第48話 緊張感が仕事してくれませんね。
「ふん、あいつの勘は当たってたってことか。気に入らないな。お前は元々気に入らなかったけどな。……まあ、どっちにしろ潰すだけか」
「あはは〜、やっぱり好かれてなかったよねぇ。あれ?ということは、俺ってみんなに嫌われてた感じ?それって逆にすごくない?ワォ、俺すご〜い」
朝、まだ早い時間。ふと目が覚めたんです。
そうしたら兄さんに強く抱き締められてて(これはびっくりしなかった。昨日は始めから兄さんに抱き締められて寝たから)、チャラ男がなぜかいる。
2人の雰囲気は二度寝を許さないものだった。私はまだ寝てたかった。こんな時間に起きるなんて、二度寝の気持ち良さを味わうためだよね。そういや二度寝は良くないとか“前”にどこかで見た気がするけど絶対ウソ。二度寝大好き。精神的にはとても良いよね。
「……まだ暗いじゃん……なんでさぁ…………ほんと空気読めない男……だから嫌われるんだよ……」
「え?あ〜、ローズちゃん起きちゃったかぁ。気がつかない内に終わらせようとしたのに」
「ローズ、動くなよ、大丈夫だから」
動かないよ、寝たいんだもん。
睡眠は大事。例え昼間何もしていないとしても、私は昼寝なんてしていないし夜に寝ることはとても大事。
「【夜の街】。お休みなさい。二度寝大事」
「なっ……くっ……!?まさ、か、こん……くそっ」
「……は!?なんっ……どこへ……!?どこにもいな……ローズ?ローズ!」
なんでチャラ男がいたのかはわからない。でももう消えた。消える前、すごく眠そうにしてたからきっと寝てなかったんだろうね。寝に来たのかな。森で寝てろ。
「兄さんもなの……?悪いとは思うけど今は寝ようよ……ごめ、んなさ……すぴー……」
「はぁ!?えっ!?え!?」
●●
スッキリと目覚めて私の気分もスッキリです。
「兄さんおはよう。ねぇ、もっと暗い時間帯にさ、チャラ……あの金髪男来てなかった?」
「……おはよう、ローズ。……一応覚えてるのか……。来てた」
途中で起きたのは覚えてる。夢かなとも思ったんだけど流石に違ったか。
あれ。……私、魔法使っちゃった気もするんだけど……やばくない?
「何だったの!?私、魔法っ……!」
「殺りにきたのかなんなのか、ローズが何か魔法かけてからすぐに転移してった。なんの魔法使ったんだ?あいつが対処できないほどの魔法使えるってことは、ローズってだいぶ……いや、いや。流石にな。ウンウン」
なんの魔法。どんな魔法使ったんだろう、私。眠くて眠くて、ただ寝させて欲しかったんだよね。
「魔法……えっと……寝よう、って……」
そう、だから寝ようよ、みたいな思いで使ったの。
ということはさ、
「眠る魔法?」
だから眠そうだったんだろうな。
うん、これなら私でもできそうだし。詠唱はなんだったかな。無詠唱でもできそうじゃない?
「なんだそれ……」
「私もよくわからない」
わかってたら疑問形にはなりませんからね。
「そっか……。と、とりあえず着替えて出る準備してくれ。いつまた戻ってくるかわからないから早くここを出たい」
それもそうか。
いつも通りに男物の服を着て、外に出るからグレーのマントを被る。荷物は兄さんのも全部まとめて影の中。少しくらいなら魔法使っても大丈夫だったんだって。それにもうバレてるから何しても平気とも。
準備万端。いつもより身につけている魔道具は多いけどね。兄さんが作った魔道具がたくさんと、あの私が作ったやつ。
「行けるな。転移する。俺の側から離れるなよ」
私と同じ色のマントを身に付けながら兄さんがそう言った。今は、まあ仕方ないよね、転移でも……。
いつも部屋の中にいる時のラフな格好じゃなくてきちんとした格好だからか、兄さんの“騎士”っぽさが強い。いや騎士なんですけど。普段の言動的にそれが薄れるんだよね。
「うん。大丈夫」
兄さんに近寄れば、腰に手を回され引き寄せられる。
「絶対に、守りきる。平穏は俺たちのものだ」
瞬間、景色が変化した。




