第14話 愛、ねぇ。
短
結局兄さんが警戒してる人は現れなかった。
代わりにエスペラールが来てしまった。セネルを連れて。
そっちを警戒しすぎて隠れてきた彼らを見つけられなかったらしい。ギリギリの所で気がついて、兄さんが慌てて結界を張った。
「エル、早く、はやく……!私、もう我慢したくない……」
「……っ、ええ、わかって、おります。それがお嬢様の望みですから……」
なんかエスペラール、この前は従うことこそ正しい!至福!みたいな感じだったのに今日は違う。やりたくないけどお嬢様のため……感ある。なんだろ。
「おいノア。ローズ守るくらいはしろよ」
「言われなくてもしますが。僕に治癒魔法使ってくれてもいいんですよ?」
「悪いのはお前」
緊張感なくなるなぁ。
この場でやる気充分なのはセネルと兄さんだけな見える。ナラルさんとミーシャは何がなんだかよくわかってない顔だし、エスペラールは気が向いてないし。
私?狙われてるの私なら影に逃げればいいだけだからね。
「お願いね、エル。私も頑張る。そうしたら、みんなで過ごしましょうね」
「……はい。皆で…………過ごしましょう」
エスペラールが手を構える。ものすごくやる気のない感じがよくわかる。兄さんが不思議な顔してる。うん、不思議だよほんと。どうしたんだろう。何があったんだろう。
「そんなやる気なくて“お嬢様の望み”、叶えられんのか?」
「叶え……えぇ、はい。それが仕事ですから。ああ、そうだ。私情など挟むわけにはいかない。ですが……ですがお嬢様……お嬢様は、このエスペラール1人では不十分だと仰る。普通以上に愛を伝えてきたというのに!ここまでしてもお嬢様は私の気持ちに気がついてくださらない!なぜなのです!なぜ、なぜ!私はお嬢様のために誠心誠意努めてまいりました。それでも足りないと仰るのですか?これだけしても愛されていないと?愛が足りないと?どこまですればお嬢様は満足していただけるのですか?どうすればこのエスペラール、お嬢様の愛を受けることが……いえ、独り占めすることができるのですか?周りの人間は排除しました。彼らは皆お嬢様の立場が欲しい人間かお嬢様の属性を知って恐怖に負けた人間たちだけでしたから。ええ、ええ。怖いです。お嬢様を知ってもお嬢様を愛し続ける人間が現れたら、と考えたら。お嬢様の望みは私の恐怖を実現させるもの。ですがお嬢様の望みを叶えられないのにお嬢様の愛を望むなどできるわけがない!どうすれば!どうすればよいのですか!」
……怖。
始めは兄さんに向いてたのに途中からセネルに向いて話し始めた。セネルはぽかーんとしてエスペラールを見てるだけ。
「……今逃げます?」




