ファイナルゲーム
残り1分。でも諦めない
「ごめん。また私のせいで」
「いやいいって。俺が教えてなかったんだし。この試合終わったら、一緒に練習しような?」
「う、うん」
タイムアウトを取ってどうするかを決めているのだが、雪穂の顔色が優れない。こればっかりはどうしようも無いのだが……。終わったらどっかのファミレス入って騒がないとダメかな?
もちろん祝勝会でだけどな
「で、どうするの? 宏も出れないとなると私達二人でやる?」
「それしかないのかなぁ……」
こっちが二人で一人空いちゃうけどそういう練習だってあるから……。いや、練習じゃなくて試合だからきついな。
これを見越して宏を怪我させたのか……? 宏が突っ込まなかったら怪我しなかったのか。分からない
「あ、あのさ。私ではダメなのかなぁ?」
えっ? 皆同じ顔をして戸惑ったようにメリーを見つめる。いや、この子今日からバスケ始めた素人中の素人。キングオブ素人と言っても過言では無いような子なのよ? それを人数が足りないからって試合に出す? それじゃあ怪我しちゃうかもしれないし、そんな事はさせたくない。もっとバスケをしって、楽しめるようになってから試合はするものだ。基礎も出来てないのに、いきなり試合は危なすぎる
「でもさ、メリーってバスケ今日が初めてよね? だったら難しいんじゃないかな?」
「出来る。ううん、やってみせる。こうなったのも、私が悪いのもあるし」
その言葉で一つの事を思い出した。そう、メリーは彼女に掛かっていると言う呪いが今回の事を引起したと思っているのだ。以前から関係の悪かったので、別にお前のせいじゃないのに
精一杯俺達の役に立とうとしているのが目に見えて分かる
「お前のせいじゃないんだぞ? 別に気負って出る必要は」
「違うの。私やってみたい。それにね、ああ言った卑怯な人は嫌い。だからメリーにふぁーるになる事を教えて。やってみたい事があるの」
そう必死に主張するメリー。俺は周りの奴らへと視線を送るが、みんな微妙な顔をしつつも笑って頷いている。多数決なら絶対に負ける状況かよ
「仕方ない。メリーお前の力を貸してくれ」
「うんっ!!」
それから手短にだが教えてなかったルールとファールを教え、メリーにはこの試合に出てもらう事になった。とっておきの作戦と共に。
正直最初聞いた時にはびびった。でも残り時間を考えると仕方ないか。そういった冒険もしてみるべきだろ。最悪スリーポイントのオンパレードで
「へっ、勝負を捨てたか。せっかく応援呼ぶ時間やったのにさァ」
「残り一分か? これで負けたらお笑いもんだよな?」
俺の言葉にあからさまに機嫌悪そうな顔をする。ちなみにさっきのファールで、桐山のフリースローからゲームは始まる。もちろんシュートは入ってないので二回シュートするのだが
そしてその一回は後ろのボードとリングに何回か当たりながらもかろうじて入った。これで一点差
「桐山ァ!!」
「分かってます!!」
そういいながら二回目をシュートする桐山。しかしそのボールはシュートと言うよりも、ボードへの叩きつけに近い。ドンッと言う音と共に、ボールが弾かれる。
そしてそのまま風間は全力でダッシュして、そのまま掴み取り強引にゴールへとねじ込む。
「これで三点差かァ? こりゃ、勝負が決まっちまったなァ?」
「残り時間見てから言えよ」
ディフェンスに戻っていく風間に、嫌味たらしく俺が言う。
そして俺はそのまま真へボールを渡して、俺が真からボールを貰いドリブルを始める。
「真、失敗しても良い?」
「ダメに決まってんでしょ? 決めなさいよ?」
笑いながら背中を叩き、そのままゴールまで走っていく。メリーの方を見ると、わざわざハーフラインで止まっている。了解了解。お前は最後の最後で頼むわ
「行くぞッ!!」
自分のこれまでで最高とも言えるスピードを出して突っ込む。ハーフラインを超えた
もちろんメリーが来ないので、風間と桐山がディフェンスに来る。流石にダブルチーム(二人が囲んでディフェンスする事)は避けたいからな。しかも時間も無いし
「入るか入らないかは俺次第ってか」
「あァ?」
何を言っているか理解してない風間の事など気にも留めず、俺はそのままスリーポイントラインを踏み、そのままボールを持つ。
そしてそのままボールを放つ。もちろん桐山と風間は届くはずもなく、そのままゴールへと吸い込まれていく。
「スクープショット。練習中で、試合の成功率は五分って所だけどな」
「……ッ!! 調子に乗んなよォ!!」
だがまだ一点差。残り時間は二十秒ちょい位かな? 真と話してなければランニングタイム(シュートが入ったり外に出ても、時間を止めない事)でもう少し時間あったのにな
「メリー!!」
すぐさまゴールから福本が風間へとボールを出す。俺はあえてそれを追わない。メリーが絶対に出来るって言ったから。アイツはドリブルもシュートもまだ出来ない。でも彼女は自分に任せてくれって言った。
だからその想いに俺達は掛ける
「おいおい。幾ら勝負捨てたからって、これはふざけすぎだろ?」
「時間が無いので率直に。ルール上で許されてるからって、卑怯な事は良くないと思います。改めて下さい」
「はっ、何言ってんだか?」
「言う事は聞いて貰えないのですね?」
「当たり前だ」
はぁと深いため息を付くと、そのままメリーは風間を見つめる。時間がもう少しと言う所で再びメリーは口を開く
「それじゃあ私も一つだけずるをします」
「出来るものならしてみろってんだァ!!」
そう言った瞬間、メリーが消えた
そしてその後にはパシンッと言うスティールの音と、メリーが風間の背後でボールを叩く姿が見えた
「私メリー。今、アナタの後ろに居るの」
「なっ……」
「お兄ちゃん!!」
俺は言われる前に動いていた。ボールは真後ろに弾かれる形で飛んでいったので、俺はゴールを背に向けながらダッシュしてボールを拾う。しかし即座にそれに反応した福本が、俺の目の前へと立ちふさがる。
手を抜くなって言ったけど、ここくらい空気読めよ
「本当に手を抜かないでくれてどーも」
「兄貴後が怖いんで」
時間は……残り五秒!? さっさと打っちまう方が徳か?
いやでも……。うっし!!
俺は体をギリギリまで縮めると、そのままドリブルを続行して突っ込む。
「ッ!? ダックインだァ!? 福本ォ、さがれェ!!」
「えっ!? はい!!」
急いでゴールの方まで戻ろうとする福本。だが俺はそのまま直進なんかしない。
フッと息を吐きながら、ボールと共に後ろへ下がる。もちろん体は起こしながら
「俺、ぶっちゃけスリーポイントの方が入る気するんだわ」
「おまっ、その為に……」
そのまま俺はスリーポイントラインからボールを放つ。ゆっくりと流れていく時間。後ろの方で何かが聞こえてくるけど、俺はそんな事は気にしない
最後までしっかりと指を伸ばし、後はボールを見るだけ。いや、見なくても分かる
ブザーが鳴り響くのと同時に、パサッとネットを揺らす音が同時に響き渡る。そして
「やったぁ!! やったよ智幸!! 勝った、勝った!! しかもブザービートで!!」
「前見たシュートよりも、今の方が綺麗だった!! しかもスリーポイントまで決めて!!」
「おいおい。俺が言えた義理じゃねぇけど、皆も活躍しただろ? 智幸だけ褒めるなよ」
俺とメリーはそんな三人の姿を見ながら、笑顔でハイタッチしたのだった。
後ろを振り向くと、さっきまで同じようにバスケしていたはずの風間達の姿は遠くへと行っており何も言え無かった
―――――
「んで、一緒に居た二人が謝りに来たんですか?」
「まぁな」
後日結局あの二人がこちらに来ただけで、風間は何もしに来なかった。しかし当分の間はちょっかいを掛けて来ないそうだ。自分が余裕で勝てると思っていたのに勝てなくて悔しがっているとか何とか。
最後に使ったメリーのスティールは、どうやってやったか聞いても教えてくれないので盗みようが無いし。結果としては勝ったけど、色々もやもやする事の多い試合だった。
宏はあれから三日ほどで足の捻挫が治った。今では普通に練習に参加している。雪穂はバスケットボールのルールブックを買ったそうだ。これから試合に出る為には、ルールは最低限把握しないといけないからと
それで肝心のメリーはと言うと
「あっ、そうだ!! 今日付いて来てもらっても良いですよね?」
「あぁ皆も一緒に来るって言ってたぞ? お前のバッシュ選びに」
当たり前だが消える事も無く、俺達と一緒に変わらない学園生活を送っている。試合が終わった日は、自分のせいで皆が不幸になりかけたと塞ぎ込みそうだったが俺達が話した甲斐もあって別にどうにもならず今は笑っている。
それで今日は、代用品では無く自分のバッシュを買うんだと意気揚々と学校に来ていた
「おーい智幸、メリーちゃん。置いてくぞぉー?」
「智幸、ちょっとルール教えて欲しい所があるんだけど?」
「ちょっとアンタいつまでメリーと話してる気よ?」
結局何かが変わるには時間が要るような気がする。風間の事もメリーの事も。
とりあえず今は、少しだけ変わった環境に慣れるのが先……。いや、もう慣れちまったな。この空気には
「よっし、メリー行くか?」
「うんっ!!」
俺はメリーの手を取って皆の待つ扉へと歩き出した。これから来る新しい変化に、自ら身を投げるような気持ちで
と言うわけで完結です。このお話を読んでくださった方に感謝です。
やはりメリーさんを沢山前に出したかったんですが、彼女はド素人ですしね。もし続編か短編を書く機会がありましたら彼女を最初から試合に出したいです。
ここで解説ですが、メリーはどうやって後ろに回りこんだの?
それはメリーさんの電話と言う話を元にした能力と言う事で。今まで電話で話していたはずの相手が、いきなり今アナタの後ろに居るのとか超能力的な何かしかないですよねw
まぁそれは一つのギャグだとして処理してください。
本当はドリブルも風間の前に立って、直ぐに背後に消えるってのも考えたんですけど流石にやりすぎかなと思ってやめました。
さて、短いあとがきですが今後とも他の作品をよろしくお願いします。
読んでないと言う人には、ぜひこれを機に読んで欲しいと思います。そして最初に言っていた足りない描写の正体が分かるのでは? (紅の術者とかね)
それではまた何かの機会に




