第8話 そんなにわからないものですか?
「旅人さん達知ってる?どこか近い街で闇の魔法を使う女が暴れて逃げたんですって。青いドレスで銀髪の女!高笑いしながら仲間を大勢連れて去っていったって」
「ぐふっ……そんなことがあったんですか。怖いですねえ。今どこにいるんでしょう」
こいつ笑いやがった。
できるだけ街とか人が多くいる所には寄らない方がいいんだけど、どうしても食料とかは買わないといけないし、情報を集めるのには街に行かないといけないから仕方なく寄っている。
今回も止められることなく街に入り、普通に買い物をしている。
今いるのは私と兄さん、ノア、ミーシャの4人。ナラルさんは前に使ってた短剣を、新しいのを買った時から荷物の底に入れっぱなしにしてしまって錆びたらしく、1人で鍛冶屋に行った。
「さぁねぇ。ルス教が追いかけてるらしいですよ。なんでも光魔法の方々総出で。怖いですよねぇ、早く捕まってほしいよ。何をするかわかったもんじゃないもの」
「……そう、ですね。あ、その野菜もください」
「生物は保たないけど大丈夫?そうだ、お兄さん達カッコいいからオマケしちゃいましょ。このお芋、1年くらい放置しても保つ上に煮ても焼いても美味しいのよぉ」
ニコニコと笑う八百屋のおばさんは、私を見ても男としか認識していないらしい。いいことではあるけど嬉しくない。いやいいことでもないな。
胸だって少しはあるわけで……何も巻いてないんだよ?素の胸ですよ?でも男って思われるってさ……あっ、ハイ。ないってことですね。
「ありがとうございます」
「いいえ〜。お嬢ちゃんいいわねぇ、こんなお兄さん達に守ってもらえて。お兄さん達もお嬢ちゃんが可愛いからって手出しちゃダメよ?」
あはは、と苦笑いしておばさんに手を振り、その場を後にする。
離れるなりノアは笑い出し、兄さんとミーシャは文句を言い出した。
「ぶっ……お兄さん、カッコいいお兄さん。……くふふ、笑っちゃいますね、ロゼ」
「バレないに越したことはないのはわかってるけど納得いかない。なんでわかんないんだ。男物の服着てるだけだぞ……?」
「カッコいいのは当たり前です!わかりきったことをわざわざ言う必要あります?」
ロゼは私のこと。ローズとあんまり変わらないよね。シーナが考えたやつだし別に文句はない。ノアよりはいいかな、って。
だってノアの偽名、マサオだよ。こっちじゃ珍しい感じの名前ってだけだけど、前世がある身としてそれはない。呼ばれてるたびに笑う。マサオって顔じゃないもん、ノア。
兄さんはルア、ミーシャはクロワ、ナラルさんはオルマ。こっちは普通。兄さんだけ女っぽくて決まった時ちょっと不機嫌だったな。
「笑い事じゃない。他人事だと思いやがって……」
マサオのくせに。
「まあいい。ロー……ゼの良さがわからないならただの可哀想な人だし、もう過ぎたことだ。よし、食料は買ったし……後は調味料だな、塩が切れそうだった」
「そうですね、そう思うしかないです。もう会わないであろう人に怒ってても無駄ですしね!」




