第13話 なんだろ。
ローズです。
なんか悲鳴が聞こえた。わあああああって。
聞き覚えある声だったな。……聞かなかったことにしとこう。
スッキリした顔で兄さんが戻ってきた。うん、私察した。黙っとこ。
「ごめん、ローズ。くだらない意地はって。どこでこの気持ちを発散すればいいのかわからなかったんだ。ローズが悪いわけないし、ミーシャはおかしいことしてないし、まあ……ノア、は被害者……だ、し。残りはこんなことになった理由だ。もう大丈夫。ごめんな?……嫌いじゃない、よな?」
いや完全に私のせいだと思うんだけど。
みんなが相手してくれないからってガブガブ飲んでた自分が悪いでしょ。ここは思い出したよ。青と黒が私に似合う、って話をみんながしてたな。そこら辺からあやふや。もう1つワンピースを作りたいだか男物だけど綺麗な服だったか……わかんないや。
前世は私、いくら飲んでもこんな覚えてないくらいベロンベロンに酔うことなんてなかったから……前世とは違うってこと、忘れてましたね。
シーナはとばっちりかな。
「嫌いじゃない。好きだよ。だからノアに治癒魔法かけてあげて」
「それは嫌。回復魔法使えるだろ」
ノア、私が変な魔法使ったから魔力を吸い取られちゃったみたいで朝からずっと顔色が悪い。いつもより元気ないし。
魔力は使いすぎると死んでしまうこともあるんだって。魔力と生命力は同じ、って考えていいって。魔力が少ない人が大きな魔法を使うのは命懸けって。ノアの最大魔力量は、準2属性(雷と土)の1つなだけあって結構多い。幼い頃から旅をして魔法を使う環境にいたのも多くなった要因って兄さん言ってたな。
でも、一晩私がノアの魔力を吸い取ってたわけで。どのくらいのペースで取っちゃってたのかわからないけど、ミーシャは怠そうなのに私が何にもないっておかしいでしょ?だから、それほど取ってるってことだよね。魔力が生命力なら人の生命力吸い取ってるのと変わらないし。
だから兄さんに治癒魔法使ってって言ってるんだけど、使ってくれない。ノアの魔力は私が取っちゃったから回復魔法を使えない。いつもより魔力の戻りが遅い、って言ってたな。それなのに兄さん酷い。
「大丈夫ですよ。だいぶ戻ってきましたから。まあ戦闘は任せますけどね」
「ふん、ローズと寝た罰だ。……大きくなってから一緒に寝るなんてできてないのに……」
したいらしい。私は素面でそれは無理だと思います。年齢考えましょうか。例え兄妹だとしてもさ!もういい年だよ?
「みんな行けるかー?そろそろ出発したい」
「ご、ごめんなさい……私、もう少し、もう少しだけ休みたいです……」
「あんな飲むからですよ。ほら、どうです?」
ミーシャは二日酔いだ。ミーシャも酔ってたんだよね。なんか見たかったかも。覚えてないのが悔やまれる!
そんなミーシャに苦笑して、ノアが回復魔法をミーシャにかけた。
いや自分にかけようよ。ミーシャならたぶん兄さん治癒魔法使ってくれたと思う。
「えっ!わっ、ありがとうございます!……ノアさん、自分にかけた方が良かったんじゃないですか?」
うん、その通り。ちょっとよく考えてからするべきだったよ……。
「僕は大丈夫です。慣れてますからね。ローズは聞きましたよね?人食いの習慣のある村の罠に嵌って、逃げられないように両足を切り落とされた話。あれは辛かった。切られた時もキツかったですけど、逃げてる時が一番辛かったですね。揺れるたびに全身に激痛が走るんです。でも止まるわけにはいかない、見つかるから声も出せない。なんとかしようと無意識に回復魔法をかけるんですけど、そのせいで気絶もできなくて。ミーシャは旅もほとんどしたことないでしょう?慣れてないんですから、先です、あ、まだありますよ。聞きます?」
あったな、そんな話。いつだったかな。ナラルさんから聞いたのは覚えてる。
じゃなくて、慣れてる慣れてないの話じゃないでしょ。
「い、いいです!大丈夫です!ありがとうございました!」
いきなりそんな話されても困るよね。最近は無くなったけど、村でされてたな。懐かしい。村にきた理由とか。あれは反応に困った。
「行けるか?」
「もちろん」
●●
兄さんが何かを警戒するように辺りを見回すようになった。なんだろう。なんにも言ってくれない。
目つきが険しいから何かあると思うんだけど。
「うーん。なんか嫌だな、嫌な感じがする。シンくん。何かわかるかい?」
ナラルさんが聞いてくれた。ナラルさん、こういう第六感っていうのかな?それがすごいから。これが慣れ、か。
私は何もわからないし感じない。ミーシャもキョトンとしてる。ノアは……顔色悪いなぁ。
「……嫌、というか。同じ気配がします。向こうは……何なんだろう、気がついてはいるみたいだけどな。離れようともしない。近づこうともしない。一定の距離を保ってる。まるで……何かを伺ってるような……」
同じ気配。何のことだろうか。ルス教?
「同じ気配、か。光魔法の?ルス教かい?」
「いやそれは……たぶん、違うと……わからない。これは…………クソ、力量差がそこまでないってわかっててわざと場所を特定させてやがる。ルス教の関係者ならとっくにこっちきて一戦始まってますね。だから違う。光ならローズのはすぐわかるから」
魔力を隠すとそういう属性を分かりづらくすることができるみたいなんだけど、私はそれが苦手。普通相手の属性がわかる人なんていないし、バレることなんて滅多にないから大丈夫なんだけど光属性の人は別。光属性で弱い人なんてそんなにいないらしいんだけど、弱い人以外にはわかっちゃうんだって。相反する属性だからかな?
ルス教信者で光属性の人は今まで2人、追いかけてきた。兄さんが返り討ちにした。殺してはない。ただ、魔力奪って魔法を使えなくしたって。……酷いね。あれ?兄さん魔力取ってるのにあの人たちは大丈夫なのかな?光で取るのと闇で取るのとではまた違うのかな。
「警戒はしてます。しばらく様子見で」
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