かつて見たそれは
短いです
またローズではない別の人視点
真っ白な髪。
それは老人に見られるようなパサついたものではなく、瑞々しく艶めき、虹色の光を含むうつくしいものだった。
長い髪。背を、腰を隠すほどに長い髪が風に包まれふわりふわりと、まるで生きているかのように浮かんでいる。
うつくしいひと。
薄っすらとした笑みを浮かべ、空を写した水面のような不思議な色の瞳をこちらに向けている。
『美しい世界…………ボクは、そう思うんだ。この世界は美しい。儚く、たくさんの夢が詰まっていて……ねぇ、キミはどう?美しいと思ってくれるかな?』
はい──と。そう返した。
ただそれは、問い掛けの答えではなくそのひとに対する想いだった。
うつくしく、浮世離れしたひと。幼い自分はそのひとに恋をしていた。なんとも恐れ知らずなことで。
『────ありがとう。その言葉はとても嬉しい。お陰でこれからも、このまま、頑張れる』
僅かに目を伏せ、どこか憂いを帯びた表情でそのひとはそんなことを言った。煌めく虹の光を含むその白い髪も、影が混じっているように思えた。
その言葉、その態度で自分は確信した。
自分がすべきことを。
このひとを救うんだ。
自分が、救う。
必ず。
恋に溺れ、沈み込む。浮かぶつもりはない。これは良いこと。
ただ一つあの虹色の光だけを目に留めて、進むだけ。
●●
厳か……というよりそれを通り越して薄気味悪いな。
でも仕方ないか。これ以上のものは準備できなかった。上が渋るから。
渋る必要が全く感じられないのになぜ渋ったんだろうか。ああどうせ一度きりのこと、成功したとしてすぐに殺すものだからと思っているからだろうね。
そうはさせないけれど。
この時を何年待っていたことか。ずっとずっと待ち望んでいた。
美しさは敵わないけれども、充分に綺麗だと思う。長い髪は正反対の暗い色だけれど、夜空を切り取ったかのような髪はあのひとに相応しい。
上の望みは信仰対象を概念ではなく、存在するものにしたい……ということではない。
この世界に君臨したい。この世界を管理したい。
そのためには管理者を無くさなければならない。管理者、神を。信仰する神を消さなければならない。
あぁ、あぁ!なんと愚かな!
神を手にかけるなど畏れ多い!なぜそのような考えができるのか!理解に苦しむよ。
俺は俺のしたいことをする。
どうせこれが成功すれば宗教など意味を成さなくなる。彼らがしていることも、意味がなくなる。
後少し。後、少しで解放できる。




