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よろずの運び屋ディルモット  作者: ハマグリ士郎
chapter2 奴隷オークション編
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第五十話 【合成魔獣】



「助かった! これで何とかなるかも知れねぇ!」



 黒い長銃を肩に担ぎ、ダジエドは玉座の奥を指差した。



「あれが勝手に突っ走りやがったんだ! 上には化け物がいるってのによぉ! 馬鹿だと思わねぇか!?」



 怒りで興奮気味のダジエドを抑えつつ、ディルモットは頬を掻いて状況の整理をしていた。


 あいつというのは、リーシェのことだろうか。


 裏のオークションに興味があるらしいが、何故このような事態で逃げなかったのか不思議でならない。



「運び屋ばかり──一体何だと言うのだ」



 悪態を吐くのはジークフリードだ。


 アールスタインも呆れた様子だが、ダジエドは頭を振った。



「上に行くなら今しかねぇ。上は燃えてねぇんだ!」


「ならその人を連れ戻せるんじゃないの?」


「連れ戻せねぇから言ってるんだろうが」



 アールスタインの疑問はもっともだが、どうやら深い事情があるらしい。


 肩を竦めてため息を漏らしたディルモットは、玉座の奥まで進み、上へと続く階段を見上げた。



「……屋上か」



 続いて歩いてきたジークフリードが呟き、眉をひそめた。



「……この感覚……それに魔力の光──一人ではないのか?」


「一人じゃない……?」



 ジークフリードの口から出た言葉に、ディルモットが凄まじい早さで階段を駆け上がった。



「ちょっ、ディルモット!?」



 アールスタインの声が聞こえたが、無視だ。


 ジークフリードが言うことが本当ならば、事態はさらに深刻化したものになっているはずだ。


 勢い良く駆け上がって屋上にたどり着くと、ディルモットは舌を打って顔をしかめた。



「赤い炎と、青い炎……」



 殆ど燃えていない最上階という名の屋上に出たディルモットは、周りを明るく照らす炎に息を飲んだ。


 美しい赤と青の炎に包まれ、見晴らしの良いこの場所だけ何故か黒煙などなかった。


 床に赤絨毯が敷かれ、その先を目で追えば、小さな段差に元凶はいた。



「なんということだっ!」



 ディルモットよりも先に驚いたのは、後からたどり着いたジークフリードだ。


 アールスタイン、ダジエドという順に上がってくると、二人とも口元を押さえ絶句してしまう。



「……合成魔獣」



 ぼそりと呟いたのはディルモットだった。


 別名キメラとも呼ばれるキーワードは、元凶にピッタリの言葉といえたのだ。



 ヴェルザと思わしき人物の胸が穿たれ、そこにすっぽりとハマる異様な心臓──魔臓器。


 赤黒い触手を幾重にもうねらせ、ヴェルザから血と精気を絞り尽くそうと様々な箇所に刺さっている。


 しかし、飲み込まれていたのは彼だけではなかった。



「アレク!」

「リーシェ!!」



 アールスタインとダジエドが同時に叫ぶ。


 そう、ヴェルザの頭に子ドラゴンのアレクが飲み込まれ、腰辺りにリーシェが飲み込まれようとしていたのだ。


 一人の人間から魔力を吸い尽くすばかりか、別の者からも取り込んで爆発的な存在になろうとしているのだ。



「まさかリーシェも火の属性とはねぇ。だからこんなに被害が拡大していた訳だ。そりゃあ厄介な筈だ」


「冷静に分析している場合ではないだろう。根本を叩かねば!」



 ジークフリードは指先に魔力を集中させると、ヴェルザの胸に向けて銃弾のように発射させた。


 水弾は凄まじい早さで放たれたが、赤黒い触手がたった一本うねらせてそれを弾き飛ばす。



「弾いただと!?」



 これには流石に困惑しているジークフリードに、後ろからダジエドが長銃を構えて前に出た。



「何発も撃ちこみゃあいいんだよっ!」



 そう言って連射したダジエドは、「おらおらおら!」と、力強く叫んで撃ち込んでいく。


 が、弾は易々と触手によって弾かれ、夜空へと虚しく消えていった。



「くそ、駄目なのかよっ!?」



 顔を引きつらせ、ダジエドは長銃に弾を込め直す。



「いや、物理も魔法も効くさ。問題は、魔臓器が成長し過ぎたってことだねぇ」



 一度対峙したことがあるディルモットは、冷静に語るが内心は焦っていた。


 魔法の弾も、実弾も効かないとなれば、一般人が奮うダガーなど簡単に折られてしまう。



「……アール。あの剣は?」


「持ってるけど、何に使うの?」



 ディルモットの問い掛けに、アールスタインは腰を漁り魔法剣を差し出した。


 それを首を左右に振って返すと、ディルモットは代わりに胸ポケットから赤い宝石を取り出し突き出した。



「これって、サルヴァンの……!?」


「自己強化だったか、使えそうな魔法なら物は試しさ」



 微妙な表情をして見せるアールスタインの横で、怪訝な顔をしたのはジークフリードだ。



「サルヴァンから奪ったのか。運び屋が盗難とは」


「盗みなんて人聞きが悪い。拾っただけさ」


「おいおい、それは盗人の決まり文句だぜ……」



 ディルモットの言い訳に呆れるダジエドだが、今はそれどころではない。


 よく見れば、ヴェルザの身体が少しずつ溶けていたのだ。このままでは、二人にもいつ被害が出るか分からない。



「で、でも……サルヴァンって魔法の詠唱はしてなかったよね?」


「確かに。何かキーワードがあるとは思っているけれど、それが何かまではねぇ」



 魔法剣を見つめ悩むアールスタインとディルモット。


 瞬間、足元から触手の鋭い突き攻撃が繰り出され、ディルモットは咄嗟に身をよじった。


 

「やっこさん、どうやら痺れを切らしちまったらしいなぁ」



 ダジエドは長銃の頭をスライドさせると、小さな鏃を出現させた。


 剣を一振りし息をついたジークフリードが、一度王子を一瞥して意を決したように口を開いた。



「……殺す」


「えっ?」



 騎士団長から出た思わぬ言葉に、アールスタインは一歩後退り眉をひそめた。



「明確な殺意を持って口に出せば、発動するはずです。あの男の鍵は、その一言ですから」



 ジークフリードは振り返らない。


 そんな言葉を王子に使ってほしくないのだろう。騎士団長ならではの想いか。



「ディルモット……」



 魔法剣に赤い魔法の欠片をセットし、アールスタインは彼女に剣先を向けた。



「あいつを、殺して!」



 明確な殺意を持って、力強く叫んだアールスタインに反応したのか、魔法剣から赤いオーラが溢れ出る。


 そのオーラはディルモットの足元に広がると、頭まで包み込むように上昇した。



「んぐっ……!」



 足元から頭まで一気に痺れが駆け抜け、ディルモットは息を詰まらせた。


 身体の奥底から込み上げてくる怒り。

 別の力が無理矢理に筋肉を膨らませ、凄まじい震えがディルモットを襲う。



「おいおいおい、大丈夫かよ?」



 呼吸を荒くさせるディルモットに手を伸ばそうとしたダジエドは、勢い良く手を払われた。



「言い忘れていたが、サルヴァンの魔法は自己強化でも何でもない。ただの暴走化だ。多用すれば死んでしまう」


「先に言って、欲しかったねぇ……っ」



 ジークフリードの小さな反抗に、咳き込みながらディルモットはダガーを逆手に構えた。



「いいか、リーシェを傷付けんなよ!」


「アレクも駄目だから!」


「はいはい。分かってるさ。じゃあ、本気で行こうかね!」



 二人に面倒臭いと思いつつも、ディルモットは鼻を鳴らして腰を屈める。



 魔力が増幅していく魔臓器が、一度大きく脈動すると、ヴェルザの右手がふわりと宙に浮いた──。





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