第15話 兄さん行ってらっしゃい。
短いです。
兄さんが王都に帰ります。
「光の加護と……ああそうだこの魔道具も持ってろよ。遠距離ですぐに連絡が取れるものだ。俺が作った。すごいだろ。……加護だと闇で反発するから……周囲を守る形にして……ああもう心配すぎる!」
王都に帰ります。
「何か嫌なことがあったらさっきの魔道具ですぐに言え。秒で飛んでくるから。……実は村長に内緒で森の中に転移魔法仕掛けておいたんだ。俺ほんと光属性の魔法の使い手でよかった。俺が光属性なのはローズのためなんだな」
帰ります。
「危険なことは絶対にするなよ。約束してくれ。この前みたいに魔物に近寄るとか絶対したら駄目だぞ。ローズに何かあったらと思うと心配で心配で……」
……帰らない。
「え、もう昼?じゃあ出発は昼食べてからにする。父さん母さんは今手離せない?あ、いいよローズと食べるから。よーし俺が作ってやろうな!結構自信あるんだ」
いつ帰るんだ……。
朝からずっと玄関で話してるんだけど、帰る様子がない。泣きそうになったと思えば笑顔で抱きついてくるし、これで大丈夫だねって言った次の瞬間これもあるんだった!って何かしら思い出すし……帰る気あります?
「ローズ、できたぞー。ほーれ」
1枚の皿に山盛りの……米と野菜。この世界、元が乙女ゲームでしかも日本で作られたものだから、日本で浸透してる料理、食材が普通に出てくる。
村で1番育てられてるのは米で、主食も米。しかも、魔法で精米する時もあって白米も食べられる。玄米での方が多いけどね。元日本人としてこれは有難い。
でもこの料理はなんだろうか。米の上にゴロゴロと一口大の野菜が乗っていて、香ばしい匂いがする。匂いは美味しそう。焦げっぽいとこもあって見た目はそこまでいいとは言えないけど……ごめんなさい兄さん。
「やっぱり、初めて見た奴は大抵そんな顔すんだよな。でも食べたら美味いって言ってくれるからとりあえず食べてみろ。俺も結構いけると思ってる」
この匂いで不味いってことはないと思うし、兄さんの作ったものを私が食べないわけもない。
取り皿に取り分け、口に運ぶ。
「ん!美味しい!」
「だろ!」
味は炊き込みご飯とチャーハンが合わさったような感じ。濃くも薄くもなくて、ちょうどいい。野菜がほくほくしてる。
「いる内に作ればよかった。すっかり忘れててさ」
言いながら兄さんも私の目の前に座って食べ始める。しばらくこうやってご飯食べることもないのかぁ。連絡はすぐできるけど、実際に会って話すことはしばらくない。兄さん忙しいと思うし、そのうち連絡も無くなってくんじゃないかな。
嫌われることはもうないと思うけどね?この調子の兄さんに嫌われるってよっぽどだと思う。私も兄さんのことは大好きだし、嬉しいな。あ、もちろん兄としてです。前世でも今世でも恋愛っていうのはまだわからないなぁ……。
のんびり話しながら食べて、途中で父さんと母さんが戻ってきて追加で兄さんが作って、結局昼ごはんを食べ終わる頃には15時くらいになっていた。そうそう、時間の表し方も日本と同じなんだよねこの世界……製作者陣の適当さがわかるよ。
「ふぅ。もうこんな時間だ。はぁあああああ…………。ローズぅ〜、最後に抱きしめさせてくれ。そしたら帰る」
片付けをして、一息ついた後。玄関に向かう前に兄さんが大きなため息を吐いて私を振り返った。
幸せ逃げるよ?
「うん、兄さん」
中身はともかく、今のこの私の見た目はまだ子供。だから別に恥ずかしくない。……恥ずかしくない!
顔には出さずにいるけど、兄さんのスキンシップはとても恥ずかしい。抱きしめられたり頭を撫でられたり……。
でもこれからしばらく無くなっちゃうからね。最後だ。
兄さんに向かって手を広げる。
「ローズ!」
満面の笑みで兄さんは私を抱きしめ、最近私と兄さんの仲が良いことに嫉妬している父さんが割り込んできて、最後にうふふと笑いながら母さんも混ざった。
────あ、やばいこれが幸せか。
前世の私の家族も大切で、幸せだったけどこういったスキンシップは少なかった。実際にやるとやらないとでは大違いだね、これはいい。
前世の母さん、父さん。そして弟よ。……先に死んでごめんなさい。
私はこの世界で、生きていきます。
●●
何度も振り返りながら兄さんはようやく出発した。あれから1時間後のことだった。
で、今私は。
「そろそろ行ってもいいですか?僕たちは教会に用があるんですよ」
「ダメ。まだ私は話してるの」
「ローズはそれを望んでいませんよ」
「なんであんたがそんなことわかるの!ローズちゃんの何を知ってるの!?それになんでローズちゃんを呼び捨てにしてるの!」
「行く所なんですから、途中で長く引き止められることを良しとしないのは誰でもわかることでしょう。僕が何と呼ぼうと貴女に関係はありませんよね?」
「も〜っ!なんでそんなに邪魔するの!私はローズちゃんと、話したいの!あんたとは別に話したくないの!」
「僕も同じです。ローズと教会に行きたいだけなんですが……貴女はなぜそれを邪魔するんですか?」
先に行っていいかな。
今日のお仕事はないから夕方少しだけ教会の書庫に行こうかな、って思ってたらノアに会った。少し話してたら一緒に教会に行くことになった。ここまでは良かった。別にノアが嫌いなわけじゃないし、私がノアの供給過多でおかしくならないように気をつけていればいいだけだから。
でも2人で歩いてる途中でシーナがやってきた。
──ローズちゃん!こんにちは!お兄さん行っちゃったね。これからもっとお話しできるかな?今までお兄さんがいて話せなかったから……。
なんでだろう、言い方とか表情とか見てるとただ私と話したい、仲良くなりたいだけみたいに見えるんだよね。
あんなきついこと言ったのに。なんで?
会えればね、とそう返したらやった!なんて本当に嬉しそうに言うから何がなんだかわからなくなる。
それからノアが口を挟んできて、今の状態。
ほんとに先に行っていいですか?
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