第14話 騒がしい人とかわいそうな人。
「ローズちゃん!こんにちは!」
「ローズちゃんおはよう!今日は私も一緒のお仕事なの!同じ事ができるなんて嬉しいな!」
「ローズちゃん!今日もお兄さんと一緒なんだね!仲いいね!」
「ローズちゃん!これあげる!ローズちゃんに似合うと思って作ったんだ!」
「ローズちゃん今日も可愛いね!」
「ローズちゃん!今日もお兄さんと一緒なんだ!お兄さんいつ王都に帰るのかな!」
「ローズちゃん!酷いよ、なんで最近いつも私のことスルーするの!」
「ローズちゃん!私見たよ!るーくんとは楽しそうに話してたのになんで私とは話してくれないの?……いや見てるのも眼福なんだけど……」
「ローズちゃ……あっ、お兄さんなんでそんな怖い目で……やだなぁ、私はただローズちゃんと仲良くした……あああごめんなさい消えます消えますぅ!」
シーナが異様に私に絡んでくるようになった。いつもいつもテンションが高い。
なんだか偶然出会うにしては頻繁すぎるくらい会うし、もしかして見張られてたりする?
幸い、兄さんが私にずっと着いてるから2人っきりで出会うことはない。最近じゃ兄さんが不機嫌そうにシーナを見るだけでしょんぼりしながらシーナは帰っていくし。
アレクはそんなシーナを追いかけて私の元へ来ては兄さんのひと睨みで怯えた顔して逃げていく。今一番かわいそうなのはアレクだな。攻略対象なのに……。
シーナに髪飾りを貰った。結構いい。金属の棒の端に針金と青と黄色の布を使って花が付けられているもの。手作りには手作りなんだろうけど、売り物にできそうなレベルの出来。
貰ってすぐに兄さんが「何か魔法がかけられているかもしれないから俺が預かる」って言ってしばらく私の元には無かったんだけど、数日後に大丈夫だった、って返してもらった。
いや返してもらってもなぁ……。付けるわけにもいかないし。今は部屋の机の上のペン立ての中にペンと一緒に入ってる。眺める分には綺麗だからいいんだけどね。
明日、兄さんは王都に戻る。明日からはシーナとアレクを相手しないといけないと思うと気が重いです……。
「ローズ、アレクくん来てるよ」
髪飾りをぼーっと眺めていたら、母さんのそんな声が聞こえた。
アレクが?何の用だろう。心当たりがありすぎるな。今兄さんは村の魔物避けの魔道具を見に行ってていない。大丈夫、兄さんが居なくても話しくらいできる。できなきゃ村を出て旅なんてできないもんね。
今行く、と返事をして部屋を出る。
出ればすぐにアレクの姿が見えた。家の中には入らず、玄関で立っている。母さんはすでにいない。
「ローズ。話がある」
「私も」
アレクとはあれからきちんと話していなかった。だから、今日こそ話さないと。
「シーナがおかしい。……いや、前から少しおかしかったけどもっとおかしい。お前、何かしただろ」
前からおかしいってわかってたのかよ。
なんてツッコミは言葉にできませんね。
「する意味がない。そもそも私はそんなことできない。というより、シーナがおかしくて迷惑してるのは私。恋人の君がどうにかしてくれないと困るのだけど」
恋人、のところでアレクの表情がピクっと動いた。
シーナをおかしくするのはできるかもしれないけど、やったことないし……“ローズ”ならしそうだな。あんな自分にくるようにじゃなくて、人と関わらないような感じにしそう。
「……恋人じゃ、ない」
え?
「何て?」
「恋人じゃない……」
「……え?」
「だから俺とシーナは恋人なんかじゃないんだって!俺はシーナが好きだけどシーナは別のやつが好きなんだ!本人から直接言われたんだよ!くそっ、誰だシーナを誑かしたやつは!」
……あら。そんな悲しいこと大声で言わなくてよかったのに……。
「えっと……残念だったね……?」
「かわいそうなものを見る目で見んなよ!ただでさえシーナの申し訳なさそうな顔でやられてんのに……お前にまでそんな……」
1番かわいそうなのはアレクで間違いなかったけど、思っていたよりものすごくかわいそうだった。
俯いたアレクからは悲しみのオーラがバンバン放たれている。
「シーナが好きな人は私も知らない。でもこの村の誰か。それは確かだと思う」
兄さんは違ったし、よく一緒にいるルフトも違うっぽい。ノアに至ってはこの前憎たらしいものを見る目で睨んでたからこれも違う。
これじゃ攻略対象は皆んな違う、ってことになるけどノアが私の部屋に入り込んで来た時の言葉。隠しルート。ということは隠しキャラがいるってこと。おそらくシーナの好きな人は隠しキャラ。誰だ。ていうか隠しルートなんてあったのか……。
「村のやつ……。そう、なのか……。お前は本当にシーナに何もしてないんだな?……最近は大したこと言ってないみたいだし……何かしてたらシン兄さんが許すわけないか……」
どんよりとした空気のまま、私を見ながらそんなことを言う。
アレクは兄さんをシン兄さん、って呼んで幼い頃から慕ってた。兄さんが王国騎士になってからそれはもっと熱烈になった。光の魔法を使い、悪を罰する正しき騎士。みたいな。だから兄さんが私の味方をし始めてびっくりしてた。睨まれた時も少し悲しそうな顔するし……。そこから私が悪くないんじゃないか、って思い始めたんじゃないかなぁ。
「シーナ……。一回医者に診てもらった方がいいんじゃ……」
結局アレクの事情を知っただけで、アレクはどんよりと暗いオーラを放ったまま帰ってしまった。
それにしてもかわいそう。シーナ、別の人が好きって言っちゃったのか。あれだけべったりしてたのに好きな人は別にいるなんて言われたらショックだよね……。
「ローズ!大丈夫か!」
あれ、兄さんだ。ものすごい勢いで走ってくる。
「兄さん!?魔道具は……」
「何を言われた?酷いことされなかったか?何もないか?とりあえず治癒魔法かけておくか?」
兄さんアレクが来たこと知ってるの?なんで?戻ってきたのはそれが理由ですか?
「私は大丈夫。アレクが来たの、知ってるの?」
「念の為あいつに魔法で印を付けておいてよかった。家の方に行くのを感じたから慌てて帰ってきたんだ」
怖っ。いつの間にそんなことしてたんだ。
「なんでそんなこと……」
「最近よく来るだろ。シーナを追い掛けて。あいつシーナが好きらしいからな、ローズに何か言いに来るんじゃないかって思ってたんだ。当たりだな。シーナにも何かしておくべきか……まさか家までは来ないだろうけど……ローズ、やっぱり王都に一緒に来ないか?」
行かないよ。
兄さんには、一緒に来ないかと何度も言われてる。そこまで着いていくわけには行かないし、迷惑にはなりたくないから。いつかは村を出るつもりだけど、それは1人でだし。
「私は大丈夫だから。兄さんの仕事の邪魔はできないし、そもそも兄さん兵舎とかそういう所に住んでるんじゃないの?」
「ローズが邪魔なわけないだろ?それに家の心配はすんな。友達と数人で一緒に一軒借りてるんだ。1人増えたくらいどうってことないぞ」
初耳だ。兄さんの友達には会ってみたい。でもそれこそ邪魔になるよね?
そこまで強引に連れて行きたいわけじゃないのはわかるんだけども、本気で言ってることもわかる。
「私は、大丈夫。成人したら私が兄さんに会いに行くね」
「うあああああ!待ってるからな!兄さんちゃんと待ってるからいつでも来いよ!そうだ王都の地図書かないと……」
私が笑顔で会いに行く、なんて言ったら感激した表情で兄さんは私を抱きしめてきた。でもすぐに離して、自分の部屋へ走っていってしまう。
……明日、王都に帰るんだよね?準備大丈夫なのかな?




