第2話 決心したはいいものの。01
前途多難。
取り敢えずシーナとは距離を置くことにしました。ヒロインの邪魔をしなければいいはず!
酷いことを言ったって言っても、私は私の立場として当たり前のことを言っていただけだし、もう許されるも何もないや、って思ってきた。
「ローズ、おはよう。最近アレクと一緒にいないな。どうしたんだ?いつも側にいたのに。特にあの子が来てから」
「兄さん。おはよう。私、気がついたんだ。アレクはナルシストだって」
朝ごはんをゆっくり食べていたら、兄さんが起きてきた。
兄さんは私より5歳年上。私は今15だから20歳。地球なら成人の年だけどこの村では男女問わず16で成人となる。
来年か。そういやシーナも同い年なんだよね。ゲームではヒロインが成人の儀を終えた後に、ヒロインと攻略対象が悪役であるローズを倒してたっけ。それまでに悪役から脱しなければ。
「なる……?なんだそれ」
首を傾げ、私の前の椅子に座る兄さん。キョトンとした顔もイケメン。
兄さんも攻略対象の1人で、名前をシン。私の青みが強い冷たい銀髪とは少し違って、白の強い柔らかな銀髪に、母さんと同じ緑の瞳。私は父さん譲りの黄色。16で成人してすぐに村を出て、使う魔法を買われて王国の騎士となった。
久しぶりに帰ってきた兄さんは、とても背が高くなって体つきもしっかりしてる。村の人たちも誇りがなんとか、って言って褒めていた。
兄さんが使う魔法は光の魔法。光の魔法は使い手が少なく、扱う者は全員魔力量が多い。魔力量が多いということは扱える魔法の種類も多くなるし、その魔法の威力も効果も上がる。
それに光の魔法ってすごい便利なんだぞー。
この世界には魔物っていう、地球でいう野生動物がもっと凶暴化したしたようなのがたくさんいて、村とかだと大きな街から光の魔法を扱える者が作った魔道具を買って、魔物が村に寄らないようにしてる。効果範囲はその魔道具による。村の端では時々魔物を見かけるし。
で、光の魔法が何をできるのか。名前で想像できる通り、魔物に有利で中くらいの魔物までなら魔法を見るだけで逃げることもある。小さくて強い魔物はわからないけど。この村の近くじゃ生息してないから。
自分の治癒回復はもちろん、他人のものもお手の物。確か風か土の魔法を使う人も回復ができたはず。でも風の魔法を使えるヒロインはゲームで使ってなかったな。じゃあ土か。土の人が使う回復は光の魔法の劣化版で傷を治すだったり、疲労を回復する、とかしかできない。
でも光の魔法の治癒は失ってしまった腕とか足とかも再生してしまう。一度だけ、魔物に襲われた村の人が足を無くしてしまったことがあって、その時に兄さんが治癒を使っていた。その人の足そのものを元に戻していて、すごかった。
便利とか思っているけど、このままバッドエンドを迎えればその力は闇の魔法を使う私に向けられるんだよね。
「私とは性格が合わないんだ。それにアレクはシーナが好きだから。結婚もなし」
「へえ。あんなにアレクに近寄るな!みたいなことやってたのに」
ふむ。兄さんからしたらそう見えてたのか。いや私が見てもそう見えるね。誰が見ても同じ。
突然何もしなくなったらやっぱりおかしいかな。兄さんも疑うような顔してるし……。
ていうか攻略対象の1人である兄さんは、シーナが兄さんルートで進んでいないとはいえ、シーナに対して好意はある。そしてシーナをいじめる私を良く思っていない。だってそうじゃなきゃ実の妹を村の隅に閉じ込めたりします?
他所者を嫌う村の人たちはまだシーナを受け入れていない所もあるけど、それを上回る気持ちをシーナは攻略対象から与えられる。ゲームではローズ以外からの悪意は描かれていなかった。でも実際ここではシーナを嫌な目で見る人もいるし、その人たちを見ているからこそローズもシーナを攻撃していた。
「もうしない。だって意味がないから」
好きじゃないし。イケメンは眺めるに限るって前世の時から思ってたけど、本当にそう。イケメンは画面越しにでも眺めてるのが1番。
「意味がない?」
「うん」
「へぇ……」
少し口の端を上げながら私を見ると、兄さんは話の途中で母さんが持って来ていた朝ごはんを食べ始めた。
もう食べ終わった私は、話す様子のない兄さんを置いて皿を片付け、外に行くことにした。
●●
「で、なぜ」
目の前には抱き合う男女。シーナと……アレクじゃない。これはこの前に来た旅人だ。息子の方。父親と2人で旅しているとか言ってたな。旅途中で父親が怪我をしたからこの村に寄ったとも。そして彼も攻略対象の1人。
濃い青のさらっとした長い髪をうなじでまとめていて、同じ青の瞳。女にも男にも受けそうな綺麗な顔立ち。私も中性的な顔ではあるけど、この美しさには勝てません!長い髪は解いたら背中を覆うくらいの長さになるのを私はゲームの画面で見たから知っている。ちなみに私の推し。
細く、女らしく見えるのにしっかりしてて、男らしい一面がある、っていうギャップにやられた。でも恋愛をしたいか、っていうと別かな。
この村、判断基準がよくわからなくて、シーナへの当たりは強いのに旅人の彼らは暖かく迎え入れられた。やがて去ることがわかっているからかな。
「ご、ごめんなさい!私ったらぼーっとしていて!」
「大丈夫ですよ。怪我はない?」
「大丈夫です!すみませんでし……ローズちゃん?」
私の気配に気がついたのかなんなのか、シーナが私に気がついた。
抱き合ってたわけじゃないみたい。話からしてぶつかったとかそんなとこか。
「お邪魔してすみません」
何か言われる前に立ち去ることにした。シーナからは距離を置くって決めたんだ。
「ろっ、ローズちゃん待って!」
背を向けた私の腕を掴んだのはシーナ。
「何かな。口止め?流石に二股かけてるのを言わないで、っていうのはできないよ」
邪魔をしないとは言ったけど、そこまでやってやる義理はない。まあ言いませんが……。言ったとしても私が邪魔してる、って思われたら意味がないし。ていうかそもそもぶつかっただけでそれは無いよね。私酷い。
「違うの!今のはぶつかっちゃって倒れそうになった私をノアくんが支えてくれただけなの。だからそういうんじゃなくて。……違くて。私が言いたいのは、アレクくんとのことで……」
アレク。なんだなんだ。自慢か?ん?
「ああ、心配しなくていい。もう邪魔はしないし何も言わない。私は手を引く。これでこれまでのことは許してもらえるかな」
「ローズちゃんは悪くないのに……今まで通りって、できないのかな。…………ていうかこのルートまだ戻せるの?」
またブツブツ言ってる。はっきり言え!
そりゃそうだ、私は悪くない。でも今まで通りってなぜ?シーナもアレクのことは悪く思ってないはずだし、そもそもアレクルートで進んでるはずじゃ?だとしたらシーナはアレクのことが好きで……。
はっ。もしかして、シーナも中身はこの乙女ゲームをしていたことがある転生者!?悪役の私が身を引いたことで、これからどうなるかわからないから安全な悪役存在ルートで確実にアレクとくっつきたいとか!?
それは無理です!
「なんでかな。アレクと君は恋仲。だったら私が居ない方がいいはずだけど。それとも何?私がアレクに嫌われていて、君がアレクに庇われている、っていう状態じゃなきゃ安心できないのかな」
真っ正面から『あなたは転生者?』なんて聞けるわけない。だったら遠回しに聞くしかないわけで。
「えっ、違う!私はアレクくんのことは好きだけど、その好きは人として、友達としての好きであって恋愛の好きじゃないの!だから、ローズちゃんが身を引く意味はないの」
はい?あんなにアレクにべったりくっ付き回ってたくせに?だからアレクもあんな風になったのに?何このピーーッが。
……ごほん。失礼しました。
「今までの行動でアレクを恋愛対象として見てないなんて思えないのだけど。もっとマシな嘘つけば?」
「嘘じゃなくて……!私の好きな人は、別にいるの!!」
なんですと。
前編
申し訳ないのですが、機械の設定により段落前の字下げができていません。ご了承ください。
評価は、最新話の1番下にあります。




