第53話 どうにかしましょう。
ルス教のしていることはシーナから聞いた。
人体実験をして、人を兵器に変えて他国に攻め入るって。
……それに使われた、ってことだよね、ノアは。このまま放っておけばノアは兵器として使われることになる。私たちが放って置かれることなんてないだろうけど、ノアを助けるのが遅ければ遅いほど良くないことになるのはわかる。
兄さんによるとノアに渡した魔道具は、完全には壊れていないらしい。私が込めた魔法が辛うじて残っている状態。でも効果のほとんどを書き換えられてる。
シーナ曰く、この魔道具でノアを向こうの人体実験で作り上げたものと繋げて力を上げているんだって。魔力を送り込むのと、兵器として安定させるのと。
人工2属性にさせる過程で対象の自我は消えてしまう。それでも、抵抗が強いと完全には消えずわずかに残って稼働中に誤作動が起こる。それを無くすための魔道具。
「だから何か考えがあるのかと思ってたの。まさか本当に捕まってるとは思わないし。……気がつけば、助けてたのに」
「いや、あいつにかかってた魔法に気がつかなかった俺が悪い。それでも許さないけどな。ローズの側にいて敵に洗脳されるなんてあり得ないことなんだから」
シーナはルス教の中でノアを見たんだって。シーナの配置された場所はチャラ男とは別のところだったから最初に見たっきりだったらしいけど、情報を集めていくうちにおかしいと気がついたらしい。
まあシーナを責めることはできないよね。私なんて何にもしてないんだから。
「ただいまです〜。外は今のとこ問題なさそうですよ。ただ、教会の方は危なそうです。土煙上がってて良く見えないんですけど、戦闘音はまだするんです。大丈夫ですかね、ナラルさんたち……」
「大丈夫よ、エルがいるもの。怪我したって治せるわ!」
元々門にいたミーシャとセネルは、兄さんに言われた通りにいつでも逃げられるよう、門兵と仲良くお話をして門を開けさせていた。可愛い女の子2人から話しかけられてて油断してたから、シーナと兄さんでスムーズに門を乗っ取れたんだよね。
私たちが戻ってきてからは2人で門の外を見て、敵が来ていないか、教会の方はどんな具合とかを見てくれてた。
「ありがとう。何かあればエスペラールが転移で逃げてくるだろ。ナラルさんもそこまで弱くない。……まあアレクとルフト……は、わからないけどな。シーナが仲間として連れてるくらいだから強いんだろ」
「もっちろん!2人ともよく使える……2人ともすごく強いから!るーくんなんて雷雲呼べるの。作り出してるのかなあれ。わかんないけど。雨降らせてたし」
ナラルさんたち、誰と戦ってるんだろう。ノア?チャラ男?それとも他のルス教の人?
私たち、これからどうするんだろう。
失敗したわけだし……失敗したの、もしかしなくても私のせいなんじゃ。私が影にそのまま引っ込んでればこうはならなかったんじゃない?シーナがきて、ノアの動きを鈍らせて、兄さんが止める。合流したナラルさんたちと一緒にチャラ男を超えてそのまま……。
うん。ならなかったね。私のせいだ。
ほんと、何にもしなかったのに邪魔して。最悪じゃない?自分のせいで怪我したのにピーピー泣いて痛がって……とんだ迷惑女だ。
痛いのは仕方ない。これはどうしようもない。でも、あの恐怖心はどうにかできるはず。乗り越えなきゃ。乗り越えて、また立ち向かう。そうじゃないとノアを助けに行けない。
そうだ、痛みを魔法で緩和できないかな?認識変えて、感じづらくさせる。全く感じなくなったら死ぬほどの怪我でもなんにも思わなくなるからしないけど。感じづらくさせるくらいなら。
これはできると思う。問題は恐怖心。
「ローズの腕の治癒が終わるのが先か、向こうが攻めてくるのが先か……。治癒が終わっても魔力がなきゃどうもなんないしなぁ」
「他の人の魔力使うとかできないの?」
「できなくはないけど、誰のを使うんだよ。……あ、ここから辿ってあのノアの魔力を補助してた魔力使わせてもらうか」
のんびりはできないもんね。遅くても腕が治るまで。
それまでに気持ち変えなきゃ。




