第15話 話長いんだもん。
エスペラールの演説はまだ続く。お嬢様をどれだけ愛しているのか。どれだけ愛を注いできたのか。これだけ言ってるともうなんか怖いよね。あ、ほらセネルも最初は呆気にとられた顔してたのに今じゃ怯えた表情。
「……行くか」
エスペラールの話は終わりそうにない。セネルしか見てないもん。
そうして私たちはその場から去った。
●●
街に着いてもセネルとエスペラールは追いかけて来なかった。代わりに、その前に話してた人がいるって。光属性の。
「何がしたいんだこいつは……」
私たちのことは相手もわかっている。それにさっきはわざと自分の場所を兄さんに分からせていた。私が闇属性だとわかっているけれど、離れることはしない。近づきもしなかったけど。
ほんと何がしたいんだかわかんないね。
「なら買い足しだけして街を出たい所だが、その人物を警戒しながら野宿は厳しいな。街の方が安全だ。だろう、シンくん」
「そうですね。敵対するつもりなのかはわかりませんが、安全なのは確かだ」
街中で戦闘を始めるような人じゃないことを祈って。
宿を探して、部屋を2つ取った。ナラルさんとノア、兄さんで一部屋。私とミーシャで一部屋。3人部屋なんてそんなにないからいつもはノアか兄さんが1人。ノアと兄さんで2人になることは絶対にない。
1回だけあったんだけど、2人で一晩中嫌味を言い合ってたらしい。アホすぎる。その嫌味の内容もアホすぎて、私それを聞いた時に笑ってしまった。
これはその一部。『「お前男のくせに髪長いなんて女にでもなるのか?」「では髪の短な女性は男性になりたいんですか?でも若い内から白髪だなんてほんとかわいそうですよね。悲しくないんですか?」「ローズも同じ色だが、お前はローズのこと白髪の女って思ってたんだな。最低じゃないか」「ローズは青みが強い綺麗な銀髪なので流石に白髪だとは思いませんよ。思うのはどっかのアホなラクスくらいです。貴方は白でしょう。色の違いもわからないので?」「は?それ知らないあいつローズ白髪だなんて言ったのか!?ああクソっ、もっと罰しとくべきだった!!」』
何か優位に立てないか、って兄さん全部録音してたんだって。優位って何。ノアと兄さんは何をしてるの。
宿の部屋に荷物を置き、先に近くにあった店で夜ご飯を食べた。キノコのグラタンみたいなのが出てきた。
ご飯を食べてから、足りないものの買い足し。昨日の街で大体買ったからほとんど買うものはない。買えなかったものだけ買って終わり。
だから私はまたミーシャと歩いている。今日は兄さんもいるけど。
「布は昨日の街で買いましたし〜。糸も足りてますし〜。針は無くなったらノアさんに頼めばいいですし〜。本当に何にも買うものないですね。あ、おねっ……お兄様、塩が少なめって言ってませんでした?」
ノアは土属性の上位魔法、金属製生が使える。僕は職人ではないので買った方が品質はいいんです。って言ってたから自分で作るのとかはしてないみたい。
それで針作るってどうなんだろうね。本職の人が泣くよ。
「なんだお兄様って」
「お姉様じゃないから。少なめだけどたぶん高いから見るだけ見るにする」
兄さんいなかったからか。いきなりお兄様なんて言ったら驚くよね。
「……まあ、いいか。仕方ないもんな」
「わかりました!あ、あの店売ってそうですよ!」
兄さんの言葉に反応する間も無く、私はミーシャに引っ張られていく。
「おい離れるな!さっき言っ……」
不自然に切れた兄さんの言葉を不思議に思い、振り向く。兄さんは何かを見ていた。何を?私じゃない。ミーシャでもない。その後ろ……後ろ?
「ごめんね〜、話聞こえちゃった。塩は向こうの店が安いよ。独自のルートがあるとかなんとか」




