第18話 ちょっとよくわからないです。
吹っ切れました短いです
「面白いことしてますね」
大きく張り上げた声が響く。
なんでノアがここに。
できれば会いたく無かったのに……。
「笑いに来た?笑いたきゃ笑え」
「いえまさか。その木がガサガサしているのが見えたので、気になって来ただけです。貴女がいるとは思わなかった」
私もノアが来るとは思わなかった。
ま、まあ、遠くから村の中で1番大きいこの木が動いてたら気になるよね。わざわざ行こうとは思わないけど。
枝の上に戻って、作業を再開する。ノアは気にしない。気にしたらダメ。集中できなくなる。
「僕もそこへ行っていいですか?そこからなら遠くまで見ることができそうだ」
え、やだ。
でもノアは私が返事をする前に魔法で木の枝を操作して登って来てしまった。え、土属性の魔法ってそんなことできんの。便利すぎでは……うらやま。
「ああ、やはり景色がよく見える」
ここ、結構高いんだよね。地面から7メートルとか8メートルとかそのくらい。ちょっと怖い。声も大きくしないと下に聞こえないし。だから遠くまで見られるのは当たり前。
「空まで見えますね。いつもより近い気がします」
勝手に話しかけてくる。私はそれを無視し、木の反対に回って作業を続けた。
「……ふむ。面白い切り方をしますね。でもそれは今すぐやめた方がいいな。もうあとどのくらい木が耐えられるか……果てさて取り込み変質してしまうか……」
着いてきた。
「他にどうやれと?」
なんとなく理由はわかるけどさ。闇属性の魔法だからそれが良くないとかでしょ。でも仕方なくない?やり方ないんですよね。
刃物で非力な私がこの大きな木の枝を切るなんてできないし。
「では。1つの提案として、これはどうで────」
「却下。碌な案じゃないのは目に見えてる」
「残念です。どうせなら僕がやった方が木のためだと思っただけなのですが」
私の仕事なのに何言ってんだ。
……いえ、その心遣いはとても嬉しいし、推しが優しいのも嬉しいです。自然に対してなのか私になのかはさておき。
「もう終わるから。問題はない」
「…………ああ、駄目です。駄目だ。早く降りた方がいい。そうでないと────っ、ローズ!」
「へ?」
突然のことだった。
最後に1発撃ち込んだ瞬間、木が蠢いた。
幹が波打ち、枝が動く。色が黒く変化していく。葉の先まで真っ黒で、反射することなく全ての光を吸い込む闇のような感じ。
むくむくと木が大きくなる。座る私たちに向かって枝が勢いよく伸びてくる。
ノアが私の方へ飛んできた。
手を伸ばし、ノアが私を抱きかかえる。体が落下していく。空の青とノアの長い髪の青。2つの青に目の前が染まる。
落下感は止まらない。待ってやばいかも、どうしよう魔法で、魔力を練って……集中できなくて無理!このままだと死ぬ────!?
「あああっ!!間に合えっ【ひっ、しょうぅ────っっ】!」
女の子の声。
落下が止まる。
浮遊感。
「ローズちゃんっ!良かった間に合った……え、やだあんたそれどうしたのよ!」
ゆっくりと地面に降りる。シーナだ。
私はノアに抱えられたまま。
「ローズ……無事ですか?ああ、貴女のおかげでしたか。ありがとうございます……それでは貴女に後は頼みますね」
「えっ?え?待って、こんなの知らない!あんたが退場とかあり得ないんだけど!」
「何……?どうしたの?」
ノアの反応はない。シーナは怒っているのか戸惑っているのか、よくわからない表情で私たちを見下ろしている。
「やだ、なんでこうなるの……こんなのルートに無かったのに!なんで!なんでこう余計なことするの!あんた悪役だからってしていいことと悪いことがあるのに!ローズちゃんのお兄さん行っちゃったのにどうすんのよ!」




