第3話 理解が追いつかないですね。
何にも分からなかったけど、私が転生者であることに関わらず協力してくれるらしいというのはわかった。そして今まで通りに接してほしいというのも。
「あっ、お姉様。あれ、シンさんたちじゃないですか?戻ってきましたよ」
「ほんとだ。よかった、何も無さ、そう……で……?」
1人多くない?ここからじゃ誰かはわからない。長くて暗い髪色の人。
でも兄さんとシーナが結界張ったし、味方なのかな?
「嘘、誰も入れてないしここのメンバー以外私許可してない。……じゃあシンが?誰あれ。……ん?んんんんんん?もしや……いや、ないか」
「誰ですかね?……流石にないとは思うんですけど、シンさんたちがその人の人質みたいな感じでここに来てたり……は、ないですよね」
ない……と思う。そんな状況になったら、兄さんアレクとルフト連れて転移して戻ってくるよ。それすらも無理な相手なら……わからないけど。
でもほら、わざわざここに戻ってくる理由もわからないしさ。
「流石にない。そんなに兄さんは弱くないし、兄さん以上に強い人が相手だとしてもそんな状況にならないようにするはず」
「そっか、そうですよね。すみません変なこと言って」
「こんな状況だし正しいよ。シンだって神じゃないんだしさ〜。なんでもできるわけじゃないしぃ」
うんうん。私は兄さんの実力を信じてるけど、それがいつどんな時でも通じるか、っていうと違うからね。
チャラ男とのことでそれはわかってます。あのノアには苦戦していたし。
「でもあれ誰だろう。他に知り合いいる?兄さんは外に出てないから知り合い作れるはずないし」
「それなんだよねぇ。誰だろ?」
小指よりも小さかった人影は、だんだんと大きくなってきている。兄さんは、その誰だかわからない人と話しているみたいで時々そっちを向く。
本当に誰?
「う〜ん。わかんないね。……るーくーん!アレクー!おかえりー!よし。るーくんは走ってきてくれるかな?」
突然シーナが横で大きな声を出すからびっくりした。そして本当にルフトは走って戻ってきてるし。
「しーちゃん!あの、あのね!ノアさんが……ノアさんじゃないんだけど、その……」
「何、青いのが何?……ねぇやっぱりあそこにいるのってそうなの?」
「そうだけどそうじゃないの。さっきのノアさんとも違くて、おかしなこと言ってるの……」
なんの話?ノアがどうしたの?
胸元に下げた魔道具が熱を発している。
兄さんがはっきりと見える。その横にいるのは、
「……ノア?」
青く長い髪。ノア本人だ。チャラ男に連れられていた時の無表情ではなくて、兄さんに向けている表情は笑顔。
ノア、なの?
服の下に隠した魔道具を握る。暖かい。
「ローズお姉ちゃん、あのね、あの人ノアさんじゃない。中身、違う人」
中身が違う?ノアじゃない?そんなこと、ある?チャラ男に連れられてたノアは感情を制限されていた感じだから中身が違うとはまた別だし。
いやあるか。私たち転生者みたいな。中身が違うわけじゃないけど、少し変わってる。
「どういうこと?あれ青いのじゃないの?
「本人はね、」
「ローズ!何も無いな、良かった」
ルフトの言葉は兄さんに遮られてしまった。本人は何。なんて言おうとしたんだろう?
「兄さん、ねぇ、その……」
その人は?ルフト曰くノアじゃないって。じゃあ誰なの?
近くで見てもノア。敵意は今のところ感じられない。服装は白い服ではなくなっている。
「ああ……えっと」
「ノア、じゃ……ないって……」
私のその言葉を聞いてか、その人はにっこりと笑った。
あぁ、うん。
「ボクはその、キミ達の言うノアくんじゃないよ。ただ彼の体を借りてるだけ。借りてるっていうか、無理矢理落とされたっていうか」
ノアはこんな笑い方しない。片頬だけを上げる挑戦的な笑い方は。
「でもこの体はいいね。ボク好みだ。綺麗な長髪なのはポイント高いよ。ノア。ノア、か。じゃあアレ、だよね。うんうん。悪くない。そこだけは感謝しないとね。変な体に押し込められてたら耐えられなかった。あ、ボクが、じゃないよ。体の方ね。彼のこの体だから我慢できてる。ていうかしないと不味いなぁ。馴染むまで待って、一掃しよう」
「神、だそうだ。この世界の。……それを納得できるだけの底知れなさがあるのは、確かだ。ノアじゃないのも」
神?
えっと、どうしたらそんな話になるんだろう。ノアじゃないのはまだわかる。でも神?神さま?わからない。
「そ。ねぇ神は信じる?ボクの名はルス。この世界の神だ」
天敵(青いの)をいち早く察するシーナ。流石です。




