第11話 僕のせいではないですよね、これ。
ノア視点
「あー!おねーさま1人で何飲んでるんですか〜?おんなじののみます〜!」
「もー飲んじゃったからないの〜。あははははざんねーん」
ローズが酔った。
顔を赤くして、いつもなら見せないだらしない表情をしている。
ていうかこの場にいる僕以外の3人はみんな酔ってるんじゃないか?突然ゲラゲラ笑いだしたり、大声を出したり魔法を使ったりするから止めるのが大変。
「もっと前に止めるべきだった……」
彼女が酒を持ってきた時点で飲むのは止めておくべきだったな。最近飲めてなかったからつい自制心が効かなかった。それにシーナが持ってきた数々の酒の中に、一度飲んでみたかった酒があったのもよくない。美味しかった。
僕も少しは酔ってたんだろうな、ローズ抜きにして3人で盛り上がり、後ろでどんどん瓶が空になっているのに気がつかなかった。
「何そんな顔ひてんのよー!ホラぁもっと飲みらさいよ」
シーナも酔ってる。いつもなら僕に触ろうともしないし憎々しい視線を向けてくるのに今は僕の肩に手を回し、空の瓶を顔に押し付けてくる。
「もうやめておくべきですよ、貴女もミーシャも、ローズも」
「なによ〜!わらひの持っへきた酒が飲めらいってのかー!!」
……シーナは酔うとウザ絡みをするらしい。呂律も回ってない。そもそも空の瓶から何を飲むっていうんだ。
「じゃーこれ!これ飲んで〜!」
今度はローズが瓶を突き出してくる。中身は入ってる。でも底にちょびっとだ。部屋に転がる空き瓶はもう片手じゃ数えられないくらいある。
お兄さんに見つかったら怒られそうだ。そろそろ本当にやめないと色々やばいと思う。今までバレてないのが不思議なくらい。ミーシャとローズは特に何も言われないんだろう。でも僕は?前から何かと言われていたし、僕が旅に誘ったのも始めは反対していたし。
まあ何か言われるのは全く気にならないんだけど、今回は実力行使されそうだから怖い。僕の実力でシンの魔法を防ぐことなんてできないからね。
「飲みません。そろそろお開きにしましょう。お兄さんに怒られますよ」
「う〜……にーさんに怒られるのはやだなぁ。……うん、やめるぅ。怖いもん」
「シンさんこわーいですもんねー!はいっ!私もやめますっ!」
「え〜もー飲まない?う〜ん……うーん……じゃあやめる。シーナ、片付けしまーす!」
しまーす、と続けてローズとミーシャも部屋に転がる瓶を集め始めた。
「わーこのびんの色きれー」
「見てください!底が厚いです!」
途中までやったと思えばすぐに脱線して止まってしまう。これじゃあ朝まで終わらない。
回復魔法って酔い覚ましに効くんだったかな。
「とりあえずローズを……」
「女神!あぶない!」
と思って放った魔法はローズには届かずシーナに当たる。
回復魔法の難点って人指定できないことだな。触れるか飛ばすかしないと使えない。
だからこういうことが起こる。
「……あれっ。なんかスッキリする。……うわっ」
でも魔法は効いたみたいだ。酔いが覚めたらしいシーナは、部屋の惨状を見て顔をしかめた。
「……うわぁ……やっちゃったよ……女神がお酒弱かったなんて……」
「ねーシーナぁ、前から気になってたの、きーていーい?」
頭を抱えるシーナにローズが近寄り、こてんと顔を傾げ問いかける。
「わぁぁぁぁぁあああああああ!?やばいっ、何これ何これっ!可愛いっ、最高っ、素敵すぎるっ!!何!なんですか!なんでも答えます!!」
このおかしいのは彼女の平常運転。知ってる。なら酔ってるのとあんまり変わらないな。
悶えるシーナの後ろに見えるミーシャは床に座って空き瓶を一直線に並べる作業をしている。
「あのねー、女神って言うでしょ〜?なんでかなー、って。だってぇ、シーナ、てんせーしゃでさぁ、ローズ、あくやくって知ってるの。だからなんでー?思ったの」
ローズはよくわからないことを言っている。
早い所回復魔法かけて部屋に戻した方がいい。明日の朝早くに出発だし。……それわかっててなんで飲んだんだろう、僕。アホすぎる。久しぶりの酒で興奮したらしい。
「…………え?……え?まっ、えっ?」
あれ。シーナがおかしい。……いやおかしいのは元からだけど、今さっきまで笑顔で喜んでたのに今は呆然とした顔をしている。
ローズの言葉の中に何か彼女をそうさせる原因があったのか?それ以外考えられない。なんだろう。ローズ、なんて言ってたっけ。女神がなんとか〜しか覚えてない。
「ん〜私、眠い。寝る」
「おねーさま〜!私、一緒に寝たいですー!」
困惑顔のシーナを置いてローズはベッドへ横になり、ミーシャを手招きしている。
そこは僕のなんだけどな。自分の部屋に戻ってください。
「……どういう、ことなのか……さっぱり」
いつもなら、シーナもそこに飛び込んで行ってそうだったけど、今日はそれが目に入っていないようでブツブツ言いながら窓を乗り越えて去って行ってしまった。
僕もどういうことなのかさっぱりだ。
確か毛布がもう一枚あったはず。それを敷いて寝よう。でも寝る前にこの瓶の残骸を片付けないとだな。
「のあ〜!寝よっ!」
「片付けたら寝ますよ」
「だ〜めっ、今寝るのっ!ここでね!」
床に転がる瓶に手を伸ばした時だった。
何かに捕らえられ、体が宙に浮く。伸ばした手は瓶に届くことなく空振ってしまう。
気がつけばベッドの上。ミーシャとは反対側のローズの隣にいた。
「いやあの。僕別の所で寝るので離してください」
「やだ〜。おやすみ」
「はーい、おやすみなさーい!」
僕をここに運んだのはローズの影だ。前に村でローズの部屋に入ってしまった時にかかった結界と同じもの。
……同じもの?
やばい。魔法が使えない。抜け出せない。あの時よりは軽い拘束だけど、上半身は完全に固められてるし、首にはローズの腕ががっしりと巻きついている。
「ちょっ、ローズ!今すぐこれを解いてください!」
「んぇ……?とく?とーく。トーク!……でも今眠いから明日にしよ?おやすみ、ノアも寝な?」
眠くなってきた。これもローズの魔法?抗えない。闇の魔法ってこんなも……の……。
「どうなってるんだ!ローズ!起きろ!!」
「……へっ?えっ!うわっ、えっ!何!どうなってるの!?これ私何したの!?」
「どうしたんですか……ってノアさんぐるぐる巻きですね!これお姉様がしたんですか?なんかノアさん顔色悪いですけど」
「ああもう!おいノア!起きろ!!……ローズ、魔法を解け。他人が無理に解くと危ないやつだ。なんでこんな魔法使った?」
「覚えてない……昨日……昨日は……何してこうなったんだろう……怖っ、なんにも覚えてない」




