第54話 う〜ん、さっぱりこれから先が見えないですね。
ローズです。最後シン視点になります。
教会の辺りから、天に向かって一直線に光の柱が上がった。
らしい。
私は見てないです。シーナから聞きました。
なんだろう。光の柱だって。教会だしなんか召喚とかされてそうじゃない?強い敵きたらどうしよう。チャラ男で大変そうだったのに。……ノアだって。
「……元に戻るよね」
壊れた魔道具が微かに光を放っている。暖かい光。これが、ノアをああさせていたと言ってもいい。
ナラルさんたちも戻ってきた。エスペラールがみんな転移させてここまで逃げてきたんだ。
今逃げても良いことは一つもない。どうせ追われるし、ルス教のすることを黙って見ていることになるし、そもそもノアは置いていけない。
私たちがすべきことは、ルス教を止め、ノアを助けるということ。
セネルやシーナは今すぐにでも突撃しそうな雰囲気。兄さんとナラルさんが止めてるけど。私ももう、兄さんのおかげで腕は治ったからいつでもいける。……いつでも、は違うか。出る前に1つ、魔法を自分にかけないといけない。
魔法は、シーナとエスペラールから教わった。
シーナは、『攻撃を受ける前に逃げるのが1番なんだけど、どうしても受けちゃった時はこう……体の中に結界作るイメージで、傷と他のとこわけるの。後はねぇ……そうそう、自分にできる最大の強化魔法を自分にかけて戦闘したら全く感じないよ!』って言ってて、エスペラールは、『過剰な痛覚を感じて動きが鈍ることのないよう、随分前に頭の中を少々弄りまして。ええ、はい。とても上手くいきましたよ。一定以上の痛みは感じません。時々、致死の傷を受けていて気がつかずに放置してしまった場合のことを考えます。そうなればお嬢様をお守りできませんので』
あんまり参考にならなかった。
だってシーナは強化っていうより狂化だし、エスペラールはその時に他の部分もいじったんじゃない?って感じだし。
要は、自分の認識を誤魔化せばいいわけで。エスペラールみたいに過剰な痛覚を感じないように、でも一生モノじゃなくて、効果が切れれば痛くなる、みたいなやつ。一定期間だからシーナみたいな狂化でいい。認識だけね。狂っちゃうのは駄目。
この魔法を調整してるうちに、これで恐怖心もどうにかなるのでは?って思って弄ってたらなりました。認識を変化させる、っていう点では両方同じだからね。
まあ難点もある。
人によって、自分を占める心の割合って違うでしょ?楽しいことがたくさん、怖いなっていうのがたくさん、悲しいかもっていうのがたくさん。臆病な人は怖いのが多いし、能天気な人は楽しいのが多い。
だから、私から恐怖心を取るとものすごく人間味がなくなるんだよね。私は恐怖心と共にあったらしい。臆病なんだ。シーナの場合はあんまり変わらなかった。ニコニコが増えてただけ。ちょっと怖かったな。
「ま、大丈夫。この魔道具がノアの心を閉じていたのなら、反対のことだってできるはず」
よし。外に見えないように身につけておくことにして、これに魔法をかけよう。私を引き戻してくれるように。
●●
「なっ、なんでなの!?ねぇっ!シン!あれ見て!」
魔道具を手に、魔法を調整していたらシーナのそんな声が聞こえた。
困惑と焦りが混じった声。
「……は?いやいや、まさかそんな。なんで俺たち放置して他国攻めを……」
アルカーナの国は小さい国。周りをグルリと森に囲まれていて、その中にある。門は国を囲うように作られているんだけど、一箇所だけ森が国へ侵入するように入り込んでいて、開いている所がある。Cみたいな形ってこと。
兄さんとシーナは門に結界を張ったけど、流石にそこにはやってない。ルス教の人たちはそこから外へと出て行っていた。
「とりあえずシーナ!お前残ってローズ守ってろ!アレクとルフト借りてくぞ!」
「了解!アレク、るーくん!ばーんとやっちゃって!」
「待ってくれ、やるって何を……」
「流されるが吉、だよ……」
他の人が状況に追いつけない中、兄さんとシーナはそんなやり取りをして、巻き込まれた2人は死んだ目で兄さんと共に転移して消えた。
「シーナ、どういうこと」
「え?あ、とりあえず他国侵攻は止めないとでしょ?だから3人で上から攻撃しに行ったの。でもあお……ノア、はいないみたいだったよ」
ルス教は、たくさんの人を実験体として使い、戦争で使える人の兵器を創り出している。
だからノアもいずれそれに使われてしまうはず。今回はいないようだったけど、もし私たちが助け出す前にそうなって仕舞えば大変。
「そう……ねえ、もう行こう?教皇とその周り叩けばいいんでしょ。兄さんが言ってた。いつもは私出ると兄さんが止めるから無理だけど、今兄さんいないし。シーナ、強いでしょ。2人で行こう。ノアのこと、早く助けたいの。私だってちゃんと動いて助けたい」
ノア、辛い思いしてるはず。助けを待ってるかもしれない。なら早く助けないと。
それに私、時間置くと出られなくなる気がするんだ。役に立ちたい。でも決意が……なんてこと許されない。
「うっ……わ、私が強いのは本当だけど、そんなことしたら後で何をされるかわかったもんじゃないっていうか……私も行きたいのは山々だけど、シンの案に従っておけばまあ大丈夫かなって思ってる所もあって……今のとこないみたいだけど……うぅ……そ、そんな目で見たって無理だよ!私死にたくない!絶対殺される!女神だって……ローズちゃんだってお兄さん人殺しにしたくないでしょ!?」
「兄さんの職業忘れた?騎士なの。……言いたいこと、わかる?」
「わかるよ!わかりすぎる!経験済みだったんですね!ごめんなさい!……でも無理だよ。無謀だし、……教皇とその周り叩くって、ローズちゃんが……駄目駄目!!それに汚れ仕事は任せてくれないと私の仕事なくなるから!やめて!絶対だめ!」
説得失敗。
……まあ私に人殺しができるか、と言ったらそれはわからない。したくはない。でも、それで助かる人がいるのならしないといけない。
しないで拘束できればいいんだな。洗脳とか。
そうじゃん、私は闇属性。忌避するものというのなら、その通りにしよう。
●●
「殺すなよ、無力化で充分だ。後は俺の魔力回復に使わせてもらう。これで全快すればすぐに、ローズを脅かすものは全て消し去ってやるからな……ふっふっふっ……」
「…………ねぇねぇアレクにぃ。ローズお姉ちゃんのお兄さん、しーちゃんと同じ匂いがするよ……」
「……こんな人じゃなかったんだ。もっと、カッコいい人だったんだ……」
何かブツブツ言う声が聞こえるが、気のせいだ。俺がシーナと一緒とかなんとか。
そんなわけないから気のせいだな。
門の切れ目から下を除けば、逃げ惑う人々がよく見える。全部ルス教の真っ白な服を着た連中。総勢……40くらいか?ローズを悪くいうような連中だし、本当は殺してしまいたいくらいだけどそうするとただの殺人鬼だ。だから魔力を吸い上げて俺の力にする。
他国へ戦争を仕掛けるにしてはもの凄く少ない数だが、兵として歩かされている恐らく人体実験済みの人々の魔力量が異常に多い。この人数で攻められるというのがわかるほどに多い。近距離戦闘は望めなくとも遠距離で決着がつきそうな感じだ。豊富な魔力に任せて大きな魔法を打ち出せるからな。
まあそれも全部俺の力となってるわけだが。
こいつらの魔力20人分くらいでようやく治癒で消えた俺の魔力が回復した。半分使い物にならなくなったがまだ戻る気は無さそうだ。
いや、人体実験で兵器と変えられている者の他に指揮する者もいるからそれ以上か。
「お前らは魔力奪って回復とかできないのか?」
「できないです。……やったことないけど。しーちゃんは気合でどうにかなるって言ってたなぁ……」
不便だな、他の属性は。
俺のは光属性だったから騎士になれたし、ローズのこと守ってるやれてる。他の属性でも頑張ったとは思うけれど、あの金髪男やノアの対処はできなかったんじゃないか?光属性だから助けられた部分もある。じやなきゃ治癒もできなかったしな。
光でよかった。
「指揮取ってるの誰だ……?そいつ潰して……」
「あいつだよ。あの、木に隠れてこっち伺ってるの。あ、ホラ指示出した。そろそろ反撃されそうだよ?」
「なっ……!そ、そ、その人……!」
聞き覚えのある声が耳元で囁かれた。
視界の隅に青が入っている。
ゆっくりとそちらを向く。
「おま……ノア…………?なん、で……」
とりあえずこれで三章終わりです。
キリが悪い?そんなことありません。
行き当たりばったりだろ?そ、そんなこと…若干あります。でも問題ありません。今まで行き当たりばったりで書いてきましたから……。
4章は、ルス教中心というより新しくきたあの方中心の話となります。
ルス教はルス教でも内部で別れていて、神否定派と神肯定派、中立が主です。今回実験体連れて他国行こうとした阿保は肯定派の者たちです。神の教えを広めるために創り出した検体達を、主を殺すために使われるのはあり得ない、ならば元々するはずだったものをしてしまおう、みたいな感じで変な状況なのに動いてしまいました。数が少なかったのはとりあえずで動かせた検体がそれだけだったからです。




