第12話 これは愛の話です。
少ないです。
真ん中辺りにシーナ視点入ります。
最悪の空気が漂うこの場所。
睨み合いは長時間に渡り続けられています。
あれ?書庫って本来なら居心地のいい場所のはずなんだけど。本嫌いじゃなければ。
「ほら、妹さんが困っていますよ。ここは引くべきなのでは?」
「お前がいるからじゃないか?」
「まさか。僕は今まで妹さんと毎日のようにここで会って読書をしていたんですから。僕のせいなら来ないはずでしょう?」
「ここにしか本はないんだから仕方ないことだろ」
「本当に嫌なら本は諦めますよね?シスターに聞けば本の内容はわかりますし、来なくても知識は得られます。それでもここへ来ていたんですから」
ああもう、なんでノアはこう煽るようなことばっかり言うんだろう。絶対にわかってて言ってる。推しを悪く言いたくないけど、ほんと性格悪い男……。
兄さんも兄さんで、私に無言を貫くくせになんでノアとはこんなことで張り合ってるんだろう。なんならそのまま私を許して前の態度に戻ってください。
ていうかなんで私は攻略対象の2人にこんなこと言われてるの?シーナは?ヒロイン何してるんだ!!
●●
ローズ様がお兄さんに叩かれてた。
いい顔して暴力男だったなんて!攻略対象のくせになんて性格なの!?これじゃヒロインは幸せになれない!
って思ったんだけど、勘違いだった。
女神様の前で、お兄さんを貶してしまった……嫌われてないよね?大丈夫だよね?
いや、あんなイベントなかったんだからそこで疑うべきだった。私、アホ。考え無し。これじゃ女神様が青い奴に取られるよ!
青い奴だけじゃない。もう色々ゲーム通りに進んでないし、もしかするとお兄さんが王都に戻る時に連れてってしまうかも。やばい。敵が増えた。
だってお兄さん、正規ルートならヒロインのことが心配で仮病使って戻ってくるし。今回私はアレク以外とはほとんど接触せずに好感度も上げてない(この世界で好感度なんてあるのかな?)から、攻略対象たちがヒロイン関係で行動を起こすことはない。だから安心して女神様を崇めることができるんだけど……のんびりしている場合じゃないな。私もゲーム通りじゃなくて行動を起こさないと。
さぁ始めよう。ローズ様がヒロインだ。敵は2人。女心がわかる私が有利。
“シーナ”の顔は可愛いくて、前世の“私”とは比べものにならないくらい。だから女神様と並んだって泥を塗ることにはならない。……いやそもそも女神様はそんなことで汚れませんでした。
いや前世の私の比べたらいけないけどさ。乙女ゲームのヒロインが不細工って絶対売れない。
違った。もうヒロインは変わった。私はヒロインじゃない。ヒロインは我が女神。ローズ様。
全ては女神の愛を一身に受けるために!私は行動を始める!!
「ああもう大好きです!!とりあえず抱きしめさせて!!……あ、違う。私は貴女が好き!!抱かせて!……違うわ。…………抱いて!」
「しーちゃん……」
●●
「ローズの意見を聞きましょうか」
背中でやり取りを聞きながら、本を読んでいた私。恐れていたことが起こりました。2人の言い争いに巻き込まれた……。
「ローズ、貴女はどうなんですか?ここへ僕とお兄さん、どちらがいることが貴女にとっていいのか」
答えにくい事聞かないでよ、推しが嫌だなんて言えないし、兄さんが嫌とも言えない。
どっちも好きだから……うん?この思考ヒロインがするべきじゃない?
よし、ならこうだ。喧嘩するのは嫌い。そう言えばそれとなく話ズラせるんじゃない?この空気も解消されて一石二鳥!
「……どっちも嫌。ノアはなんで来るたび会うたび私に構うのかわからないし、兄さんはずっと許してくれないから嫌」
私の口から冷たく出てきた言葉はそれでした。
途端、シーンとする空間。私が本のページをめくる音だけが響く。
背中にひしひしと伝わってくるのは、2人の呆然とした悲しみを纏う空気。
なんであんなこと言えたの、私……。
「……しつこかった?」
「……嫌いになった?」
同じタイミングで2人から言葉が聞こえた。
重なった言葉は聞き取れるわけがなく。
「何て?」
振り向いてそう聞く。
いや、やめてそんな顔しないで2人とも。イケメンのその表情はもう破壊力抜群なんですが……。
悲しそうに私を見るノア。心配したように私を見る兄さん。ああ〜!いい顔。これが私に向けられた表情なんですね……やばい素晴らしい。
「僕はしつこかったでしょうか。貴女と仲良くなれたら、と思ってしたことだったんですが……」
先に声を出したのはノアだった。悲しそうな声。私は興奮でやばい。推しが尊い。
「別に。気になっただけ」
しつこいなんて思うわけない。ただ、推しの前だと私が何をしてしまうかわからなかったから。
「俺は、厳しすぎた……?ローズは、俺が嫌……」
今度は兄さん。心配したような声。いや、恐る恐る聞いているみたいな声だな。私のことを心配しているというより、私に嫌われるのを心配している……?なぜ。
「悪いことをしたのは謝ります。危険なことをしたのは、わかってる。悪いのは私だから。すごく反省した。……でも兄さんはいつになったら許してくれるの?何をすればいい?兄さんは、もう許してくれないの……?」
許されないのは私のせい。このまま許してくれなくて、話せなくなったら嫌。でも何をすれば兄さんが許してくれるのかわからない。行動じゃないのはわかる。反省はした。もう危険なことはしない。それをわかってもらうには?
「ローズ……。ごめん、俺も大人気なかった。ローズがあんな危険なことをしたのが許せなくて。ローズは、もう俺が嫌か……?」
「許してくれるの?もう、普通に話してくれる?笑ってくれる?」
「もちろんだ。ごめんな?俺のこと、嫌なら……それで……いいんだ……でも、俺はローズが好きだからな。覚えておいてくれ」
そう言って兄さんは笑いながら私を抱きしめてくれた。
ものすごく悲しそうな笑顔で。
「私も兄さんのこと、好き。大好き。ごめんなさい、もうあんなことはしません」
私が兄さんを嫌うはずはなく。大きな背中に腕を回して、言葉を態度で表す。
「ローズ〜!俺も!大好きだ!本当にもう、あんなことはするんじゃないぞ!あんな危ない……って待てよ、あの三匹……ローズ、あの三匹はどうしたんだ。どこに行った」
あっ。
ヒロインが行動を開始します。
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