。巻き込まないでいただきたい。だけど私も行きたいな。ノアは私が冒険者として王都の外へ出てランク上げしているのを知っている。
それというのも、ノアが目覚めた時に私が着ていたものが防具服というか、胸当てだとかがついた戦闘時の服で。まあ極々軽装備だったんだけどね?長ズボンにブーツ履いて革の胸当て付けただけの。王都周辺の魔物で怪我するとか冒険者なら有り得ない(と聞いたのは知り合いの冒険者の人たちから)からさ。ただ一応、と思って着てて。動きやすい方が良かったしね。
でもそれがなんか記憶に残っていたらしく、後日「魔物討伐の依頼でも受けていたんですか?」って聞かれました。はぐらかせば良かったんだけど動揺しちゃって上手く答えられず、バレた。ノアだから別に不都合はないんだけど、それで私にランクを抜かされまいと頑張って元気になろうとしてるのもいいんだけど、もう私はCランクで、王都から少しだけ離れた所に巣作っちゃった小龍を倒す依頼終えたらBランクになれるんだ。
これを知ったらノアは無理して動こうとするだろうから言えない。無理されてまた倒れたら私のせいになっちゃうし。
それでもランク上げをしたいのは事実。強くなったと実感したいのです。周りがおかしいのばっかりだから。あと小龍の依頼、商人の人たちが通る道の近くだとかなんかで襲われてる人もいるっぽい上に、期限ありだからキャンセルしちゃうと罰金がさ……。早く仕留めないと。
ノアと一緒なら王都の外に出ても特になにも言われない。私1人なら王都から出るな、って兄さんに止められる。しかも兄さん、王都の門兵さんたちに私が1人で来たら止めるように、って言っちゃって。おかげで外に出るのが大変になった。影の中通って行けばなんともないんだけど私が出たいのは日中で、影が少ない。影が少ないと出る場所も限られてくる。出られなくて断念した日もあったっけ……。
ノアいるなら止められないからね。
「行こう?着替えてきますね」
「あー、うん……」
「おい!」
私の返事が濁ったのは行きたくないからではなく、兄さんがいるから。騙してるみたいで申し訳ない。でもせっかく兄さん今日休みなんだから、ノアと言い争ってないで休んでほしい。
●●
「そこで突き出して!遅いっ!下から来てますよ!」
「うわっ、ひえっ!?危なっ、あっぶな……」
目の前の小龍と対峙する私。手には剣を握っている。
「まだ隙が多いですね。きますよ、尾の攻撃に気をつけて」
ノアの指示を聞きながら、体を動かす。
正直、辛いです。
私から武器の扱いを教えてってノアに言ったの。これから先、魔法がもし使えない状況で魔物に遭ったりして戦わないといけなくなったら使えるのは自分の体だからね。魔法以外でも戦えるようにならないと。
それを聞いたノアが『では、何を使いますか?剣?弓?斧?鎌?武器は種類が数多くありますよ。身近な見本はシンの剣かな。後は……シーナの拳』って言うから私は剣を選んだ。
まあ剣、って言っても少し短めの軽いやつ。短剣ほどに短くはなく、肘から指先くらいの長さの。ノアが造ってくれた。こんなことで魔法使わせて体調悪くなったらどうしよう?って思ったけど、こんなのは大した力を使わないからってあっという間に造っちゃって。止める間もないよ、それ使ってる私見てニコニコしてるし。いや、私を、じゃないな。剣を、だね。自意識過剰だ。
でも満足ならいいです。
ただし、私の運動能力はそこまで高くないことを加味して指導して欲しいです。
「足元っ!後ろも気をつけて!頭上!!」
「だからまだ私には早かったんだってぇえええ!!」
小龍は名の通り、普通の竜種より小さい。けれどそれは他の竜種より、というだけで人と比べたら随分大きい。普通の竜種が一軒家くらいの大きさからあるのに対して、小龍は小さくて2メートルくらい、大きくても家の半分しかない。
対する目の前のコイツは3メートルくらいかな?大きいねぇ、これで小さいって竜種やべー。
しかもこんな大きいのに動きが早い。魔法なら離れて撃つだけだからいいんだけど、接近戦で訓練し始めたばかりの私が対応できるわけなく。
足元を払うべく飛んでくる尾、後ろから迫る鋭い爪、頭上からは大きく開いた小龍の口。ほんと対応できるわけがない!
わああと意味不明な声を発しながら私は慣れた方法、つまり魔法を発動した。攻撃ではなく影の中へ引っ込みました。
「ひぃぃ……」
外では小龍が突然いなくなった私を探し、戸惑った様子でキョロキョロしている。
あれは無理だ。普通に魔法使おう。ダイソ○でいい。
ノアは私の消えた辺りを見て笑ってるし。あ、小龍がノアを見た。ノアもそれに気がついて……。
キンッッ!!
交差は一瞬、腕のみを動かしたノアと、ノアへ突っ込みその後ろで倒れた小龍。
倒れた小龍へ目をやることもなく、ノアは私が消えた場所までやってきて、
「せめてその魔法ではなく、攻撃の魔法を使うべきでしたね」
とニコニコしながら言ったのだった。
●●
小龍は番で、ノアが倒したのは雌の方だった。怒って出てきた雄の方を私が影を使って倒し、依頼は完了。ちゃんと自分で倒したからね。
そもそも、最初の依頼内容は小龍1匹だったし。番だなんて知らん。
それより私は、さっきのノアの攻撃方法が知りたいな。小龍の皮は硬め。これは小龍だから、ってわけじゃなく竜種全体がそうっぽいんだけど。剣で相手しててもかするだけなら傷一つ付かないし、かなり強く力を入れてもかすり傷程度になる時だってある。……これは私が非力なだけかもね。
傷が付かない、ダメージが与えられないということはノアから聞いていた。だから竜種は刺突武器を使って倒すって。
剣の場合は斬る、じゃなくて刺す、で使えと。
私は言われた通りにできるだけやってたんだよ。でもほら、斬る動作より突く動作って大きくなるじゃないですか。隙もね。硬くて手痛くなってたし。言い訳だけど。
そんな硬く、攻撃が中にまで届かない小龍をノアは一瞬で腕動かして倒しちゃったの、あれはどういう原理なんだ。私があんなに苦戦してたのが恥ずかしくなるくらいいとも簡単にやってくれて。
「さっきのはどうやったの」
「僕が倒したやつですか?」
「うん」
「僕の剣、加護付きなんです。親父が打ったやつなんだけど。動かす速さで切れ味が変わるんですよ。早く動かすだけ鋭く、遅く動かすだけ鈍く。だからさっきのは勢いよく腕を動かして肉にまで届いたところでそこから剣伝いに蔓を出して心臓潰して終わりです。簡単ですよ」
簡単じゃない。
蔓ってのはノアの魔法のひとつ。植物の蔓を出せるっていう。魔物拘束する時とかに使う。皮が切れたのはわかったとしても、その蔓を出して心臓潰してってあの一瞬でそれを?
ノアが強いのはわかってたんだけど、こういうのを目の当たりにするとノアは向こう側の人間なんだなって実感しますね……。
「体調は」
「悪くないです」
良くもないってことかな。言う通りに、悪くは無さそうだけど倒れちゃったら大変。依頼は終えたし、帰るか。
「じゃあ────」
「ですがもう少し、2人でいたい」
「へ?」
うん?なんて?
「駄目……ですか?もう少しだけ歩いていたいんです」
ああ、なんだ外に居たいんだね。
今のノアは、体調悪くなった時に困るから1人でどこかへ行くことはできない。いつもいつも付き合える人がタイミングよくいるわけでもない。私は大体暇だからいるけどさ。
こういう時でもなきゃ王都の外歩くなんてできないからね。思う存分満喫してください。
「ああ、なるほど。わかった。なら私、影の中いるね。たまには1人になりたいってことでしょ」
まあこれは私だけかもしれないけど、1人でいたい時もある。部屋でもいいけどさ、外で1人になるのはまた違うから。
ノアもそういうことなんじゃないかな。
返事を聞く前に影の中へ入る。ノアから目を離さないように、でもあんまり見ないように。……矛盾とは、仕方なく起こるもの……。1人になりたいのにずっと見られてたらおかしいし。でも見てなくて倒れてるのに気がつかなかったら大変だし。難しい。
音も聴かないようにしとくか。
あれっ?なんかノア言ってるな。なんだろ。叫びたかったとか?じゃあ尚更音無しにしといて良かったね。何叫んでるのかは気になるけどさ。ノアが大きな声出すことなんて滅多にないから気になる。
ちょっとだけ……ちょっと、ほんのちょっとだけ聴かせて!少しだけだから!ごめんノア、すぐに忘れるので……。
『という意味で言ったんです!ローズ!違うんです!出てきてください!…………聴こえてない、のかな……。ああもう、これだから進まないんだ……』
なんていう意味で何を言ったんだろう。聞き取れなかった。とりあえず出ればいいのかな?
「進まないって?」
「うわっ、聞こえてたんですか?」
「最初の方は聞こえなかった。なんて?」
「……なんでもないです。帰りましょう」
なんだか曇った表情をしたノアは、ポカンとした私を置いてそのまま歩いて行ってしまった。
●●
「なんかしただろ」
戻った途端、ノアの腕を引き体の調子は大丈夫か確かめる兄さん。ノアを引き寄せてすぐにそんな言葉が飛び出してきた。
「いえ?ローズと出掛けられたのが嬉しくてはしゃいでしまったのかもしれませんね」
戦闘行為をしたなんておくびにも出さず、ノアはしれっとそんなことを言った。嘘は言ってないもんね。私と出掛け……て嬉しかった?
いや、誤魔化すために適当に言ったんでしょ。ノアならそんなこと、なんてことなく言えるし。
「お前ぇ……!誰が、誰がお前診てやってると……!!」
「恩着せがましいのは嫌われますよ。…………感謝はしていますが」
「……ちっ。こっちへ来い。絡まってるのを治してやる」
うーん、こういうのなんていうんだろ。
お前なんて嫌い!って感じ出しながらもノアをきちんと診てくれてる兄さん、そして診てもらってる立場なのに煽り散らし、嫌われてる言葉投げかけられながらも信用して自分を任せるノア。
なんかいいよね。この関係性。私が巻き込まれなければもっといい。
さてと。
私は倒した小龍の報告に行かないとね。ランク上がってるといいな〜。
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