表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隠し攻略ルートは悪役の私!? 〜乙女ゲームの悪役に転生しましたがヒロインから女神と崇められています〜  作者: 絡鎖
第4章 悪役の私が世界を知るまで。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

199/251

終局 不透明で不確実

視点はローズではありません。

読めばわかります。

無、だった。


自分は何でもなく、ただそこに剥き出しのまま在るだけ。そもそも自分という概念がよくわからない。


自分は、自分と言うのだから“個”があったはずだ。


個人として、確立された何かであったはず。


個、“人”……?


そう思うのなら、自分は人であるのだろうか。そもそも人とは何だったか。


何もかもがわからない。わからないものを追求しようとする思いもない。ただ、そのまま在り続け、何をするでもなく、変化しようとするでもなく、存在しようと……存在、していたいのだろうか。


このまま変化なく在り続けることはできるが、消える方法はわからない。消えたいと願えば消滅することができるのか?


わからない、わからない。


何をしたいのか、どうしてこうなっているのか。悩みは好きではない、何も考えたくない。


真っ白に埋め尽くされ全て消されてしまう。自分というものが無くなり消えて消去される。


────驚いた、消えてないんだ。こんなにぼろぼろなのに。すごいや。


誰の声?聞き覚えのない声。


誰に向かって言っている?わからない。


────うん?君だよ、聴こえてはいるんでしょう?ねぇ生きたい?消えたい?


君、君……。どうやら自分に言っているらしい。どこから聞こえるのかもわからない声。そもそもどうやって返事をすればいいのやら。


そう、だな……生きるというのはよくわからない。ただ、消えるのは、怖い。


それだけはわかる。


────うんうん。だよね、わかってる。みんなそうだもん。みんなって言うか君で3人目……って君は……なんでこんな所に来たの?なんでこんなことになってるの?なんで君がこんな……ああ許せない、許せないな。いくら信徒といえど……。


声の主は何かに怒っているようだった。


怒り。自分にはよくわからないもの。知っているのだからわかるはずなのに、わからない。先程の“怖い”というのもそうだ。怖い、というものは知らなかったはず。だが自然と出てきた。


これは、


────感情、だよ。今、君は個として確立する前の状態にまで戻ってしまっている。思い出して、君は生きていて、きちんと過ごした日々があるってこと。


生きて、いる。過ごした日々がある……?


自分は……僕、は。


たし、かに……生きて、いて。人として過ごしていて。


でもまだわからない。まだ足りない。思い出せない。


────思い出せる。生きたいと願っているのなら、絶対に。思い出して、“ノア”くん。







●●








僕という“個”を保つのに必死だった。


気を抜けば押し流されてしまいそうで。


他を考える余裕なんてない。周りを見る余裕だってない。そもそも周りが在ったのかもわからない。


ただ、存在していたいと。それだけを“願って”いた。


僕を“個”として守るようなものを感じた。少しだけ、楽になった。


それなのに、


────ボクの世界だ。ボクが創造主()だ。好きにはさせない。


それなのに。


力が抜けていく。気を抜いているわけでもないのに押し流されかける。僕という“個”が、“他”という別のものに塗り潰されそうになる。


辛い、きつい、苦しい。


僕を否定されているようで。


このまま流されて仕舞えば楽になるんだろう。でも僕は消えたくない。まだ、やり残したことがあるから。それがなんだったかはよくわからないけれど……。


それでも。


消えたく、ないんだ。







●●







激情と、激昂と。


自分のものではないのにまるで自分が抱き、上げているもののように思えてしまう。


生きたい。


────守りたい。


消えたくない。


────絶対に消させない。


……戻りたい。


────許さない。


2つが混ざり合って合わさって、境界が曖昧になっていく。


あぁ、溶けていく。“僕”を構成している壁が無くなって、中のものが全部どろどろと流れ出ているようだ。


溶けて、混ざって。


僕は、僕で。僕以外の何者でもないはずなのに。


僕は、ボク、で……い、いや、いや。違う、僕は僕だ。だからこんな、こんな…………


────────『異物、か。どうせ終末の世界なのだからと他世界から受け入れたが……』『はっ、それが間違いだったね。私は今度こそ自分のために元気に楽しく人生生きるって決めたんだから!』『だからなんだ?もう終わる、この世界は消去する。最初からやり直す』『させないって言ってんの!ここで生きられなかったら私、他に場所ないもん!』『それはお前の都合だ』『そっちだってそっちの都合でしょ!』『ふん、話にならぬ────────


これは僕の記憶じゃない。


じゃあ誰の記憶……?


────────『神滅(しんめつ)……(とう)?』『いいや、正確には神滅(かみほろぼし)(のかたな)、かな。(やいば)とも言う。怖い名だねぇ』『厨二感ある。名付け親誰?』『わからない。忘れたな。でも他の世界で君のように立ち上がった誰かが付けたのは確かだ』『へぇ〜。こんな刃のとこに石?これ魔石?挟まってて脆くないの?』『脆くない。……いや信じてよ。何その顔。信じてないな君!?』『あんた私に何したか忘れたの!?』────────


知らない記憶と僕の記憶が混ざり合う。どこまでが僕の記憶で、どこからがボクの記憶なのか……。


境界線は溶けて消え、僕も曖昧になっていく。


ああ、結局消えてしまう。頑張ったのに、願ったのに。結局、僕は僕で無くなってしまう。


────────『ねぇ、おかーさんは?』『……母さんはな、遠い所に行ったんだ』『とおい?どうして?』『そう、だな……先に行って、俺たちを待っててくれてるんだ。だから、だから……うぅっ……だかっ、ら、俺たちも、ひっく、行かなきゃな……』『おとーさん?どうしたの……?どこかいたいの?おなかいたい?だいじょぶ?』『……あぁ、ああ。大丈夫、大丈夫だ……。なぁ、“ノア”。ごめん、ごめんな……』────────


────────『だぁかぁらぁ。無理なものは無理だって!親父みたいな上位魔法は使えない!……期待してくれてるのは、嬉しいけど』『いいや出来るはずだ。俺に出来たんだぞ?ならその息子にできないはずがない』『その謎理論意味がわからないなぁ……』────────


────────『ねぇ、“ノア”『あんたのせいでこんなんなったのになんで『ふふっ、嬉しい。ありがと、兄さんには内緒ね。聞いたらうるさ『あーもー!わかった!わかったから!私だって死にたくないもん。やる、やればいいんで『ローズに何かあったら許さないからな!個人的に気に入らないからお前のせいにするからな!いいな!ローズに何かあ『悪神。お前は、我が敵。被造物とて容赦はせんからな。抗うというのなら見せてもら


『“ノア”!ねぇ、見て!すっっごい綺麗!』

『本当ですね!朝でこれなら、夕方辺りでも同じくらい綺麗だろうね。見られないのが残念です』────────


強烈に印象づけられている、綺麗な銀色。


冷たく見えて、それは外見だけだとすぐにわかる。


この、この銀をもう一度見るまでは……消えられない、かな……。






●●






────ノアくん、ノアくん?……ああ良かった、まだ消えてない。ごめんね、もう少し頑張って。あと少しで終わらせるから。そうしたら、返すから。この体。


溶けて蕩けて、ただ一つの色を思い浮かべ、辛うじて残った残骸。


言うなら瀕死。もう少し頑張るなんて、出来るかわからない。


ほとんどごちゃ混ぜになって、もう元の僕とは言えなくなっている。


…………もう、諦めようか?生きること、存在すること。ただ、在ること。僕として、“個”を持って生きていくこと。


それを、諦めようか。




ふと青の輝きが辺りに満ちた。満遍なく、どこまでも澄んだ綺麗な青。いつか見た、あの空の色と同じ。


「ここはボクの世界だっっ!!ボク以外の何者にも好きにさせてたまるかっ!!」


ガクン、と。


決定的に何かが持っていかれた感じがした。


後に残るのは大きな虚無感。


ああ……駄目だ。


掻き消されて、失われて……僕、は……まだ、生きていたいのに……。







●●








柔らかなものを感じた。


口に。


なんだろう。


次に重さを感じた。


体が重い。


何かしたっけ?


「……なんてね。そんな都合良くいくわけないか」


ああ、彼女だ。


その声を認識した途端、突然全ての記憶が戻ってくる。


そうだ、そうだった。僕は酷いことをした。彼女に、────ローズに。とても酷いことを言った。謝らないと。傷つけたのだから、きちんと謝らないと。


散々な目にあった。


辛かったし、苦しかった。


だけどローズだって同じだったはず。自惚れるわけではないけど、今まで一緒にいた僕があんなことを言うなんて思わなかっただろうし裏切られた気分になったはずだ。


起きないと。起きて、伝えるんだ。早く。


ゆっくりとしか動いてくれない己の体へ苛立ちを覚えながら、僕はまぶたを持ち上げる。


銀の輝きが、もう一度と願った色が視界を覆う。


ああ、長かった。辛かった。


それももう、終わりなんだ。




感嘆と歓喜が混じった声が耳を打つ。

これにて本当に完結となります。

ここまでお付き合いくださった方々。ありがとうございました!自作の中でここまで反応があった作品が初めてでして、そのことがモチベ上げにも繋がっていました。読んでくださるだけで嬉しい。

反応があった、とはいえ自作の中と比べたらものすごい数値、というだけでこの“なろう”全体から見たら小さなものなのですが。それでも本当に、ありがとうございます。

長くなりそうなので続きは活動報告にて書かせていただきます。


投稿は続けます。書きたい小話も沢山ありますし、魔女さんや腐女子の彼女のその後も書きたいですから。

あと少しだけ、この世界へお付き合いくださると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ