第8話 やけに饒舌な神ですよね。
「さぁ〜始まりました!絶対信仰VS神否定!まずはシスコンだなんて設定どこからやってきたのかわからないけど極度のシスコンになっているシンくんと、いつもニコニコ人当たりのいい笑顔を浮かべっぱなしで表情固まってるんじゃないかってボクが心配になるほどの枢機卿がぶつかります!嫌味です!ルフトくんいいサポートだ!おおっとこっちでは顔に似合わない苛烈な炎の魔法を操るミーシャちゃんと、裏では偽パイだなんて言われてる胸バインなのに絶対的にその辺りの肌を見せないアニータが壮絶な女の戦いを繰り広げています!名字?……どうでもよくない?ご覧下さい!最近新興宗教を立ち上げたシーナ選手がもの凄い数の敵、但し人体実験で加工済みの可哀想な人々をダウンさせていきます!実況が間に合わないほどに戦況はどんどん移り変わっています!現場からは以上です!」
以上じゃねぇよ。
……ごほん。
私が向こうは待ち構えてるとみんなに伝えると、いい戦況作られたらたまんねぇ!って言いながらシーナがドアを勢いよく開け、そのままこの戦は始まった。
一言いい?
「カオス」
「あ、わかるー。魔法使って準備万端だったのにね」
1番カオスなのはお前だ、神。ノアの顔で変なことしないでよ。ていうかルス教のこの幹部っぽい人たちの情報どこから仕入れてるの?
ニコニコ顔の枢機卿、私が見た時はそんなニコニコって感じしなかったけど。有事だからかな。それとも周りが幹部だらけだからか。自分の人物像を作らなくていいからだ。それだ。
それにもっと気になるの、偽パイのアニータさん。あの胸は偽パイじゃあないよ。偽物ならあんな見事にブルンブルン揺れない。ミーシャとお揃い。……フフ。毟り取りたくなる。
「あの1番弱そうに見えた人はセネルが相手してるし……残るは教皇?エスペラールはどこに……あぁ兄さんの加勢か……」
私出番ない。出てもいいんだけど下手に手を出して、邪魔しちゃったら困るし。
とりあえず教皇?潰したら全部終わるよね。なのにみんなが気にもしてないのが気にかかる。何かあるってことっぽくない?
「ねね、この状況笑えない?あの教皇、影薄くて忘れられてるよ。教皇潰せば何か変わるはずなのに、1番にやりそうなシーナちゃんでさえもう何回も目の前通ってるのに気にもしてない。ボクも時々忘れるんだよね。教皇いるってこと。ていうか周りが濃すぎるんだよ。地味に見せかけた実力派、偽パイの気の強い美女、人当たりが良くて顔もいい、そしてルス教のほとんどの実権を握る枢機卿。教皇に一応は聞くけどカタチだけだしね。神の御言葉を、なんて言って年に1回祭壇の前で1日飲まず食わずで祈りを捧げる儀式あるんだけどさ、アレ本当は教皇がやるのにあの枢機卿がやってるんだよ。酒飲みながら。ボクも暇だし参加はしてるんだけどまともな言葉返そうとは思わないよね。力使ってまでしてさ。この前のやつはね、ケッサクだよ、3年後教皇は禿げて太陽の光を反射するようになり、それに当てられた貴方もすぐに禿げるでしょう。聖なる光を広めなさいって言ったの。それからは教皇に帽子勧めてたね。禿げないようにするんじゃなくて。笑う」
神がベラベラ話す言葉をバックミュージックみたいにしながら外の様子を見る。
神が言ってる影薄いっていうのが本当だとして、目の前であんな激しい戦闘起こってて普通に座ってられる?何か流れてきて当たるかもしれないんだよ?私無理。
だから絶対に違う。それか何かある。なんだろ。
「とりあえず出よう」
「禿げ確かめる?」
なわけあるか。ああいうオッサンが禿げてるのは標準装備だからどうでもいい。ナラルさんとかなら気になるかも。
教皇の座る豪奢な椅子の影から出て、そのまま教皇に魔法を使う。魔力全部吸い取って無力化させる。
「おーっとぉ?失礼、ごめんねローズちゃん」
【吸収】の魔法が発動するかしないかぐらいの時、それに何かが割り込んできて強制的に魔法が止められた。ぐわんぐわんする頭を抑える前に、ルスに抱き上げられ私はその場から転移して離れた。
「何?どうなったの」
「ごめんね忘れてた。ここの教皇、代々魔法攻撃効かないんだ。全部逆に吸い取って反射してくるの。そういう設定にしたの忘れてた。だからあんな涼しい顔してるんだよ。もし敵の攻撃が当たれば敵に返るんだから」
魔法攻撃無効化持ち。
殴るか。物理は効くんでしょ。
「鈍器持ってない?……あ、鍋なら影の中にしまってたかな」
「この戦況の中1人鍋振り回してたらそれはそれで面白いからやってほしいんだけど、さっきからずっと枢機卿がこっちに攻撃してるの、ボクが防いでるんだけど把握してる?」
してるしてる。兄さんみたい。
物理は枢機卿のガードが固いから難しいか。
なら私がするべきことは、枢機卿を先に潰すのを手伝うこと。もちろん、邪魔しない方法で。
「ねぇルス。味方には影響がない闇属性広範囲弱体化魔法なんて存在する?」
「あはぁ……なるほど。あるよ。敵だけ攻撃なんてRPGのレイドバトルじゃ普通だし。間違っても味方に攻撃なんて当たんないよね」
あるなら私も手伝える。この世界にそんな魔法があるのなら、私にもできるよね。
影を広げる。部屋中、床一面に。もちろん教皇の所には範囲を広げない。足元だけ薄暗くなった部屋、異変に気がついているのはこちらへ攻撃してきている枢機卿とそれを止めている兄さんとルフト、ルスのみ。
魔法は上手くいきそう。
でも私の頭じゃすぐに詠唱の言葉が出てこないから、仕方ない。無詠唱だ。大丈夫、魔力を込めれば変わらないって兄さん言ってたもん。




