神が想うこと
遅くなりました
ボクはこの世界の管理者。
今の世界の仕組みを創り出したものであり、全ての生きる被造物を生み出したもの。
まあ少しズルはした。この世界は元々奴が創り出したものだった。ボクはその土台を貰っただけ。貰ったという言い方は語弊があるかな?だってボクの場合前任者を倒してこの世界を奪い取ったから。凄くない?
おかげでだいぶ楽をさせてもらったよ。
この世界をボクのモノにしてから知ったんだけど、世界を1から創るのってものすごく大変なんだよね。
いや別に神として普通に存在しててそれが当たり前のことなら大変でもなんでもないんだろうけど。じゃなきゃあれだけ沢山の世界は存在しない。
ボクは大抵のんびり過ごしてるんだけど、時々自分の世界へちょっかいを出すこともある。
たまに降りて戦争に関わったり未来の英雄を産ませたりするんだ。楽しいよ。意味もなくぼーっと自分の創造物を眺めて、『あぁ、綺麗で、美しくて、最高』って自画自賛するの。
他の神との交流は少ないかな。
でも地球の神とは仲良くさせてもらってる。突然押し掛けて地球散策とかよくやってる。全ての元凶はあいつだ。迷惑とは言わせない。
奴はボクを悪と言った。
ボクは奴を悪とした。
ボクはね、正しいことをしただけなんだ。奴にとって正しくなくても、ボクの行動は数多くのものにとっては正しいこと。
奴がその“数多く”を気にもかけなかったとしても。
まあそんなことをしたボクも奴と同等になりかけてはいるんだけど……まだ大丈夫。
●●
で。
ボクは今奴の力のみを取り込んだボクの創造物に囚われている。
ちょっと彼を侮り過ぎていたみたいだ。奴の力を取り込んだとしても所詮人だと、ボクの創り出したものでしかない、と。そう思ってた。
そんな風に思っていたものに無力化され囚われているんだから、ボクがどれだけバカでアホかってことがよくわかると思う。
だいぶピンチだ。
奴の力の一つに、ボクを無力化させるようなものがある。神殺しというか、神対神の技的な。そんなものに囚われた今のボクは創造物のヒトと変わらない。そんな力が漂っているからここら辺の感知ができなかったんだよね。
奴には、普通の攻撃は効かない。倒すのにはちょっと特別なものを使う。神だから当然だよね。ボクだって普通の攻撃じゃあ完全には倒せない。依代にしている身は滅ぼせるけど、ボクに肉体はもうないから。
だからとてもピンチ。この状況の打開方法が思いつかない。ボクは神としての力を使えない。物理だって効かない。彼は世界を終わらせようとしている。それを見ているしかできない。
大体、ここの信者君たちってボク殺そうとしてたんじゃないの?なのになんで彼のことを信じたんだろう。その結果、全員洗脳されてただ従う人形と化しているわけだけど。
「あぁルス神……もうすぐ貴方を自由にしてあげられます……」
自分に酔っているんだろうな。
彼はボクを救うと言った。世界から。この世界を壊すことでボクを救うのだと。意味がわからなかった。
ボクはそんなこと望んでいないし、自分の世界を壊されるなんてこと許せない。だから今すぐにやめてもらいない。
「お願い、お願いだから……っ!これ以上壊されたら、本当に……!やだよ、やめて……」
拘束から逃れようともがけばもがくほどに、紫の光を放つ鎖が強く体に喰い込んでくる。これも奴の力で作られたものだ。嫌になる。
ボク自身の力と、この体の、ノアくんの力がコレに奪われていっているのがわかる。駄目だな……これ以上ノアくんの力を盗られたらノアくんが戻って来られなくなる。ローズちゃんと約束したから、せめて奪われる力はボクのものだけにしたい。
苦しいな。この無力感と、大事なものが目の前で壊されていく絶望感でもっと苦しくなる。
彼はボクが体の持ち主、ノアくんに誑かされていると言った。ノアくんの居場所はもうない、だから邪魔をせずに消えろ、と。
はぁ、ノアくんの意識はないのにどうやって。そもそも話したこともない。ていうかね、ノアくんたちはボクのこの世界でも結構大切なものの中に入る。だから勝手にこういうことされるのは困る、というか嫌だ、というか。
別に関わったからじゃないよ?そんな理由で簡単にボクの守るべきものは変わらない。
「だから、なんで……話、ちゃんと聞いてる……?」
話が通じない焦りと鎖の締め付けで顔が歪むのがわかる。
目の前の彼はただ悲しそうに首を振ると世界を壊す作業を続け始めた。世界を構成するものに1つずつ奴の力を混ぜていき、壊している。
ゆっくりだけど確実に、ボクの世界は侵食されていっている。まだボクの創造物が多いから、侵食スピードは遅い。ボクの力が奴の力を押し留めているんだ。押されてるけど。頑張って奴の力が染み込んだものを取り払ってよかった。
全部侵食されたら一気に壊される。終わりだ。
参ったな、どうしよう。
世界が壊されていくのが見ていられず、ボクは俯いた。剥き出しの地面は影に覆われ、暗い。ボクのこれからみたいだ、なんて思ったのは一瞬、すぐにおかしいことに気がついた。
だっていくらここが外より薄暗いからとはいえ、ここまで広範囲が影に覆われるはずがないんだ。
ああ、そうだった。
この体にいるうちは、ボクには協力者がいる。
とぷん、とボクの真下の影が波打つ。
「ルス……!」




