第25話 私の魔法、結構怖かったです。
なんかね、ノアに避けられてる気がするんだ。
気のせいかもしれないし、そうだと信じたい。それでも今までとなんか違うから避けられてる感じがするんです……!
「ミーシャ、そっちに3匹行きました!頼みますよ!」
「もっちろーんでーす!お任せくださいっ!」
「ローズ!俺の後ろから動くな、それか終わるまで影の中入ってろ!」
「俺のとこに来てもいいよ〜?」
「たくさんね!……でもみんないるから一気に殲滅はできないわね」
「お嬢様、あまり離れないでください!」
「おじさんの出番ないなぁ」
私の出番もない。
今私たちは魔物の巣へと入り込んでしまっていた。大量にいるわいるわ、みんなが倒しても倒しても出てくるの。なんか蟻みたいだな、って思った。だから兄さんがいても苦戦してる……っぽい。
セネルの言うように、広範囲に効果のある大きな魔法を使えば一気に減らせるんだろうけどそれをすると他の人まで怪我するからできない。だから苦戦してる。
私だって手伝いたいけど少しでも前に出ようなら、すぐに兄さんから止められる。危ない、動くな、って。
そんなに私、使えない?ここで自分が手出したら足引っ張る?
「兄さん、私も手伝うから!」
「いい、ローズは黙って安全な所にいろ。ローズにこんなことさせたくない!もし何かあったら?心配だ!お願いだから動かないでここにいてくれ!そうすれば俺が守ってやれるから!」
……足引っ張るから、じゃなさそうだね。それは良かった。
ここにいるまま、何か手伝えないかなぁ。ゆっくり魔法操ってる時間はない。その前に目標よ魔物は他の人が倒してる。うーん、私の使える魔法で何かいいのは……あ、いいのがあるじゃないですか。ラクスの時に使った、影の弾丸。
それとも始めに考えた【刃】の方がいいかな?
「どっちでもいっか。よしっ」
体内から魔力を手に集める。とりあえず弾丸飛ばそ。
と、思って一体の魔物に狙いをつけた時だった。集めた魔力が霧散して消える。
「ローズ……いいから、何もしなくていいから。ローズに殺しなんてさせたくない。本当はこの場を見させたくもない」
兄さんによって魔法が強制的に解除させられたらしかった。そんなことできるのか。……私もできるな。使ったことはないけど、村にいた時対兄さん用、って思って編み出した魔法がある。それと同じやつじゃん?
「私だけ何もしないでいるのは嫌。できるんだからやらないのはおかしい」
「でも……っ!」
「でもじゃない。えいっ」
「あぁ”っ!」
酷い声があがる。
私の放った影の弾丸は、一直線に飛び魔物を貫いた。やった!2体一気に!弾丸が通り抜けた後、魔物の体の空いた穴からドバッと赤い液体が飛び出てくる。
……あっ、結構無理かも。しかも1体はまだ生きてるし。うわ、こっち向いた。
「やば、ああ!じゃあこれ!【吸収】!」
影が動いて魔物を覆う。あっという間に見えなくなって、何か力が戻ってくるような感じがする。……魔物の魔力だかの力を吸収したのが私に流れ込んできてるってことだよね。
影が消すとその場には、ミイラみたいに干からびた魔物の死骸が残っていた。
「……怖っ」
「…………何の心配もなかった」
唖然とした兄さんの顔。口を開けたまま、兄さんは手を振りミイラ化した魔物を消す。
「ね?大丈夫でしょ」
「あ、ああ……人には向けるなよ?」
……兄さん最初心配してたの私だったよね?
●●
影が地面を這い、それが通り過ぎた後には何も残らない。
私は腕を伸ばし影を操っていた。
「わぁああああああ、すごい!掃除機みたい!すごい!!」
「お姉様楽しそうですね。そーじき?ってなんだと思います?ノアさんわかります?」
「……さぁ」
全部吸収しちゃえば後には何も残らないってわかったんだよね。おかげでどんどん魔物の数が減っていく。魔物を消すたびに、私の力が漲る。影も大きくなっていく。
なんか気分も上がる。
いやまさか魔物倒して興奮してるとかそういうんじゃないけどさ……。違うからね!?あれだよ、最新機械使って効果実感しておお!ってなる系の興奮。それ。……同じか。
「……わ、私だってできる、のに……」
「いいんですよ、任せることも時に大事ですから」
「うんうん、おじさん何にもしてないしね」
「……こんなはずじゃなかった」
「すごいねぇ、なーんにも無くなってく。あれ?光魔法よりこれ強いんじゃない?おっかしいなぁ……」
後ろで色々聞こえるけど無視。どんどん魔物を影の中へと納めて、消して行く。
跡形もなく消えるから現実感がない。殺してる実感もない。罪悪感、無くちゃおかしいよね、普通。
魔物たちが暮らしていた巣へと入り込んでしまったのは私たちだ。なのに全部殺して壊して。ごめんなさい。でも私、死ねないし。襲いかかってきたら対処するしかないし。
ぐるぐるとそんなことを考えながら影を操ってたら、もう魔物は全部居なくなっていた。
消したか、逃げたか。どっちでもいいな、もういないのなら。
「よしっ。終わりっと」
大きく広がっていた影を消す。
魔物の魔力を自分で吸収したからか、普段より魔力というか魔法というか、そういった感じないものを感じる気がする。それが身体中に巡ってる感じ。いつもより余分にある状態なのかな。
「………………っ、ローズ、楽しかった、んですか……?」
「へ?……どうかな。楽ではあったけど楽しいっていうと……うーん」
この興奮と楽しさは違うと思うな。掃除して汚れがどんどん取れていく感じ……ってこの汚れ取りの掃除が楽しい人もいるのか。
じゃあ楽しかったのかな。
「そう……ですか」
なんだかよくわからない顔でノアは私から離れた。この場にいるのは8人、別におかしい事じゃないんだけどさ。なんかいつも近くにいてくれたから悲しいというか、寂しいというか。
ま、いつまでも推しだからってノアについてるわけにもいかないしね。せっかく“ローズ”っていう結構な美人(女としてか男としてかはさておき)に生まれたんだし、恋愛くらいしてみたい。
「……人には向けんなよ?」
兄さん、それさっきからずっと言ってるけどあなたの妹はこんな怖い魔法を人に向けそうな妹なんですか……?




