第29話 こんな騙されやすくて大丈夫なんです?
辛辣な言葉を吐いたのは、ルフトだった。
「ルフト!?大丈夫なの!?」
「うん。ごめんね、僕耐えられなかった……強くならないと、って思ってたのに。でももう大丈夫。前より体が軽いんだ。このまま、いっくよ〜!」
バチバチと大きな音と光を発している手を後ろへ引き絞り、えいや〜、という抜けた掛け声と共に撃ち出す。
「なっ、やっ、防御がっ!ああぁぁぁぁぁア”ア”ア”!!」
言い表すのなら雷。
ルフトの手から打ち出された光の矢が3人へ殺到し、ドンっ!!と音を立てた。あの正に雷が落ちた音と一緒。
雷が直撃した3人は、同じように悲鳴を上げ痙攣し、その場へ倒れた。
……呆気ない。何度目だろう、この呆気なさを感じるのは。
「ばっちり!えっと、気合で魔力を吸い取るんだっけ……じゃあ気合入れてもう1発!いっくよ〜!」
「やめやめやめ!!シーナと同じになってるぞ!もう気絶してるから、ていうか瀕死だから!」
笑顔で殺る気マンマンだったルフトだけど、アレクの“シーナと同じ”という言葉にぴくりと反応すると、手を下ろした。
それで効くってすごい。シーナと同じなのがそんなに嫌なのか。……嫌だね。
「……よっわーい、って煽るくらいなら同じじゃないかな?この人たち弱いよ。疲れてたのかな?」
「同じだ。……3つに分かれよう。ここに残るのが1人、シーナたちを呼びに行くのが1人、向こう見てくるのが2人」
アレクの言う通りにするのがいいかな。動いてないとノアのことが気になりすぎてどうにかなりそう。
「うーん。ここからヴェリテの森までだいぶあるよ?だから僕が行くね。僕なら加速して行けるから。ここで動ける人たちの中では1番だと思うし」
「ふむ。なら俺は残ろうか。シンくんはやり難いだろうけど、一応回復魔法も使えるからね」
となると、私とアレクが2人行動なんですね。
……気まずいなぁ。
●●
ノアに付いていたかったけど、あそこにいて私に何ができる?って話。何もできない。魔力のお裾分けくらいはできるかもだけど、それより私はすることがあるから。私が力を尽くして、とルスにも言われたんだし。
頑張らないと、ノアが戻ってくるどころじゃなくなる。
「…………」
「…………」
それにしてもこのだんまりは気まずい。ひっじょーに気まずい。
幼なじみであり元婚約者であり、シーナのことが好きだったけどフラれた男、アレク。そんな彼に私はどう接すればいいですか?
他の人がいればそのまま話せるんだけど、2人だと色々難しい……。
「ろ、ローズ」
「何」
「なんか、さ。2人だけって久しぶりだよな」
「そうだね」
「だろ?」
「うん」
続かない。話が、続かない。
村ではアレクとどんな話をしてたっけ?どういう態度で接してたっけ?全然覚えてない。
沈黙が痛い。
私の影の中から移動してるんだけど、薄暗いから余計に。
「……お前、さ。変わったよな」
刺さるような沈黙のまま黙々と歩いていたら、アレクがまた話しかけてきた。
懲りないな。
「変わった?」
「ああ。こう……なんていうんだろう。しっかりした、っていうか。大人っぽくなった?のかな……。村にいた時とは全然違う感じがする。……よく笑ってたし、楽しそうだ」
成長したってことかな。まあこれでも2年経つもんね。早い早い。
でも村の時と変わってるつもりはあんまりないな。村でも笑ってたよね?楽しくないってこともなかったし……。なんだろう。アレクから見て私はどう変わってるんだろう。
「そんなつもりはないけど……前も笑ってたし」
「そうなんだけど。やっぱり、その……ノア、なのか?」
「何が?」
「だから、……っ、その、お前がなんか昔みたいに柔らかくなったのは、ノアのこ……いっ、言わせんなよ!察しろ!」
なんか覚えがあるな、こんなシーン。ああ、シーナだ。村で、自分から好きな人がいるって言ってきたのに結局言わなかったやつ。懐かしいなぁ……。
じゃないね。ノアがなんだから私が昔みたいに柔らかくなったって?ていうか私柔らかくなかったのか。
まぁ……少し大きくなってからは、幼なじみとしてじゃなく、将来の相手として思ってて前みたいに接することができなくなってた感じは、私もしてた。
「全くわからないことを察しろって無理じゃないかな。ノアが何?」
「……俺に対しては、変わらないよな。まぁ……うん。あ、あそこ!人集まってるぞ。白い服着てるし、ルス教関係者だろ」
アレクに対しての態度?変わってないつもりだけど……露骨に話を逸らされた感じがする。
話したくないってことかな。話す内容もなくて辛いからそれに乗りましょう。
「ほんとだ。否定派か肯定派か……あったこと、全部聞いてるよね?」
「ああ。大体はわかってる。肯定派なら放置で大丈夫だろ?教皇も否定派なんだよな。まず教皇から探すべきじゃないか?」
確かに。教皇=トップ。当たり前ですけど。あの枢機卿の方が上っぽい感じしてたけど、教皇は教皇だ。逃げてから居場所がわかってない。あの3人を止めてても、教皇がいればまた指揮は取れそうだしどうにかしないと。
とりあえず、で外に出る。
「枢機卿も教皇様もいらっしゃらない!地下の否定派の連中のとこで大きな爆発はあるし……例の闇の反応も情報が入ってこないしどうなってるんだ」
「アイツら神降しの儀を行ったらしいぞ。しかも成功してるって。やばくないか、神はどこに……」
「器があったっていうのか?……でもあんだけ人拐ってきてるしな。1つくらい見つかるか。ついこの前運ばれてた青髪の青年がいただろ、彼はエルピスのとこに持って行かれてたな。あれか?」
「かわいそうだな、あんな狂人のところなんて……とりあえず人集めて青髪の男探させよう。早いとこ保護しないと」
「いやもしかするとさっきの爆発って神が起こしたものなんじゃないか?だとしたらそっち行く方が……」
「お兄さん達肯定派の人だよね。ちょっと話したいのだけど」
「ちょ、ロー……っ、ゼッ!」
近寄り話しかければ肯定派の人2人は驚いた顔で私たちの方へと振り返り、後ろからアレクに腕を掴まれた。
アレク、ローズって言いかけてるし。ゼ、って言ってるからロゼってシーナが考えた偽名思い出したんだね。っていうかアレクたちとはその時一緒に行動してなかったはず。シーナ、教えてたのか。アレクもよく覚えてたな。
「お前らどこからっ……!?」
「一般信者は立ち入り禁止だぞ!それより肯定派ってなんで……っ!」
「その“エルピス”、と一時期一緒に行動してたから、大抵の事情は把握しているけど。否定派の神降ろしは失敗しているよ。いや、神は降りているけれどね。神は否定派に罰を与えた。その内ここも危なくなる。間違った情報に踊らされた信者など必要ない、神を否定するのならこちらも同じようにする、と神は仰っていた」
うん、私演技上手いかも。エルピス、の名前が効いたのかな?怪しんでいる様子はない。
私のしたいことを察したアレクが加勢する。
「否定派と一緒にされたくないだろ。だから今から否定派の連中掃討しに行く所なんだ。そうしたら神も情けをかけてくれるかもしれない。もちろん、間違ったことは中断して、な。間違ったことって例の闇の女のことだろ。まぁおかしいとは思ってたんだ。情報源があの大司教だったしな」
それいいね、肯定派取り込んで乗り込む。信じているはずの神を否定するってよくわからないし、話通じなさそうだけど肯定してるんだし話通じそう。仲良くなって損はないはず。
それよりね、情報源があの大司教だからってどういうこと?それ大丈夫なやつ?
「たし、かに……。なぁ、お前ら2人で行くのか?まぁエルピスといたくらいだから実力はあるんだろうけど……。もう少し人手あった方がいいよな?」
「絶対そうだ。俺たちも行く。行かせてくれ。神をこれまで信じてやってきたのに、否定派のせいで終わりになるなんて嫌だ」
信じたよ。兄さんとシーナが対処したから大司教がどんな人なのかも知らないけど通じてよかった。アレクナイス。
「もちろん。少し不安ではあったんだ。たったの2人だから。肯定派の他の人も呼んでもらえたら嬉しい。人数は多ければ多いほどいいから」
完璧に騙された2人を連れ、私たちは地下に行くことにした。最後にいた場所だね。ルスと別れたとこ。
そこまでの道よくわからないからうまいことアレクが言って、案内してもらうことにも成功した。
1人は仲間を呼んでくると言って走って行ってしまった。
「ねぇ、大司教の情報が、ってどういうこと」
「ローズがバレた時に街にいた大司教、光属性なのに大した魔法使えないし人望もないし、あんまりいい評判無かったんだよ。ついに嘘の情報まで出したのか、って。金だけはあったからそれで周り取り込んだんだろ、みたいな噂もあって。それ知ったシーナが尾ひれ付けて色んな所に流しまくったわけ。それでこうなった」
前を歩く肯定派の人に聴こえないよう、こっそり聴けばそんな答えが返ってきた。
その大司教がそんな噂が出るような人で良かったと言うべきなのか、シーナありがとうと言うべきなのか。わからないですね……。
次の話とエピローグ書きますね。そしたら解決。たぶん。




