第38話 今日もお留守番です。
ローズ視点
今日も私は留守番だ。兄さんみたいに集められた情報から指示を出したりこう動いた方がいい、とか助言したりしてるわけじゃないから本当に私は何もしていない。
あ、一回だけ外に出た。兄さんと一緒に。実際に外に出て知りたいことがあるって言ってたんだけど、何か調べてる感じはしなかったし誰かに話を聞くのもしてなかった。ずっと私を見てニコニコしながら私と話してた。
いや、もしかしなくてもわかります。兄さんは私に気を使って外に連れてってくれたらしい。とてつもなく申し訳ない。こんな私のせいでこんなことになってるのに何もしてない私に気を使わないでください。
「ミーシャと一緒にね、ノアを見に行ったのよ!何かいつもと違う感じだったわ、作った顔、って言うのかしらね?不自然だったの。でも、周りにいた白い服の女の子たちは気にしてないみたいだったわ。嬉しそうな声を上げてノアと話してるの。ノアはちっとも楽しそうじゃなかったわ。あれ、日本で言うスパイ、でしょう?スパイって日本語じゃないわね。外来語?まあ向こうで言うスパイ、よね。スパイがあれじゃあすぐバレちゃうわ」
今日はセネルが一緒。エスペラールはいない。
最初は兄さんも一緒に話してたんだけど、昨日遅くまで何かしていたからか少し前に寝てしまった。兄さんは椅子が部屋に2つしかなくて、ベッドに座ってたからそのまま寝かしてる。他の所なら運べなかったからベッドでよかった。
何をしてたのかはわからない。寝る時は一緒に寝てたのに、夜中ふと目が覚めたら兄さんベッドにいないの。なんか、机の方で魔道具をいじりながら何か書いてたんだよね。ぼんやりとしか覚えてないけど。すぐまた寝ちゃったから。
新しい魔道具でも作ってたのかな?でもそれって日中時間あるんだし、夜中にわざわざやる必要ないよね。何してたんだろ。
「いつものノアを知ってるのは今この国じゃ、7人しかいないから。バレることは無いと思う。……後、他の人の前で日本とか言わないでほしい。転生した、とかも」
シーナたちは抜く。他にも人がいるってこと、知られたらいけないもんね。内緒って言われたし。
転生云々は、私は誰にも言ってない。セネルくらいじゃないかな、自分で言ったの。シーナは絶対転生者だけど向こうは私が転生者だとは思ってなくてこの世界の“ローズ”だと思って接してるだろうし。
私と“ローズ”は同一人物。だからあのゲームの“ローズ”が今この世界にいないとかそう言う話じゃない。“ローズ”として前世の記憶が戻るまで過ごしてきて、“ローズ”として確立した個がきちんとある。そこに、前世の記憶が流れ込んだ感じ。“ローズ”が消えたわけじゃない。まあ、前世の記憶を思い出した時点でアレクへの気持ちは無くなったんだけどさ。最推しへの思いに押しやられたよね。
前世っていう、大きな世界を知っているから気にならなくなったっていうのもある。私のアレクへの想いは恋愛感情じゃなかったんだろうな、ってわかりました。前世でもリアル恋愛なんてしたことないけど。
私とローズは同じだけど、もしかするとそうは思わない人もいるかもしれない。ローズじゃない、ローズはどこ、なんて言われたら悲しすぎるし。
「そうね、おかしな人って思われちゃうもの。私たち、闇属性っていうだけでこんなに大変な思いしてきたのに、前世なんて足されたらもっと大変だものね。ええ、そうするわ!……私もエルには言ってないの。あのね、もし、私がここにいることで私になるはずだった私が消えてしまってるのなら、って思って……。そしたら、エルだって私のこと軽蔑する。成りすましてた、って言われちゃう。……だから、言えないもの」
私になるはずだった私。
ああ、本当のセネルってこと?セネルは、“セネル・リーヴァイス”という少女が出てくる乙女ゲームを知らない。だからセネルがどういう人物かわからない。
だから“セネル・リーヴァイス”という少女の人生を奪ってしまったのでは?って思ってる、ってことか。
でもこればっかりはセネルがどういう経緯で今のセネルになったのかわからないから、下手なことは言えない。
「成りすましてたはないと思うけど……。でも、エスペラールが今まで従ってきたのはセネル。あなただ。あなた自身に従ってるんだからそんなことないんじゃないかな」
多分ね。
まあこれは、私がそう思いたい、っていう願望でもある。今まで前世を思い出してからも私から離れないでいてくれたんだから、私自身を、前世込みの私を受け入れてくれてる、って。
「そう、ね。……確かにその通りだわ。エルは、ずっと同じだったもの。なら平気ね!うふふ、良かった」
安心したように笑うセネル。
可愛い。両手で口元隠して笑ってるの、セネルだから許されるよね。あざとさない。もしかしてこの子前世でもこんな感じだったんじゃ……。




