第46話 現実なんてこんなもの、ということですか。
ローズです
ノアが出て行ってから数日経った。ノアが戻ってくる様子はない。
みんなは変わらず外へ行って色々な情報を集めてきて、夜に集まってその日の話をする。
私はただ部屋のベッドへ座ってぼんやりとそれを眺めているだけ。
こんなに悲しんで、うじうじする資格ないのはわかってる。なんなら戻ってこないノアを心配してナラルさんの方が辛いはずだし。
でもノアのあの表情が頭から離れない。
立ち直れない。
ただでさえ何もできなくて迷惑かけてるのに、立ち直れないことでまた迷惑かけてる。
私、本当に駄目。
「どこへ行っても目撃情報はありません。どこへ行っても、です。教会のシスターたちも来ていないと悲しんでおりました」
「隠れてるのかもしれないわ。……何のため?あ、私たちから隠れてるのね……。本当に酷いわ、今まで一緒だったのに!」
「隠れてる……ある、かもしれない」
「これだけ探して見つからないとそれしか考えられないねぇ」
「どこに居るんでしょうね?他所からの人を匿うくらいですから、それだけで情報は入りそうですけど」
最近はノアを探しているらしい。
私としては、探さない方がいいと思ってる。
だって、自分の意志で逃げたんだし。見つからないのも私たち、いや私に会いたくないからだろうし。闇、で。怖いから。
でもナラルさんは困るか。大事な一人息子だし。私が居なくなれば見つかると思うな……。
散々一緒に過ごして来たのにな。なんで今更あんなこと言われたんだろう。
村でノアに興奮して、看病してドキドキして、バカみたい。旅の途中ノアに助けられたこと、たくさんあった。その度に嬉しくなって。
チャラ男に対して言ってくれた言葉だって、嬉しかった。あんな真剣な顔で、私のこと考えてくれてるんだな、って思ったから。
それから少し避けられてるような感じはしてた。それでも話してはくれたし、まさかあんなこと思ってたなんて知らなかった。
私の作った魔道具、どうしたんだろう。見てないや。とっくに捨ててるよね。
ノアに対する気持ちは普通よりは上だった。大切な人で、大好きな人で。
でもそれは私だけが一方的に思ってたこと。ノアは、私に何も思ってなかった。恐怖以外、何も。
バカだなぁ、ほんと。少しでもノアは何かしら思ってくれてると思ってたんだ。それは間違いだったわけだけど。
「あはは……ほんと、ばか、みたい……」
ポツリと呟いた言葉。
部屋にはもうみんなはいない。いるのは、兄さんとナラルさん。2人で話しているらしい。
「ローズ」
独り言は兄さんに聴こえてしまったらしい。話しをやめ私の隣へ座る。ナラルさんも近くへ来た。
なんだろう。気にするな、とか?それとも、もうグジグジするのはやめろ?
「ローズ。みんなには言ってないことがある。それでやっぱり無理だ、なんて思われたらルス教をどうにかすることはできないから。あのな、ノアのことなんだ」
「……っ」
ノアのことで言ってないこと。わからない。なんだろう、言われることが想像つかない。
「ノア……あいつ、多分誰かに洗脳みたいな魔法かけられてる。誰かも、いつからかもわからない。1番怪しいのは……アイツだ、あの金髪。名前聞くの忘れてたな。エスペラールも充分に怪しいけどセネルがいるのにやるとは考え難い。アイツの情報も集まらないし、何のためかは知らないけど俺たちはアイツがしたんじゃないか、って考えてる。だからあれはノアの本心じゃない。それで気が休まるとは思えないけど、少しでもローズの気分が軽くなればいいんだが……」
「自分の息子を上げたいわけじゃないんだけどね、ノアをやわに育てたつもりはない。そこそこの強さはあるし、そこらにいるような人にやられるような子じゃない。だからノアにそんなことをしたのはそれ以上に強い者。そんな者が敵にいるなんてみんなが知ったら怖くなるかもしれないだろう?ローズはどうだい。強い敵がいる。それでもノアを助けること、協力してくれるかな?」
しばらく言われた言葉を理解するのに時間がかかった。
洗脳。
洗脳と言えば。
……私?
違う。そんな話じゃなかったし、兄さんが前に光でもそういうことができるみたいな話してた。
チャラ男が、ノアを。
何のために?
わかんない。
でも、1つだけわかる。
「ノアのあれは、本心じゃ、無かった……?」
「そう。洗脳されて……言うなら操られてた、みたいな感じだ。それでもあんなこと言うなんて許せないけどな……」
操られてた。ノアの本心じゃない。
じゃあ、じゃあ。
「……私、ノアに嫌われてたわけじゃ……」
「ないよ、それは父親である俺が断言するよ。ノアはローズを嫌ってなかった。大事に思っていたよ。あんな容姿だろう、今までも何度か旅に連れて行って!と言ってくる女の子たちがいた。それでも絶対にノアは反対したし、ローズの時のように自分から声をかけ聞くなんてこと、したことは無かった。わかるかな、意味が」
「わかんねぇ。わかりたくない。わかりたくないです。まず知りたく無かったんですけど。……もしかしてアイツ俺のローズに気があるのか……?許さない、許さないぞ!あんなことしといて!」
嫌われてなかった。
私の気持ちは一方的じゃなかったんだ。
「あれっ」
安心したからか、止まっていた涙がまた出てきた。兄さんの声がぴたりと止まる。
それから泣き止むまで兄さんはずっと私の頭を撫でていてくれて、ナラルさんは私が気がつかない内に部屋から出て行っていた。
題名変えようか悩んでます




