第26話 私たちは私たちにできることを、ですね。
神ってやっぱり私たちとは違う。考え方も、感じ方も。
創造主だから。命さえも造り出したものの一つに過ぎないから。だから人1人、命1つ、たったそれだけだと思えてしまう。
私たちが何かを作って何も考えずにただ使うのと同じ。それに考える頭があるだけ。そういう風に思ってる。
やっぱり違う存在なんだな、って実感する。
「で、その探すものは何なんですか?流石に探すものわからず世界の中から探すって探し物するとは言えないと思うんですけど……」
「あぁ、えっと。武器なんだ。確か、剣の形。刃の部分に透明の石が嵌め込まれてる。見ればそうとすぐにわかる。神を斬り死に至らしめる神殺しの魔剣。柄に名前が……いや。今のはナシ。柄に、異国語が書いてある。刀身に刻めば良いものを、なんで柄にしたんだろう?謎だよね」
まあだいぶ人っぽいけど。よくある創作とかじゃ近寄りづらいものとして描かれるけども、ルスは親しみやすい。
良いことなのか悪いことなのかはさておき。
剣か。刃に透明の石が嵌め込まれた剣。名前入り。大きさは?どこらへんが怪しい?誰が持ってるの?
「わかった。どこら辺から探せばいい?ていうか、盗めとかじゃないよね?」
「まさか。誰の持ち物にもなっていないはずだよ。人から見て価値があるとは思えないものだから。そこらにあるものと同じ。もう錆びてるだろうし、目も向けないよ。場所、場所ねぇ……わかんないな。怪しい所としては……ヴェリテの森の辺り、かな。創世記に載る神殿があった場所。そこじゃなきゃまた別の所」
「ヴェリテぇ!?ひっろ、やば……せ、世界からは狭まったって喜ぶべき?」
そんなものが神を殺す武器。それって、言ってよかったのかな。ルスにも同じように効果があるはずでしょ?私たちの誰かがルスを亡き者にって考えてたら殺されちゃうよ?
それにヴェリテの森、か。ヴェリテって、その森だけじゃなくて地域の名前、みたいな感じだったはず。森含むそこら辺。大陸全体。広い。
「行きましょう。時間、無いもの。ルスは戦っていてね?信じてるから」
「そうだな……。俺たちは俺たちでできることをする。だから……世界と、ノアと。お願いします」
「ん。ボクも神として威厳見せなきゃね。チャチャっと片付けてくるよ。ノアくんにも負担かけないようにするし、もしかけたとしてもその後最善を尽くす。あとは任せて」
ニコリとルスが笑う。ノアのように。
神としてと言う割には私たちの立場で、私たちに寄り添ってその言葉を発したように思えた。だからといって負けそうだとか、何か失敗しそうとかそういうわけじゃないんだけど。
「私、ミーシャと組むから。先行くね。シン、ローズちゃんのこと頼んだから。ミーシャ、行こ。体調は大丈夫?飛ばすよ」
「はい!絶対すぐに見つけます!」
「エル、私たちも行きましょう?できることをするの」
「ええ。もちろんです。それがお嬢様のお望みならばどんなことでもお手伝い致します。もちろん危険なことは断固拒否させて頂きますが」
4人はすぐに行ってしまった。ルフトがダウンした今、2人ペアで行けるのか。確かに分かれて探した方が合理的だよね。
見つかる、のかな。見つけたとして、ルスはノアの力でチャラ男を対処し始めている。この行動に意味はあるのかな。セネルの言う通り、もし何かあって必要になったら意味はあるけど必要にならなければ?
意味、ないよね。……もしこれが理由でノアが戻ってこなかったらどうしよう。
「ねぇルス」
「なぁに?」
「……ノア、大丈夫だよね?」
「そんなこと。ふふ、大丈夫だよ。ノアくんの生きたい、消えたくないっていう思いは本物だ。この体を明け渡すことだってしたくなかっただろうね。じゃなきゃ泣かないもん。泣くほど辛くて、悲しくて。嫌だったんだ。ボクへこの体を渡せば自分は消えることになるってわかってたんだろうね。もしかすると聞かされてたのかも。あの彼に。まあ普通嫌だけどさ。……大丈夫だよ。最善を尽くす。ボクを……いや。ノアくんを信じて。そもそも探してもらってるものがない今、ノアくんの力を借りないとこの世界を救えないんだ。すごいことでしょ?」
ノアが泣いてた。泣いていた。消えたくないっていうのは誰でも同じだろうな。私でも同じように思うだろうし、泣くかもしれない。なんでそれをルスが知っていたのかはさておき。
武器を探して、でも今それがないからノアの力がいる。なんで?
「武器とノアの力になんの関係が……あっ」
「わかった?ノアくんだからこそ、だよね。もしボクがノアくん以外の体に落とされていたらもう世界が崩壊していくのを眺めていることしかできなかった。これだけは本当にノアくんに感謝なんだ。ノアくんは、救世主だ。ノアくんじゃなかったら世界は終わっていた」
「……あいつ、上位の……だから」
ノアは土属性の上位魔法を使える。つまり金属生成。ノア自身の力で、神殺しのその剣をルスは造るつもりなんだ。
自分で、自分も殺せる剣を。いやそんなこと言ったら人間の鍛冶屋はみんなそうだけど。
ノアの力で作れるんだ。神殺しの剣。
「うん。……何、いや無理だよ?普通は。その知識がなきゃ。ボクだからできること、なんだからね?人には無理だよ。ホイホイ造られたらボクは安心して下界に降りて遊べないよ」
私の心を読んだかのようにルスが慌ててそう付け足した。そりゃそうか。簡単に作れるものなら探せ、とかノアの力を使わないと、とかにはならないもんね。世界中にそんな剣が転がってるってことだし。
ていうかルス、遊ぶって言った?ここに来て遊んでるの?こんなルスを信仰してたルス教ってなんなの?
「じゃあ、……よろしくね」
「ああ。任せて。ボクの世界だ。ボクが創造主だ。好きにはさせない」
今度はニヤリと。挑戦的に口の端を上げ、目を細めて笑う。それを見て私は思わず顔をしかめてしまったけど、それはルスの笑みを深めただけだった。
ルスが右手を前に突き出す。
「さぁ、行って。ここは戦闘域に入るだろう。すぐに崩壊するよ。生き埋めになりたく無ければ、さぁ。全て終わった後でまた会おう」
兄さんに肩を掴まれ、抱き寄せられる。転移するんだ。距離的にも状況的にも仕方のないことか。
転移の直前、ルスの右手に握られた飾り気がなく少し刀身が長く見える剣の、いやあれは刀……?その刀身に埋め込まれている青い石がきらりと光を発したのが見えた次の瞬間、私たちは別の場所に移動していた。
柄に名前が…剣の名か、果たして何の名か……。
ノアが泣いていたというのを知っているのは、ルスがノアの体へ落とされた時に体触って色々確かめてるんですね。その時に気がついてます。
「あれ?なんで泣いて……」




