第13話 そうだ魔物だ。忘れてました。
短いです
「ローズ、あの三匹はどうしたんだ。どこに行った」
抱きしめた体を離し、私を見る兄さん。
忘れてた、あの魔物は収納したままだ。そしてそれを兄さんに見られてたことも忘れてた。
「えぇっと……。魔法で影の中に入れてそのまま……かな……」
兄さんに誤魔化すようなことは言いたくない。
「影の中?どういうことだ?」
「あのね、魔法で影の中に空間を作ってその中に物とか入れてるんだ。どうすればいいかわからなかったし、兄さんが来ると思ってその中にしまっちゃった……」
いつも物を入れてるとこと同じ所に入ってたら、どうしよう。もし中で魔法が切れてたら暴れてるかもしれないし……切れてなかったらなんかかわいそう。苦しそうだったし……虐待趣味はないんだ。
「影の中の空間……。なるほどローズはすごいな。光の魔法でも同じようなことができるんだ。まあ俺は文献とかにあったから知ることができたんだが……ローズは自分で発見したんだろ?すごいぞ、ローズ」
今度はくしゃ、と頭を撫でられる。
ああ、笑顔だ。この兄さんの笑顔は今私に向けられているもの。私だけのもの。もしもバッドエンドになったら見ることができなくなる笑顔。この状態から兄さんに嫌われる、ってもの凄いことをしないと無理だとは思うけど、1日ぶりのこの笑顔はとても嬉しい。
「そうなの?えへへ、ありがとう」
兄さんに褒められるのは嬉しい。自然に笑顔になってしまう。でも忘れたらいけない。私の中身は20代後半の女。体につられているのか考え方だとか感じ方が幼くなるけど、私はいい年した大人の女……。
「……なんて拷問だ。またしても同じことになるなんて。すみませんね、お邪魔虫は消えます」
そしてノアのことも忘れていた。
ドアの方へ行ったノアだったけど、途中で立ち止まり戻ってくる。
「時間まで出られないんでした」
●●
兄さんに構われ、ノアがつっこみ、時間は過ぎた。
私は魔物をどうにかしないといけないから兄さんと一緒に外へ出て、ノアはまだ本を読むらしく書庫に残った。
「いいか、出す前に俺が結界を張るから、その後で出すんだぞ。出した後は何もしなくていい。俺がケリをつける。ローズには手を汚させないからな」
「う、うん」
兄さんの態度が戻ったのは嬉しいけど、距離が前以上に近くなった気がする。腕が触れ合うくらいに近い。
あっ、ちょ、その笑顔で手を繋ぐのは卑怯だ、でも嬉しい。
「ローズは魔法について調べてるみたいだけど、何かしたいことでもあるのか?」
大人になったら村の外に出て世界を旅したいんだ。こんなこと言ったら兄さん騎士やめて着いていくって言い出しそうだな。そんなこと駄目だ、とは言わないと思う。
「え、っと。魔法使えたら便利だろうな、って思って。身を守るのにも使えるし」
誤魔化すようなことは言いたくないって思ったけど、兄さんの仕事に支障が出るのはもっと嫌。
「身を守る、か……。それは問題ない。俺がいつでも守ってやる。まあ向上心があることはいいことだからな。勉強するのは悪くない」
兄さん、そんなこと言ってるけど兄さんは王国の騎士だよね?
私が村を出ても出なくても同じことになりそうな気がしてきたぞこれ。
「うん、ありがとう。でも兄さんもう少ししたら王都に戻るから、自分でも対処できないと」
「……騎士なんて辞める」
「え?」
「ローズを1人にするくらいなら騎士なんて辞めてやる!」
いや1人じゃないんですが。父さんも母さんもいるんだけど……。
「でもせっかく騎士になって働いてるのに……?」
「いいんだ、ローズの騎士になるから」
駄目でしょ、それは。ヒロインに言って。
兄さんを私に縛り付けたいわけじゃないんだ。ただ、嫌われたくないってだけで……。わがままかな。
「私、王国騎士の兄さんかっこいいと思ってたんだけど……。辞めるの?」
私のせいで仕事を辞めるなんてそれはいけない。
「うっ……。かっこいい……でもローズは……うう……」
悩み出しちゃったよ。兄さん王都でいい女でもいないのかな。いれば……いればこの乙女ゲームは成立しませんね。
そんなことを言い合ってる内にこの前魔物を捕まえた場所に着いた。
「よし、いいぞ。結界は張ってあるからな」
守るような結界は自分でも出来るけどな。でもまだ慣れてないからここは兄さんに任せておこう。
影から中身を取り出す時は、その物を思い浮かべながら影に手を突っ込むか、出したい影に出したいものを念じるだけ。
だから少し離れた場所に立てられている、変な形の案山子のようなものの影に三匹の魔物を出す。
現れた三匹はピクリともせずに地面に横たわっている。動く様子はない。【霧散】の効果はそのままだったみたい。
「なんで虫の息なんだ……」
不思議そうな声を出しながら兄さんが三匹に向けて軽く手を振れば、光が勢いよく放たれ魔物を跡形もなく消し去った。
つ、強い……!ぴって。すぐ消えた。
あっという間すぎる!これが光の魔法……!
「帰るか」
「うん」
三匹が死にかけだったことに対して兄さんは質問をしなかった。
昨日は怒られて引き摺られるようにして帰った道を、今日は並んで歩いていく。すぐにまた兄さんは手を繋いできた。
この手が離されることがないように。私はいい子で生きていきます。




