第6話 なるほどわかりません。
高まる緊張感、睨み合う兄さんとエスペラール。
魔力が動いてるのはなんとなく感じてる。でもそれは魔法として効果を発揮していない。
それ以外私は何がなんだかわからない。
「そういうことか。でもそれを俺が許すと思うのか?そもそもの話、それを防げないとでも思ってるのか?」
「防げる防げないの話ではありませんねぇ。どれかは知りませんが貴方では無理だと断言しましょう」
何の話です?
兄さんのはわかるんだ、エスペラールの闇魔法を自分は防げるぞ、って言ってる。じゃあエスペラールは?どれかわからないって何がどれ?
「はっ、大した自信だ。自信だけじゃそのお嬢様のお望みとやらは叶えられないぞ」
兄さんがゆっくりと魔力を集め始めた。待てこれは転移だ。こんな近くにいるんだからどんな用途で使われるものなのかくらいはわかる。ようになった。長距離転移には多量の魔力を使うし、他の魔法より複雑だから。
「自信を持つだけの実力はありますから。そうでなければお嬢様をお守りすることなどできません」
バチィッ!!
と目の前で火花が散る。エスペラールはそれを見て一瞬だけ不思議そうな表情をした後、今までより険しい顔になった。
「……まさか、いえ。あり得なくは、ありません」
「お前もしかして、相手の魔法属性知ることさえできないのか?だからそんな態度だったのか。どうでもいいが、そんなんで実力あるだなんてよく言えたな。もう行く。追いかけてくんなよ、面倒だから」
あ、わかったかも。
兄さんの言ってるようにエスペラールは兄さんの属性を知らなかった。だから闇属性の魔法を対処できるとは思っていなかった。闇を1番よく抑えることができるのは光だからね。逆もそう。
それに光も闇も数少ない属性だからまさか兄さんが光属性だとは思わない。
うんうん、わかったぞ。
なんて考えてる数瞬で兄さんは転移の魔法を使ってしまった。止めようと思ってたのに何やってるの私!
さっきいた、戦闘で荒れた場所じゃなく、どこか森の中。それだけでだいぶ離れてることがわかる。近くにノアとミーシャにナラルさんが見えるけど3人に声をかけるより先に言うことは、
「兄さん!転移は駄目って言ったのに!」
「あそ……っく、ぅ…………あそこから、逃げるのには1番いい手段、だった。あいつは、強い。後めんどくさい。色んな意味で」
最初はなんともない表情だったのに、すぐに苦痛を耐える表情に変わった。……真正面から見たことなかったな。すごく、ものすごく辛そう。
「だから、駄目って言ったのに……」
「なんともないよ。ローズが守れたのならそれでいい」
すでに治癒したらしく、優しい笑顔で私の頭を撫でてくる。
なんともないわけないのに。あんなに辛そうな顔、させたくないよ。
「シンさんはアホですか?バカですか?それじゃあお姉様の心が守れてないです。お姉様、大丈夫でしたか?ノアさんがいたので心配はないと思ってましたけど、まさか1人残るなんて思いませんよ」
「気持ちだけが大きくなってるんだなぁ、シンくんのそれは」
「本人がそれでいいと思うのならいいんでしょうけど、ローズの場合身内が傷つくと悲しみますからね。それを良しとするとは……口だけなんですか?」
3人にも言われてる。
この転移のことは、前からこういうようなことを言われていた。それでも兄さんは『治癒すればいいだけだろ?治癒できるんだから代償なんてないも同じだって』と言って止めても転移を使っていた。
「……ローズが心配してくれるのは嬉しい。悲しませることになってるのは、悪いと思ってる。でも俺が転移使ってるのは本当にやばい時だけだろ?今回だってやばかったんだって。あいつ、相手の属性察せないのに俺くらい強い。俺くらいってことは俺よりは強くないってことだからな、俺の方が強い。でもあいつの狙いはローズだった。守りながらだとどうなってたかわからない。だから、転移使ったんだ」
「僕ここに連れてくる時も使ってましたよね。面倒だからいっか、なんて言って」
「ノアさん、そういうのは黙っておくべきですよ。逃げ道なくなるじゃないですか」
事あるごとにいつでも使ってると思う。治癒で治せるとはいえ、治すまでは痛いし辛いはず。転移するたびにそんなことしてたら、いつか壊れちゃう。
いつもやばい時なはずないし。
今回はそうだったとしても、ね?エスペラールが兄さんほどに強くても、いつもいつもエスペラールほどの脅威があるわけじゃない。
え?エスペラールが兄さんほど強い?
「兄さんほどの実力ある人が私狙いで……?」
自分の方が強いと何度も言う




