第35話 申し訳ないけどできることないんです。
主人公に戻ります。
アルカーナ国へ来て1週間くらい経ったか経ってないかくらい。ずっと部屋にいるから日付の感覚がおかしくなってきた。
私たちにとってアルカーナ国は敵陣と言える。まだ気持ち的にそこまで大きなものって思えてないんだよね。まだ、理解を頭が拒否してるっていうか。多分このままだと私、大きな取り返しのつかない失敗をする気がする。
気持ち切り替えなきゃね。
で、敵陣にいるからいつもみたいにふざけてられない。いつもふざけてるつもりはないんだけど、いつも以上に気を引き締めていかないと不味い。
兄さんだって宿の部屋以外で不必要に戯れついてくることはない。……戯れつくって言い方はおかしいか。不必要に、シスコン兄っぽさを出してくることはない。うん。これが正しい。
まぁ最初に言った通り宿の外に出ることはほとんど無いんだけどさ。見つかる可能性が高いような危険を犯してまで外に出る必要はないから。
私と兄さん以外は外に出て色々やってくれてる。とても申し訳ない。私のことなのに。
ミーシャはナラルさんと一緒に、観光客として色々な店に行ったり、国の人に話を聞いたりしてる。いつもこんなことがあったんです、この国の人たちみんな光属性を神聖視しすぎてます、闇は駄目、悪だってうるさいんですよ、みたいなことを聞かせてくれる。
ノアは、1人で教会へ行きルス教入信希望者みたいに装ってシスターとかから話を聞いているらしい。その綺麗な顔使ってるんだろうな。シスターさんでもノアがそういうつもりで話しかければ赤くなると思う。自分の顔がいいのはなんとなくわかってるっぽいからね、ノア。悪い男。
セネルとエスペラールは、セネルが隠れて何か調べるみたいなのが苦手というか、できないからエスペラールが1人で何かしてるみたいだけど内容はわからない。セネルは私と兄さんと一緒に留守番してたりミーシャに着いていったりしてる。
でも本当に申し訳ないよね……。4人だけじゃなくて兄さんだって部屋に閉じ込めちゃってるのと同じだし、兄さんのことだから自分で調べたいこともあるだろうに大丈夫だ、って言うの。
兄さん曰く、『シーナが先に色々調べてるから』だと。
シーナ、何やってるんだろうって思ったらそんなことしてたのか。セネルとかチャラ男が来てからほとんど見なかったからなぁ。会ったのターイナ国の時だけだよね、ほんとに。その前はちょくちょく来てた。兄さんと話してたり、私とノアの間に急に現れたり。気配無さすぎで私もノアも凄く驚いた。慣れなかった。
近くには居たんだろうけど。
だって兄さんが『聞いてないのか?私が隠し球になるんだ!って張り切ってたぞ』って言ってたし。なんか、シーナの隠蔽魔法の上から補強する形で兄さんが隠蔽魔法をかけてたんだって。誰にも見つかるはずがないって。エスペラールとか気がつきそうだもんね。
隠し球ってなんだろう。セネル、エスペラール、チャラ男が怪しいからっていうのはターイナ国から逃げた時に聞いた。じゃああれか、3人が何かした時に不意を突く為、的な。
でもセネルとエスペラールはもう信用して大丈夫だと思うんだよね。エスペラールはともかく、セネルはそういう企みとか騙して裏切るとかができるような子には思えない。もしそれが演技だとしたらもう何も言えないけど、多分演技じゃあない。
セネルが望まない限りエスペラールは動かないからエスペラールも除外。
残りはチャラ男。
結局あの男の名前聞くの忘れた。なんだったんだろう。名前呼ぶ機会無かったからそれで大丈夫だったんだよね。後私の場合名前呼びより君呼びが多いから。ま、知りたくないけど。
「ただいま帰りました〜。お姉様、お土産ですっ!見てくださいよ、この砂糖細工!すっごく綺麗で可愛くないですか?こっちはシンさんに頼まれてた本です!教会が無料配布してるやつだったみたいでお金はかかりませんでした。あ、ノアさんの面白い話があるんですよ〜!聞きます?」
私が外に出ないのなら兄さんも出られない。兄さんが出るのなら私も出ないといけない。せっかく綺麗な国なのに悪いなぁ、って思うんだけど兄さんは気にしてないみたい。ずっと2人で話してるか、兄さんが部屋の中で剣を振って稽古してるのを私がずっと眺めてる。うん、すごくいい。
ミーシャが外から戻ってきた時は、兄さんが稽古してる時だった。
「ありがとう。ごめんね、気使わせちゃって」
「いいえ〜。お姉様の役に立てるのならなんてことないです!で、ノアさんの話なんですけど」
「ミーシャ、言わないでくださいと言ったはずです。辞めてください」
笑顔で部屋の扉を開けた状態のミーシャの後ろに真っ白な服を着たノアが現れる。
ノア、教会に行き始めて2回目か3回目くらいからこの服装になった。なんでも怪しまれない為には必要なこと、だって。教会のシスターさんたちに選んで貰ったって。白のスーツみたいな服。
ズボンとジャケットは真っ白。羽織っているマントみたいなのは白に、黄色の縁取りがしてある。なんでも白に黄色はルス教の印らしい。本当は白に金なんだけど、それは教皇だとか上の役職の人しか身につけられない色なんだって。
中のシャツだけ黒。シャツも白って言われたけどそれは辞めたらしい。流石に全部白は嫌だったらしい。朝行く時とか不機嫌な顔してるし、今の服も好きじゃないんだろうな。
それでも似合ってるからいいよね。真っ白な服に髪の濃い青がよく映えるんだ。綺麗。シスターさんたち、よくやった。
「おいノア、どうでもいいけどその服着替えてこい。それだけで嫌になる」
稽古を止めた兄さんが、ミーシャだけを部屋へ入れてノアを外へ押し出す。
兄さんは最初にノアのこの真っ白な服を見て顔を顰めてた。ルス教の象徴だしね。私以上にルス教に良いイメージを持ってないのが兄さん。
「わかりました。ミーシャ、いいですね、絶対に、言うな」
真顔でミーシャへ忠告し、ノアは着替えに自分の部屋へと戻って行った。
綺麗な顔の人が真顔で迫ると怖いよね、普段穏やかな表情してるノアだから尚更。ほらミーシャなんて怯えた感じで、ノアが閉めて行った扉を見つめてる。
「で、なんだ?あいつの何?面白いのって?」
「あ、それはですね〜」
怯えてたのは演技だったらしい。
「ノアさん、シスターさんたちにせがまれて魔法で花咲かせてたんですね、それだけでも面白かったんですけどどこからか強い風が吹いてきて花が宙に舞って!ノアさんて今真っ白なマント羽織ってるじゃないですか、それもブワッて広がって!」
「ふーん。どこに面白い要素があるんだ?」
「ふふふ、それだけならただイケてる人のイケてる体験、じゃないですか。違うんですね、何に驚いたのか、突然ノアさんが声を上げて尻餅ついたんですよ。その瞬間1番強い風が吹いて、舞う花びらでノアさんが見えなくなったんです。止んだ後、ノアさん、ぶふっ……何故か、ふふ、何故だか頭におっきな赤い花咲かせてて、あはは、もう無理です、思い出しただけで笑っちゃいます!あの時のノアさんの惚けた顔ったら!あの服装で、ああ、あははははは!!」
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