第23話 私、動きます。
その空間の中心でルスは紫の光を放つ鎖に囚われていた。鎖が何か良くないものなのか、ルスは苦しそうに顔を歪めている。
「ちょっと状況整理……」
「そうね。ルスがあの男に捕まってるわ。助けなきゃ。はい、整理終わり。行きましょ?」
「お嬢様、神でさえ敵わない相手です。無理なこと、おわかりですよね?」
チャラ男が強いことはわかっていた。
最初の時も兄さんがチャラ男の気配を察して、同じくらい強いのがいる、って言ってたし。戦闘もどっちも引かず、だったし。
それでも負けるほどの差があったとは思えない。ていうかルスだよ?負けるはずがなくない?この短期間に何があった?
「わかってる、わかってるわ。ただ冗談言っただけよ。……同化、って言ってたわ。“フルム”を取り込んだ、って。最初にフルムのことを言ってた信者はフルムに様って付けてたの。覚えてる?だから多分その“フルム”が、ルスの言う私たちには敵わない敵ね。その敵わないような敵とくっ付いたのが、今のあの男ってこと。そうよね?私合ってる?」
そっか。そうなるね。
この世界の前任の神がフルム。それを取り込んだチャラ男。
勝ち目なくない?
元々この世界を創り出した神と、今の世界の仕組みを創った神の対決に巻き込まれてるんだ。壮大すぎて考えられないけど、そういうことになる。
……なんでチャラ男は神を取り込んだのにチャラ男のままなんだろう。ノアは、いなくなったのに。何か違いがあるのかな?
「ルスでさえ敵わない敵、私たちがどうこうできるものじゃない。手を出すな、ってルスも言ってた。周りの対処だけって」
「そうですね。……影の中、ルスの力を借りずとも入れますか」
「え?……やったことないからわからない。どうして?」
「真下まで行ければ、ルスだけ回収できませんか?最大の敵は消えませんが、ルスというこちらの最大戦力は取り戻せます」
確かに。チャラ男たちが何をしているのかはわからない。でも、ああやってルスを捕らえてるってことは野放しにはできない、不都合なことがあるってこと。
よし、やろう。
「確かに。じゃあ行ってきます。何かあったら即転移して残りの人に知らせて」
「はい。お気をつけて」
影へと潜り込む。チャラ男のことだし、私たちがこの空間にいることはわかってるんだろう。だとしたら私が影から来るかもということも想定しているかもしれない。
気をつけていかないと。
ちょうど否定派の人たちの下辺りに来た。なんかこの人たち目に光がない。怖い。死んでるわけじゃないんだよ?あのノアみたいな感じで……。
『やめて、お願いだから……』
『何故そのようなことを仰るのですか?貴方が望んでいたことでしょう?ああそれとも……48番、神を誑かすのはやめてもらおうか。お前の居場所はもう無いのだから。足掻くな。抗うな。消えろ、邪魔だ』
チャラ男は。
ノアにあんなことを言っていたんだ。
じゃあ、一緒に行動しててもああいう風に思ってたってこと?ノアのこと、人じゃないみたいな扱いして。普通に話してたのに。
辛かっただろうな、苦しかっただろうな。
ノアが変わってしまったのもチャラ男のせい。私も気が付けなかったのも悪いけど、それ以上に酷い。
許せない。
あいつは、絶対に後悔させてやる。ノアのため、あと私の精神と腕の仇。
「やってやる!あんな私たちのことなんて眼中にないみたいな戦い方して……神がなんだ!前のルスに負けた神なんでしょ、大したことない!よしっ!」
素早く行かないとね。
もしルスの力を使わないと影の中に入れなかったら?とかは考えない。わからないことを考えてても時間の無駄だからね。
ローズ、行きます。
ルスとフルムの違いですが、堕とされて弱った神と現役の神という違いしかありません。




